第25話 死体ごっこ
「き、貴様ら! 何をしている! こやつをつまみ出せ!!」
演台を蹴り倒され、床に尻餅をついた叔父・重道が、泡を飛ばして絶叫した。
その怒号で、凍りついていた会場の時間が動き出す。
壁際に控えていた私兵団と警備の陰陽師たちが、一斉に武器を構えて殺到してきた。
「不法侵入だ! 捕縛しろ! 抵抗するなら殺しても構わん!」
銃剣の冷たい光と、陰陽師たちが練り上げる術式の輝き。
数百人の招待客たちが、悲鳴を上げて壁際へと退避する。
暴力の波が、ホールの中央に立つ私とヒセツに向かって押し寄せる。
「……おい、女王様。随分とモテるな」
ヒセツが私の腰に手を回し、楽しげに囁いた。
彼は武器も持たず、燕尾服のポケットに片手を突っ込んだままだ。それなのに、全身から立ち上るプレッシャーだけで、周囲の空気をビリビリと震わせている。
「私が相手をしてやってもいいが?」
「いいえ。貴方はただのパートナー(踊り相手)よ」
私はドレスの隠しポケットから紙人形の束を掴み出し、天井に向かって放り投げた。
同時に、事前にハッキングしておいた空調システムを最大出力で稼働させる。
ゴォォォォッ!!
四方の通気口から噴き出した圧縮空気が、ホール内に人工的な竜巻を作り出した。
「舞いなさい」
数千枚の白い紙人形が、暴風に乗って渦を巻き、視界を埋め尽くす白い壁となる。
それはただの目眩ましではない。
私の計算に従い、物理的な刃となって警備兵たちの頬を切り裂く、死の紙吹雪だ。
「うわっ!? なんだこれ!」
「痛っ! 顔が……!」
悲鳴が上がる中、私はヒセツの手を取り、ステップを踏んだ。
ワルツのリズムに合わせて、私たちは紙吹雪の中心で踊り始めた。
風の「目」である中央だけは、無風地帯のように静かだ。
カツッ、カツッ。
鉄芯入りのヒールが床を叩く音が、音楽の一部となって響く。
ヒセツが私をリードしながら、耳元で低く囁いた。
「どうだ? 俺の手心地は。……あの死んだ旦那(彰)よりマシか?」
それは意地の悪い質問だった。
彼は、私がまだ彰を想っていることを知りながら、あえてその古傷を抉ろうとする。私の動揺を楽しもうとしているのだ。
私はヒセツの胸板に手を置き、妖艶に微笑んでみせた。
「ええ。冷たくて最高よ」
私は吐き捨てるように、しかし甘く囁き返した。
「まるで死体みたいで」
ヒセツが一瞬きょとんとし、それから愉快そうに喉を鳴らした。
私の皮肉が気に入ったらしい。
温かい手なんて、今の私には必要ない。
この冷たくて硬い、人外の手こそが、地獄を行く私にはお似合いなのだ。
――その様子を、頭上から見下ろす視線があった。
ホールの二階、バルコニーの影。
そこに、あのメイド――タマが立っていた。
彼女は手すりに身を乗り出し、眼下の惨劇を眺めていた。片手にはまだローストビーフの皿を持っている。
逃げ惑う人間たち、血を流す警備兵、そして中央で踊る黒と白の二人。
その光景に、彼女のガラス玉のような瞳が、とろんと蕩けるように細められた。
「……楽しい」
タマはフォークを口に運びながら、桜子を見つめた。
「ランタッタ、ランタッタ……」
タマは自身の唇についたソースを舐め取ると立ち上がる。
「踊らにゃソンソン」
そうして彼女はくるくるとその場を回り出す、その様は、風に吹かれる木の葉のように軽やかである。
会場では、まだワルツが続いている。
私はヒセツに抱え上げられ、回転しながら叔父を見下ろした。
へたり込んだ叔父の顔にも、無数の切り傷ができている。
さあ、次は貴方の番よ、叔父様。
金庫の中身について、じっくりとお話を伺いましょうか。
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