圧巻
1993年8月――神奈川県・横浜そごう
夏の日差しに照らされた会場には、スーパージャパンカップ’93の熱気が立ち込めていた。
地方大会から上位成績者が集められ、ギャラリーのテンションは最高潮だ。
…その中に、ひとりだけ周囲と雰囲気の違う少年がいた。
ユウ。小学5年生。
周囲の喧騒をよそに、地べたへ座り込み、ローラーを横から凝視してみたり、ホイールのブレ、ギヤの嚙み合わせを確認している。
使用マシンは黒く塗られたネオバーニングサン。
FMシャーシだ。
発売から2年経過したシャーシでありながら使用率は低く、マニアックな人間しか触らない癖の強いシャーシとして扱われていた。
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——しかし、彼にこのFMに並々ならぬ拘りがあった。
なにしろ彼は2026年から来ている。
実年齢43歳の未来人である。
「……駆動性、この時代ならこんなところか…」
口数の少ないユウは、誰に聞かせるでもなく呟く。
周囲の参加者たちはコースチェックやレースに夢中で、彼に気づいていない。
だが後にこの場にいた誰もが「あの大会は異常だった」と語ることになる。
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この時代のジャパンカップは、各地方大会から上位成績者が決勝大会へ集められる。
そこでタイムアタックを行い、最もタイムの速かったものが優勝となる。
決勝大会がスタートした。
ガリガリガリ! キュルルルル! ギュギャァァ!
93年特有のギア鳴りが会場を包む。
しかしそこに、ひときわ“静音”の走りがあった。
ユウのネオバーニングサンだ。
「……え、ちょっと待って。あれ音してる?」
「スイッチ入ってないんじゃ?」
「いや走ってる走ってる!! スーパー速いっ!!?」
どよめきが広がる間に、ユウのマシンは次元の違うスピードでコースを駆け抜けた。
他のマシンとは明らかに違う走りだった。
計測員が固まる。
「はぇぇぇ…」
「こ、これは……間違いじゃないか?」
93年のレベルを完全に超えた、未来スペックの駆動効率。
それは
“静かで滑らかな音”
“安定しすぎる走り”
という2つの異常性として現れた。
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運営スタッフが慌てたようにユウに声をかける。
「あ、あの少年。すまないが確認させてくれるかい?
ちょっと速すぎてね……いや、君が疑われてるわけじゃ……
いや疑ってるのかな……ちょっと中身を確認してもいいかな?……」
ユウはキョドりながら頷く。
コミュ症なので言葉が詰まり、何も言えない。
ただ黙ってマシンを差し出す。
スタッフは入念にチェックする。
モーター確認。社外品ではない。分解跡はない。
ギア確認、バッテリー確認、接点確認。
ギアボックスにビス止めがされている。……。
「……何も問題がない……」
「作りも丁寧すぎるくらい丁寧だ……」
「ただシャフトにワッシャーが数枚? プロペラシャフトが削ってある?……!?」
よく見るとギアが研磨されていたり、シャーシのシャフト干渉部分などが削られている。
更にあちこちに意味不明なテープが重ねて貼られている。
その異様な丁寧さと精度に、運営側が逆に困惑していた。
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観客たちはざわめき続ける。
「え? FMなの? なんで?」
「FMシャーシってそんな速かったっけ……?」
「いや、こんな静かなミニ四駆初めて見たけど!?」
「友達もFMなんて持ってないよ?」
「ちょっと売店でFM買ってくる!」
しかし、当の本人は周りとは対照的に、目立たないよう静かに奥へ引っ込む。
そして全ての代表者がタイムを測定し終えた。
タイム結果を見なくても、観客は誰が1番速かったかをわかっていた。
実況のミニ四ファイターから結果が報告される。
優勝はネオバーニングサンのユウ選手!!
おめでとうございます!!
同時に観客から、割れんばかりの拍手。
スーパージャパンカップ’93 優勝。
しかし、本人は淡々としていた。
未来から来た理由も、FMへの異常な愛情も、誰も知らない。
ただひとつ言えるのは——
この瞬間、のちに伝説となる
“静寂の怪物”が現れたということだった。
読んでいただきありがとうございます!
この物語は、少しだけ“普通じゃないミニ四駆”の話です。
まだ始まったばかりですが、これからどんどんスケールも関係性も広がっていきます。
リアルと違う部分もあるかと思いますがフィクションとしてお楽しみいただきたいと思います。
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