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プロローグ
少年は足を止め、振り返る。
「行ってきます、クロム兄さん」
「あぁ、くれぐれも相手の方々に迷惑をかけないようにな」
声をかけられた青年は微笑みながら、彼を見送る。
「クオードが夢中になる人って……どんな方なのだろうか? よっぽど素敵な令嬢とか……?」
クロムはクオードが見えなくなると、疑問を呟く。弟に好きな人ができたと聞いた時は、飲んでいる紅茶を噴き出しそうになるくらい驚いたクロムだったが、それ以上に喜ばしいことだと思った。好きな人は特にいなかった彼が突然恋に落ちた。
その相手のことは詳しくは聞いていないのだが、自分の弟(彼)が夢中になるくらいの人だ。きっと素敵な方に違いない……と、思いながら。
普段取り乱すことのないクオードをどうやってからかってやろうかと考え、ニヤリと微笑むクロムだった。