送別譚
卒業式。
ユリの卒業式だ。
ユウは在校生として体育館の後方に立ち、卒業生たちの背中を見送っていた。
式の最中、ユリが何か突発的な行動を起こさないか、内心ハラハラしていたが――
どうやら相当きつく釘を刺されているのか、式は驚くほど厳かに、何事もなく進んでいった。
式が終わると、卒業生たちはそれぞれ親や友人に囲まれ、在学最後の時間を過ごしている。
ユウとコウスケは、自分たちの教室へ戻るため、廊下を歩き出した。
その途中だった。
「ユウ! コウスケ!」
鋭い声に呼び止められ、2人は同時に足を止める。
――!!
周囲の視線が、一斉にこちらへ集まった。
「ユリちゃんだ」
「コウスケたちと仲良いの?」
ひそひそとした声が耳に入る。
ユリは胸を張り、2人の前に立った。
「ユウ、コウスケ。今までありがとう。
私は中学校という遠い世界へ旅立つけど、あなたたちは元気に暮らすのよ。
私がいなくても、きっと大丈夫。自分を信じて。ファイト!」
あまりにいつも通りのテンションに、2人は苦笑いする。
「……冗談はほどほどにして」
ユリは、少しだけ声を落とした。
「本当にありがとう。
あなたたちといた時間、楽しかったよ。
もう、なかなか会えなくなると思うけど……
またどこかで会ったら、ちゃんと声かけなさいよね」
そう言って、ユリは背を向けた。
コウスケが、ぽつりと呟く。
「ユウ、ユリちゃんって……まともなことも言えるんだな」
「……なんか、寂しくなるね」
その言葉に、否定も肯定もできなかった。
⸻
翌日。
ミニ四駆コースに着くと、コウスケがこちらに気づいた。
「あ、ユウ。お前も来たのか」
「うん、何となくね……。
今日のコース、静かじゃない?」
「ああ……あの人がいないだけで、こんなに違うのか」
――あの人。ユリのことだ。
何だかんだで、その場を明るくしてくれていた存在。
卒業と同時に、この場所からも卒業してしまったかのような、喪失感に近い寂しさを、2人は感じていた。
「さて」
コウスケが、気を取り直したように言う。
「ミニ四駆走らせて、夏の大会に向けて、いっちょ頑張るか!」
その瞬間――
一輪の白い薔薇が飛んできて、ユウたちの足元に刺さ……らず、
ヒョロヒョロと頼りなく着地した。
「愛ある乙女に、桜もかなうまい」
突然の川柳。
同時に、白いタオルを頭に巻き、アラビア風の衣装をまとった人物が現れる。
「ウソ……だろ」
「昨日の今日だぞ……」
ユリだった。
こちらのリアクションなどお構いなしに、ユリは堂々と立つ。
「ユリちゃん……来たの?」
「何が悪いって言うのよー!」
「だって昨日、もうなかなか会えないみたいなこと言ってたから……」
「あー、あれね。
Rが終わってしまう気持ちを述べただけよ」
「……え、ユウ。どゆこと?」
「セーラームーンの話だから、気にしなくていいよ」
「嗚呼!! 月影のナイト様!!
なんであんなに素敵なの!?
そう思わない?ユウ? ね?どう思う?」
……
ユリは、卒業から1日で戻ってきた。
――けれど、昨日までと同じではなかった。
2人は、いつものダルさを少しだけ懐かしく感じながら、
また夏に向けて走り出した。




