俯瞰
夜。
自分の部屋。
布団に横になり天井を見つめる。
もう何度目になるか分からない、この静かな時間。
最初は戸惑いしかなかった。
目を覚ませば1993年。
小学5年生の身体。
そして、43歳まで生きた記憶だけが、はっきりと残っている。
アニメみたいな設定だと笑うこともなく、
驚きすら長くは続かなかった。
――ああ、そういうことか。
不思議とすんなり受け入れてしまったのだ。
理由は分からない。
だが、この世界にはいくつかの「感覚」がある。
やってはいけないこと。
踏み込んではいけない領域。
不必要に未来を変える行動をしてはいけない、という感覚。
周りの人間の人生を大きく変えてしまう助言や選択。
ジョンの馬券の件が、まさにそれだった。
コウスケのスーパー1シャーシへの転換点も、同じだ。
頭の中に言葉が浮かぶわけじゃない。
ただ、「そうしなければならない」という信号だけが、静かに届く。
それは命令というより、
条件提示に近い。
目的は1つ。
FMシャーシで勝ち続けること。
それ以外の未来は、基本的に変えてはならない。
まるでそれが、
――ここに来られた条件であるかのように。
1つ1つの行動が、
OKか、NGか。
頭の中では、即座にジャッジが下される。
だから難しくはない。
ただ、深く考えようとすると、
思考そのものにブレーキがかかる。
考えるな、と言われている気がする。
今のミニ四駆界を頭の中で振り返る。
四駆郎のアニメ放送は、とうに終わっている。
第一次ブームは完全に去り、熱狂は過去のものだ。
自分がやってきた93年。
この頃のミニ四駆界は、完全な下火。
ジャパンカップの動員数も最低だった。
だが、未来を知っている。
94年。
第二次ブームの火付け役、
レツゴーの連載が始まる。
観客動員数も、目に見えて増え始める。
95年。
FMシャーシにとっての厄年。
あのパーツが出現し、
第二次ブームは、完全な形で到来する。
大会の動員数は、それまでの10倍近くに膨れ上がる。
96年は、あの――。
……やめておこう。
そこから先を考えると、
胸の奥が、少し重くなる。
だんだん、厳しくなってくる。
ユウは、これから起こる困難に、
どう立ち向かうべきかを毎日のように考えている。
だが、答えは出ない。
ネットもない。
スマホもない。
YouTubeもない。
チャットGPTも、この時代には存在しない。
未来の知恵袋は、すべて封じられている。
それでも。
この時代を生きている実感は、
決して悪くなかった。
懐かしい日々を目の当たりにして、
何だかんだで楽しんでいる自分がいる。
テレビから流れる音楽。
平成初期のJ-POP。
令和の歌よりも、こちらの方がしっくりくる。
ゲームも名作ばかりだ。
画質は荒く、システムも簡易的なのに、
何故かこの頃のゲームは、神がかっているように感じる。
テレビ番組もそうだ。
未来のレジェンド級の人気芸人たちの、
若々しいネタやトーク。
いつまででも見ていられる。
テレビの合間に流れるCMも、
どれも懐かしいラインナップだ。
つい口ずさんでしまうCMソングが、耳を離れない。
ただただ、懐かしい。
それにしても、カラダが軽い。
重い肩。
痛い腰。
スッキリしない頭。
それらが嘘のように、
羽のように軽い身体。
これが何より嬉しい。
ふと仲間の顔が浮かぶ。
コウスケ。
ユリ。
ジョン。
いつの間にか、集まった仲間たち。
正直に言えば、
この辺りの記憶は何故か曖昧だ。
当時の人生には、
存在しなかったはずの時間。
まるで、当時の記憶が、
意図的に消されているかのような感覚。
これも、
過去に来たことによる制限の1つなのだろうか。
ただ、
未来は、確実に動き始めている。
静かな夜の中で、
そのことだけは、はっきりと感じていた。




