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ミニ四駆に悔いを残していたら過去に飛ばされたの巻  作者: さかざき


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16/17

余燼

ジャパンカップが終わって、世界は少しだけ静かになった。


9月。

校舎の影は長く伸び、上級生たちは「受験」や「進路」という言葉に追われ始めている。

教室の空気も、どこか落ち着かない。


あたしは、その様子を少し離れたところから眺めていた。

友達はいる。

昼休みに話す相手もいるし、帰り道が一緒になることもある。


でも、それだけだった。


喋って、別れて家に帰る。

そのあとに残るものは、何もない。

そんな関係に、いつの間にか慣れてしまっていた。


―――――


ミニ四駆を始めたきっかけは、ほんの偶然だった。


立ち読みした雑誌に、見覚えのある顔が載っていた。


緊張した表情で表彰台に立つ姿が、やけに羨ましく見えた。


それから、その子の遊ぶ場所を調べて様子を見に行った。

友達とああいう場所で、ああいうふうに笑えるのは、いいなと思った。

それだけだった。


ミニ四駆そのものに、強い興味があったわけじゃない。

これまでのおもちゃと、同じ延長線上にあるものだと思っていた。

一緒に遊ぶ理由ができれば、それで十分だった。


でも、その子たちと過ごす時間は、今までと少し違った。

笑ったあとに、何かが残る。

またあの空間に行きたい。


もしかしたら。

心から楽しめる友達ができるかもしれない。

そんな期待を、あたしは抱いていた。


―――――


大会の日。


あたしのマシンは、目立ちはした。

でも、結果はまるで振るわなかった。


冷静に考えれば、当然だ。

本気で向き合っていたわけじゃない。

勝つために積み重ねてきた時間も、知識も、圧倒的に足りない。


それなのに。


負けた瞬間、胸の奥がぎゅっと縮んだ。

思い入れなんて、なかったはずなのに。

どうしてか、悔しかった。


理由は、後からわかった。


ミニ四駆に負けたからじゃない。

あの場所に、まだ並べなかった気がしたからだ。


表彰台の上のユウは、遠くて、まぶしかった。

届かない存在みたいで、少しだけ悔しくて。

それでも、ほんの少しだけ嬉しかった。


―――――


祝勝会。


みんなが笑っていて、ユウが中心にいて。

あたしはその輪の中にいたけれど、ほんの少しだけ外側にいる気がした。


言いかけた言葉がある。


「次はあたしが勝つ。

それで、またここで祝勝会やるから」


「その時は…」


その時は、同じ場所で笑えるんじゃないか。

本当の仲間になれるんじゃないか。


でも、その言葉を口にするのが怖くて、やめた。

勝たなきゃ友達になれないみたいで。

そんなふうに思われるのが、嫌だった。


だから、何も言えなかった。



―――――


来年は本気でやろう。

ミニ四駆とちゃんと向き合おう。

そう決めた矢先だった。


「来年の1月か2月、アメリカに引っ越すかもしれない」

親から聞かされた言葉はあまりにも突然だった。


「まだ確定じゃないけどね」

その一言がだいたい確定を意味することを、あたしは知っている。


仕事の都合。

転勤。

誰も悪くない。


それでも胸の奥に溜まったものは、行き場を失っていた。


せっかく居場所ができた気がしたのに。


その時間が音もなく削られていく。


考えがまとまらないまま、なぜかあたしはこの最終話のタイトルを思い浮かべていた。


95年。

ジャパンカップ。

それが、多分あたしの最終回。


―――――


ユウに話そうと思ったのは、相談したかったからじゃない。

……本当は、相談したかったのかもしれない。


放課後。

風が少し冷たくなり始めた頃。


「ねえ、ユウ」

「もしさ、次のクールでレギュラーキャラが突然いなくなったら、どう思う?」


「……降板か、別れ?」


鋭すぎる返しに、思わず笑ってしまう。


「さすがね。予知能力でもあるの?」

ユウは困ったように笑ったけれど、視線は逸らさなかった。


「あたしね……」


少し間を置く。


「95年の大会で、たぶん最終回」


冗談みたいな言い方。

でも、目は一度も逸れていなかった。


ユウは、少しだけ考えてから言う。


「…最終回ならさ、最高のエンディングで終わらせよう」


―――――


「そうよね!」

あたしは、少しだけ笑う。

「中途半端で終わる最終回が、1番嫌い」


ユウに勝てるイメージは、まだない。

それでも、後悔が残らないように走りたい。

途中で消えるような、残念なキャラにはなりたくない。


「ねえ、ユウ」

「もし世界線が分岐して、アメリカ版スピンオフであたしだけ出番あったら、どうする?」


「……ちょっと、何言ってるのかわからないです」


「冷たい」


笑いながら言った。

胸の奥は、ちゃんと痛んでいた。


―――――


アメリカに行くのは、まだ少し先だ。

現実感は、正直ない。



それでもエンディングは見えている。


見えているのにまだ熱が残っている。


だから今はマシンと向き合う。

勝つためだけじゃない。

逃げなかったって、言えるように。




95年ジャパンカップ。

最終話。


「つづく」は、たぶん、もう出ない。

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