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ミニ四駆に悔いを残していたら過去に飛ばされたの巻  作者: さかざき


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11/12

視線

予選の表彰が終わり、コースから少し離れた通路脇で、ジョンとユリは優勝者の帰りを待っていた。

人の流れから半歩外れたその場所は、不思議と音がくぐもって聞こえる。


ユリはマシンを膝の上に置き、静かにレースを振り返っていた。

ボディに指先で触れると、まだ微かに温かい。


ほんの少し前まで、このマシンは全力でコースを走っていた。


「……ちゃんと、走ったよね」


誰に言うでもなく、ユリは呟く。


もっと走れた気がする。

もっと速く――。


何が違ったんだろう。


思い返すほどに、悔しさがじわりと滲んでくる。


――やっぱり、すごいな。


同じ会場に立ち、同じ空気を吸っているはずなのに。

まだ、同じ場所には立てていない。


ユリは、マシンをそっと抱き直した。


次は。

次こそは。


その姿を見ながら、気温と人混みで汗だくになったジョンが、穏やかに口を開いた。


「ユリ殿は、凄いでござるな」


「え?」


「大会初参加で、あの走りでござる。

結果だけを見れば振るわなかったかもしれぬが……」


ジョンは一拍置き、続けた。


「ユリ殿の考える理想の走り、その片鱗は確かに見えたでござるよ」


ユリは一瞬言葉を失い、そして小さく笑った。


「……そっか。ありがとう、ジョン!」


ジョンは少し身を乗り出し、柔らかく言う。


「拙者とユリ殿はどこか似ているでござる」


「やめて」


思わず顔を背けるユリに、ジョンは小さく笑った。


その時だった。


「いやー、負けた負けた!」


間の抜けた声と共に、コウスケが頭を掻きながら戻ってくる。


「遅かったでござるな?」


「うん。売店で色々見てきた。……ところで、ユウは?」


そう言った瞬間だった。


茂みの向こうから、ぬっと影が現れる。


「うわ! お前、どこから出てきたんだよ!」


「いや……みんなに見つからないように……」


あまりにも自然な潜伏に、一同が唖然とする。


「師匠! いよいよ決勝でござるな!」


「まあ、ユウの安心感は仙頭さんや悟空並だから、何の心配もないよね〜」


ユリの言葉とは反対に、コウスケはユウの表情を見逃さなかった。


「……ユウ、緊張してる?」


不意に投げかけられた言葉に、ユウは少しだけ視線を落とす。


間。

ほんの一瞬。


「……うん」


正直な返事だった。


走ることよりも、勝つことよりも。

大会後に待っている、人の波。

向けられる視線。

囲まれる感覚。


それが、真っ先に頭に浮かんでいた。


「大丈夫、大丈夫!」


ユリが勢いよく背中をバシッと叩く。


「あたしたちが守ってあげるから!

マモちゃん命のあたしに任せなさい!」


「しかし……」


ジョンが周囲を見回す。


「すでに注目されているでござるよ」


実際ピット周辺では、ひそひそとした声が飛び交っていた。


「あのFMシャーシ、また全国まで来てるぞ……」

「前回の優勝者だろ?」

「仲間も相当速いぞ」

「あのアバンテ、かっこよかった……」


ユウが顔を出しただけで、空気が変わる。


そのざわめきを切り裂くように、ミニ四ファイターがマイクを取った。


「さあ、参加者のみんな!」


スピーカーから聞き慣れた声が会場に響き渡る。


「全国決勝戦、まもなく開始するぞ!

マシンを持って、スタンバイするんだ!」


一斉に歓声が上がり、会場が揺れる。


「いよいよだな……」


コウスケが小さく息を吐いた。


ジョンは無言だった。

だが、その視線は確信に満ちている。


ユウはマシンを手に取った。


FMシャーシ。


コースに立ち周囲を見渡す。


スーパー1シャーシが大半を占める中、

FMシャーシは――ある。


それは偶然ではない。

ユウ以外にもFMシャーシを選び、全国まで辿り着いた者がいる。


同じ選択をした者たち。

同じ賭けに出た者たち。


――決勝戦。


「今年も、日本全国から予選を勝ち抜いた強者が集まった!

全国一を決める戦い、今、始まります!!」


ミニ四ファイターの叫びと共に、決勝戦の幕が上がる。


参加者は3ヒートを走行し、最速タイムを記録したレーサーが優勝となる。


初っ端から、ユウの出番だった。


スタート台にマシンを置く。

指先が僅かに震える。


(……いつも通りでいい)


視線が集まり、音が遠ざかる。


残ったのは、

目の前に伸びるコースだけ。

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