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ミニ四駆に悔いを残していたら過去に飛ばされたの巻  作者: さかざき


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20/20

躍進

いつものコースが併設された、みつば屋。

僕たちの溜まり場だ。


ユリに呼び出され、僕は1人で先に来ていた。


ユリはまだ来ていない。

店先の古いベンチに腰を下ろし、ミニ四駆のレーサーボックスを開く。


その瞬間、

ふわりと、視界を横切るものがあった。


一瞬、何かわからなかった。


しゃぼん玉だ。


「マーキュリースターパワー!!」


聞き覚えのある声。

振り向くと、制服姿のユリがやたらと慌ただしい動きでポーズを決めていた。


しかも季節外れの夏服。

寒さより再現度を優先するあたり相変わらずだ。


(あ、来たな)


「愛と知性の制服少女戦士!

セーラーマーキュリー!」


朝の駄菓子屋には不釣り合いな名乗りが響く。


「おはようございます、ユリ先輩。

今日はムーンじゃなくてマーキュリーなんですね」


「あんた最近リアクション薄すぎ。

今はあみちゃんブームなの」


そう言って、ユリは満足そうにうなずいた。


ひとしきりふざけたあと、

彼女はふっと表情を切り替える。


「この前の話の続きなんだけどさ。

今年のジャパンカップ――あたし、最高の最終回にしたいの」


その言葉に、自然と背筋が伸びた。


ユリの言う“最高”は明確だった。


とにかく速く。

誰よりも目立つ。

ギャラリーの視線を集めて、できれば雑誌にも載る。


要するに、記憶に残るマシンにしたいという話だ。


「つまり、目立ちたいってことですよね」


「そこは要約しなくていい」


そんなやり取りをしていると、

背後から声がかかった。


「あれ?

ユウ? ユリ先輩?」


コウスケだった。


「何してんだよ。

遊ぶなら俺も混ぜろって」


こうして、ユリを速くするための即席講義にコウスケも加わった。


速さについては、迷わずスーパー1シャーシを勧めた。

駆動を良くするための工夫を、順に説明していく。


ユウ流のモーターの慣らし方。

ピン軸へのオイル差し。

ギアの面取り。

シャフト周りの干渉処理。

プロペラシャフトのピニオン位置。

モーターの位置出し。

ベアリングの脱脂。

ホイールの逆履き。

バッテリーの選び方と管理。


未来の知識があっても、これらが正解かはわからない。

これまでやってきた結果が、これだった。


「えー……ミニ四駆って、こんな面倒なの?」


「ユウ、お前のマシンが速い理由って、こういう事の積み重ねなのかよ」


文句を言いながらも2人は何度も質問し、やり方を確認し、少しずつ理解していった。


「速くする方法はわかってきたわ。


じゃあ次は、目立つためのメイクアップを考えてよ」


「発光ダイオードは抵抗になるしな…」


「やっぱカラーリングじゃないか?」


と、僕とコウスケが意見を出し合う。


確かに、前回のセーラームーンカラーを基調にした配色は悪くなかった。


そのとき、ユリがひらめいたように言った。


「ボディに絵、描くのは?」


(この時代、転写ってできたっけ……)


「それいいかも! どうだユウ?」


「ユリ先輩、絵描ける?」


「言っとくけど、セーラームーン描かせたら、あたしの右に出る者はいないわよ」


ユリは胸を張った。


「ジョンなら何か方法知ってるかもです。

うまくいけば、かなり目立ちます」


「まじ!? 超テンション上がってきた!!」


ユリはベンチの上で足をばたつかせた。


「俺はとにかく最高速アップだな」


「それは、僕が直接見るよ」


笑いながら言うコウスケの目も、ユリと同じように輝いていた。


爆速。

注目度。


目標は違っても、向かう先は同じだ。


ゴールの、その先。

表彰台。


夏に向けて、

僕たちはまた1歩、踏み出していた。

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