開戦
1994年 8月30日
会場を包む熱気は、真夏の空気そのものだった。
スーパージャパンカップ’94
予選 東京大会。
広い駐車場に車が滑り込むと、ドアが開くより早く声が弾けた。
「さあ、着いたわね!」
駐車場から会場を見上げ、ユリが声を上げた。
すでに入口付近は人であふれ、ミニ四駆を抱えた子どもたちと、大きな荷物を背負った大人たちが行き交っている。
「うおおー! 燃えてきた!!
俺のアバンテ、早く走らせてー!!」
「師匠!
さくっと終わらせて全国決勝戦でござるな!」
ジョンの車から、ユウ、コウスケ、ユリ、そしてジョン自身の4人が降り立つ。
(今年は間違いなく、去年より厳しい)
ユウは胸の内でそう呟く。
スーパー1シャーシ。
前年に登場した新世代シャーシは、従来型よりも明らかに駆動効率が高い。
後年のミニ四駆のアニメブームを待つまでもなく、すでにレースシーンでは主流になりつつあった。
今年の東京大会には、そのスーパー1シャーシを軸にしたマシンが大量に持ち込まれている。
ライバルたちの実力は、去年より更に高くなっているだろう。
「まずは車検からね。
準備ができたら皆で行きましょう」
ユリが仕切るように言う。
「ユリちゃん、今日はまともなの?」
「失礼ね!
いつもまともよ!
時と場所くらい選ぶっての!」
「師匠、拙者はコースの下見と販売コーナーに行ってくるでござる」
それぞれが準備を済ませ車検を済ませると、参加者はグループごとに振り分けられた。
「コウスケ、あんたまだタイプ2シャーシ使ってるの?」
「アバンテ好きすぎて、離れられない……」
「愛なのね……!!」
⸻
大会参加マシン
ユウ
ネオバーニングサン
FMシャーシ
前年から駆動系を徹底的に煮詰め、新発売されたGUPを効果的に投入。
安定性と速度を高い次元で両立している。
コウスケ
アバンテJr
タイプ2シャーシ
一世代前の設計ながら、現代に合わせた調整で食らいつく構え。
情報源はユウとコロコロとミニ四駆本。
ユリ
リバティエンペラー
スーパー1シャーシ
タイプ3から乗り換えた最新鋭機。
黄色と白を基調に、差し色の青。
例のセーラー戦士を思わせる配色だった。
⸻
グループは全員ばらばらになり、顔を合わせる余裕もない。
最初に走順が回ってきたのは、ユウだった。
コース脇にマシンを置いた瞬間、場内の一角がざわつく。
「あいつ、去年めちゃくちゃ速かったやつじゃない?」
「コロコロに出てたFM使いの人?」
「うわー……ユウ、有名人じゃん」
「師匠、コースでござるが特に問題ござらぬと思われる」
ジョンが静かに続ける。
「ハリケーンドームなどの仕掛けはあるでござるが、無視できるレベル。
レーンチェンジでダイブしなければ楽勝でござる」
「ありがとう。
予想通りだよ。
行ってくる」
レースの時間になり、ユウはスイッチを入れた。
スタート。
ネオバーニングサンは、吸い付くようにコースを駆ける。
速度は速い。
だが、それ以上に無駄がない。
「はえー!!」
「マジかよ……」
「何でコースアウトしないんだ!?」
マシンは一度も姿勢を崩すことなく、そのままゴールへ滑り込んだ。
圧勝だった。
しかし、歓声とどよめきの中でも、ユウは喜ばない。
レース後、彼はマシンを手に取り、タイヤの摩耗、モーターの熱、シャーシの歪みを黙々と確認する。
「師匠ぉぉ!
ナイスランでござる!」
「やるな、ユウ。
俺も負けねーぞ!」
「あたしも、みんなの注目集めちゃうんだから!
ぜってー、見てくれよなっ!!」
ユウの走りに触発され、2人も気合を入れてコースへ向かう。
今年の夏は、去年よりも暑い夏になる。




