予選
――多い。
ピットに並ぶマシンの中に、FMシャーシが思いのほか目につく。
最新のスーパー1シャーシ一色になると思われていた予選会場で、あえて旧世代とも言えるFMを選ぶ参加者が、ちらほらと混じっていた。
「去年より、FM使い増えたよな……」
誰かの会話が耳に入る。
「そりゃそうだろ。
前年チャンピオンが使ってりゃ、真似するやつも出るさ」
その視線の先にあるのは、ユウ自身のマシンだった。
去年、優勝を飾ったFMシャーシ。
その印象は思っている以上に強く、深く、この世界に残っている。
やがて、コウスケの出番がやってきた。
空気が一段階、張り詰める。
コウスケのグループは、まるで博物館のようだった。
スーパー1だけでなく、FMシャーシ、ゼロシャーシ。
今では見かけることの少なくなった旧型が、堂々とスタートラインに並ぶ。
「うわ、タイプ2だ……」
「まだ使ってる人いるんだな」
ざわつく観客の声を背に、コウスケは黙ってマシンを置いた。
彼のタイプ2シャーシは、派手さこそない。
だが、徹底的に磨き込まれたシャーシと、無駄を削ぎ落としたセッティングが、静かな自信を放っている。
「……いける」
小さくつぶやいた瞬間、スタートの合図が鳴った。
マシンは開始直後から、意外な速さを見せる。
「速っ……!」
スーパー1に劣らないスピード。
タイプ2とは思えない伸びを見せ、直線では他の旧シャーシとの差を広げていく。
コーナーでは荒削りな挙動を見せながらも、踏みとどまる。
コウスケのマシンは、旧シャーシとは思えない加速で、先頭に躍り出た。
「速い……!」
観客席から、どよめきが広がる。
「タイプ2シャーシだぞ!?」
タイプ2シャーシの底力を、観客に見せつけるかのような力強い走り。
その姿に、どこかユウのマシンと似た風格を感じる者もいた。
「最強最速のアバンテが帰ってきた!
他を圧倒する、圧倒的なスピード!
過去の栄光ではない!
現在もその速さは健在だぁぁぁ!」
ミニ四ファイターの実況にも、自然と熱が入る。
派手な加速ではない。
だが、ラップを重ねるごとに、シャーシ剛性の弱さがわずかに顔を出す。
そして、ゴール。
「タイプ2シャーシで1位だ……」
「しかも、かなりいいタイム……」
コウスケは一度だけ、拳を握った。
続いて呼ばれたのは、ユリのグループ。
スタートラインに並ぶマシンは、全員がスーパー1シャーシ。
まるで申し合わせたかのような、最新鋭の布陣だった。
その中で、ひときわ目を引くのがユリのマシンだ。
鮮やかなカラーリング。
光を反射するボディに、観客の視線が集まる。
「すごい色……」
「目立つな」
だが走り出したマシンは、派手さとは裏腹に、実に堅実だった。
レーンチェンジャーで姿勢を崩さず、着地も安定。
コーナーでは無駄な減速をせず、丁寧にコースを駆けていく。
「いい走りだ……」
ユウは思わず、そう呟いた。
「安定感がある!」
「これは伸びるぞ!」
実況の声も弾む。
「派手な見た目とは裏腹に、実に手堅い走り!
ミスのないレース運びだぁ!」
1周、また1周。
確実にラップを刻み、順位を守り続ける。
しかし――。
最後の直線。
僅かに前を走るマシンとの差が、どうしても縮まらない。
全力を出し切ってゴールした瞬間、ユリは結果を悟っていた。
「……2位、か」
健闘だった。
ユリはマシンを抱え、悔しさを飲み込むように、静かに息を吐いた。
その後もレースは続く。
攻めすぎてコースアウトする者。
慎重すぎてタイムを伸ばせない者。
それぞれの思惑と選択が、結果となって突きつけられていく。
「……通過でござるな……」
ジョンの声が、微かに呟く。
東京予選。
優勝は、最速タイムを叩き出したユウのネオバーニングサンに決まった。
「東京予選大会優勝者、ユウ選手!」
ファイターの声が会場に響く。
その名前が呼ばれた瞬間、拍手が一斉に弾けた。
――まずい。
ユウの頭に浮かんだのは、その一言だった。
身バレ防止、身バレ防止。
テリー・ボガードのように深くキャップを被り、顔の露出を極力減らす。
表彰台の撮影が終わるや否や、ユウは素早く姿をくらませた。
この後すぐに、決勝大会が控えている。
ユウは、ジョンたちと合流するため、足早にその場を後にした。




