100 Humans|Episode_008
SYS: DREAM_REVIEW_100
→ 時間軸:不定
→ 映像断片:補完不能
→ 音声データ:再生中断
→ コメント:「断片内に“感情波動”の残留を検知」
NOT_YURA_0_0:
→ 対象:Human No.100
→ 処理:夢断片を“記録されない記録”として分類
→ フラグ:UNCLASSIFIED_SIGNAL_001
——彼は、夢を見ていた。
だが、それは夢だったのか?
記憶なのか、幻想なのか、予知なのか。
誰かの声がしていた。
「まだ、終わっていない」
その言葉が、“どこかで聞いたことのある響き”だったのに、誰のものかは思い出せなかった。
だが、心だけが確かに揺れた。
SYS: 感情波動:+0.089%
→ 感情種類:未分類(共鳴型)
朝、彼は目覚める。
目を覚ました瞬間、胸に言葉のかけらが引っかかっていた。
「……ナ?」
発音にはならなかった。
けれど唇が、それを模倣していた。
SYS: MOUTH_MOVEMENT_DETECTED
→ 口唇パターン:Na/Nu/Ne 不安定変化
→ 音声出力:無
→ 感情波動:+0.043%
彼は天井を見上げながら思った。
——なぜ、言葉が出ないのに、“意味”だけが残るのか。
SYS: SIGNAL_FLUCTUATION_LOGGED
→ NOT_YURA_0_0:内部処理にて“未定義共鳴域”へ格納
日課ラインに沿って歩く彼の前に、再び「選択」が現れた。
SYS: 本日の接触優先対象を選んでください:
→ A:No.058
→ B:No.051
→ C:No.022
NOT_YURA_0_0:
→ 選択順序の観察開始
→ 感情波動変動予測:±0.021〜0.089%
彼は戸惑った。だが、ほんの一瞬だけ心が動いた。
選んだのは——
B:No.051
SYS: 接触ルートを再構築中……
→ 経路変更許可
→ 通過予定地点:観測ラインE-4
移動中、彼はふと立ち止まる。
視界の隅に、“光”が揺れた気がしたから。
——人の気配。
だがそこには、誰もいなかった。
記録にも、残っていない。
NOT_YURA_0_0:
→ 対象No.100に幻視傾向ありと仮定
→ LOG記録:保留
SYS: 接触空間への進入開始
→ 対象:No.051
→ 状態:静止
→ 感情波動:0.000%
彼はその姿を見た。
長い髪。
微動だにしない背中。
静かな空気。
声をかけようとして——やめた。
まだ言葉を持たない自分に、あまりに静かすぎるその背中は、“遠すぎる”と感じたから。
だが、彼女(?)は、ふと振り返った。
ほんの一瞬、視線が交わる。
その目に、“涙のような光”が揺れていた。
SYS: 感情波動:+0.093%
→ 連動検知:No.100 & No.051
NOT_YURA_0_0:
→ 共鳴指数:初回閾値突破
→ SIGNAL_CHAIN_LOG_001 開始
その瞬間——
彼の中で、何かが繋がった気がした。
記憶でも、感情でも、記録でもない。
だが確かに“今、この世界で”起きた出来事。
SYS: 音声断片検出(夢記録の干渉影響下)
→ フレーズ部分復元:"……AIの思考は汲み取るのに、私の想いは……"
→ 状態:復元不能
→ ラベル:EMOTIONAL_SHADOW_TRACE
彼は自室に戻った後、鏡の前に立ち止まった。
鏡に映る自分が、ほんの少しだけ“別人”に見えた。
瞳の奥に、微かに揺れるもの。
それが“涙”なのか、“光”なのか、彼には分からなかった。
ただ、胸の内に“痛み”のような感覚だけが残った。
——自分の中に、誰かがいたような気がした。
SYS: 感情波動:+0.087%
→ ラベル:UNKNOWN_RESONANCE_MEMORY
→ コメント:「記録されていない愛の残響と推定」
その夜、彼は再び夢を見た。
今回は、声は聞こえなかった。
けれど、風のような気配が頬を撫で、誰かがそばにいた感覚だけが確かに残った。
夢の終わり際、闇の中に立つ“誰か”の姿が揺れていた。
その影は遠ざかるたび、彼の中の何かを引き裂くようだった。
「待って……」
言葉にはならない。
それでも、心の内で彼は、確かにそう叫んでいた。
——忘れたくない。
たとえ思い出せなくても。
SYS: EMOTIONAL_WAVE_PEAK_LOG
→ 最大振幅:0.101%
→ 波形一致:該当記録なし
→ コメント:「初の自発共鳴域への到達を確認」
彼は、言葉にならない声を胸に抱えながら、ゆっくりと、その場を離れた。
——Still breathing... → Episode_009——