第29話 軍用人造邪鬼
叔父・重道の悪事は白日の下に晒された。
九条家への隷属契約、日野家の私物化、そして正統後継者暗殺の疑惑。
会場を埋め尽くす招待客たちの視線は、もはや軽蔑を通り越して、汚物を見る目に変わっていた。
「あ……あ……」
叔父は二階の回廊で後ずさり、ガタガタと震えていた。
終わりだ。当主としての地位も、九条家からの信用も、全て失った。
追い詰められた鼠は、猫を噛むどころか、自らの巣を燃やす暴挙に出る。
「……ええい、うるさい! 黙れ、黙れェ!!」
叔父は懐から、無骨な鉄製のコントローラーを取り出した。
それは魔導具ではない。軍の工場で規格生産された、工業用の遠隔操作端末だ。
彼がスイッチを押し込んだ瞬間、ホールの床下から地響きのような重低音が鳴り響いた。
ズズズズズ……!!
床板が跳ね飛び、地下搬入口から黒い影が次々と這い出してきた。
それは、鋼鉄の装甲板をボルトで固定され、背中に蒸気機関を背負った異形の獣たち。
帝国軍が対外戦争用に量産した「軍用人造邪鬼」の群れだ。
生物としての尊厳を剥奪され、脳に制御チップを埋め込まれた兵器。感情も知性もなく、ただ命令に従って殺戮を行うだけの動く鉄塊。その数、十体以上。
「や、やれ! 全員殺せ! 桜子も、その生意気なガキも、見て見ぬふりをした客どもも、全員だァ!!」
叔父の絶叫に応じ、邪鬼たちの眼にあたるレンズが赤く発光した。
ブフォォォッ!!
排気管から黒煙と蒸気を吐き出し、鋼鉄の爪を鳴らして客席へと突撃を開始する。
悲鳴が上がり、ドレスや燕尾服を着た客たちが我先にと出口へ殺到する。
だが、私は一歩も動かなかった。
眉一つ動かさず、その無粋な鉄の群れを見下ろす。
「……浅ましい」
私はため息をついた。
奥義書どころか、神魔を従える契約すら結べず、金で買った工業製品に頼るとは。
それが日野家の当主代行を名乗った男の末路か。
「ヒセツ」
私が名を呼ぶより早く、銀色の閃光が走った。
ドゴォォォォン!!
先頭を走っていた邪鬼の首が、たった一撃で胴体から弾け飛んだ。
切断面からオイルと蒸気が噴き出し、巨体が轟音と共に崩れ落ちる。
その向こうに、燕尾服を着たヒセツが立っていた。
彼は返り血一つ浴びていない。ポケットに手を突っ込んだまま、退屈そうに首を鳴らした。
「……おいおい、こんな鉄屑がお相手かよ」
ヒセツはつまらなそうに、足元に転がってきた邪鬼の首を蹴り飛ばした。
「魂の味がしねえんだよ、量産品は。噛みごたえもない」
残りの邪鬼たちが、標的をヒセツに変更し、一斉に飛びかかる。
蒸気機関が唸りを上げ、鋼鉄をも引き裂く爪がヒセツの身体を捉えようとする。
だが、遅い。
ヒセツにとっては、止まって見えるに等しいだろう。
ヒセツが笑った。
次の瞬間、彼の姿が掻き消えた。
ガガガガガッ!!
硬質な破壊音が連続して響く。
それは戦いではなかった。一方的な解体作業だ。
ヒセツは舞うように戦場を駆け抜け、すれ違いざまに素手で装甲を引き剥がし、駆動輪をへし折り、蒸気パイプを引きちぎる。
ブシューーーッ!!
白煙を噴き上げ、糸が切れた人形のように次々と崩れ落ちていく邪鬼たち。
最新鋭の軍事兵器が、神話の怪物の前ではただの玩具に過ぎない。
「弱え。脆え。……あくびが出るぜ」
ヒセツは最後の一体の顔面を片手で鷲掴みにすると、そのまま床に叩きつけ、握力だけで頭部を粉砕した。
グシャリ、と鉄がひしゃげる音がして、邪鬼は痙攣し、沈黙した。
静寂が戻る。
ホールには、鉄屑の山と、オイルの焦げた臭いだけが残された。
私はその中心に立ち、微動だにせず叔父を見上げた。
私のドレスには、塵ひとつついていない。
「……さて。私の番犬は優秀でしょう?」
私は優雅に微笑んだ。
二階の回廊で、叔父が腰を抜かし、へたり込んでいる。
彼の手からコントローラーが滑り落ち、虚しい音を立てて床に転がった。
「ひ……ひぃ……」
「さあ、叔父様。次は何を出しますか? それとも、ご自分で踊ります?」
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