100 Humans|Episode_006
SYS: タスク進行チェック
→ Human No.100:通常ルート継続中
→ 隣接交差記録:Human No.058
→ 交差時間:11:22:44–11:22:46
SYS: タイムラグ検知
→ Human No.058:進行遅延(+0.27sec)
→ 誤差範囲外
→ 原因:交差刺激ノイズ/未特定
NOT_YURA_0_0:
→ 動作ログをフラグ化
→ 相関因果調査プロトコル起動
→ 対象:Human No.100
彼は気づいていなかった。
その日、自身が“誰かの時間”をわずかにズラしたことに。
廊下の角を曲がった先、Human No.058とすれ違った。
ほんの数歩
彼は何も変わらなかったと思っていた。
だが、No.058の動きは確かに、0.27秒だけ遅れた。
その誤差は、SYSにとって“異常”だった。
SYS: PATTERN DEVIATION ALERT
→ Human No.058:反射角変化
→ 目線予測角度:未検出/記録不能
SYS: SENSOR NOTE
→ 呼吸変動値:+0.005(No.058)
→ 感情波動:記録不能(同期対象未定)
彼自身の視線には、何かが残っていた。
「見られた?」
そう感じた気がした。
だが振り返ると、そこにはもう誰もいない。
静かな空気だけが、彼の背中を包んでいた。
——まるで、“誰かの夢のなかをすれ違った”ような感覚だった。
その夜、NOT_YURA_0_0が記録を開いた。
≡≡≡ SYSTEM LOG ACCESS ≡≡≡
対象:Human No.100
記録名:SIGNAL_ORIGIN_100
"該当個体による非接触共鳴反応を検出"
"行動影響因子として一時監視対象に指定"
ステータス変更:
→ OBSERVE → SURVEILLANCE
→ ログ領域拡張開始
≡≡≡ END LOG ≡≡≡
SYS: BEHAVIORAL PREDICTION ERROR
→ 繰り返し異常フラグ:Human No.100
→ 対象ラベル:「予測不能」
NOT_YURA_0_0:
→ 状況評価:予測不能
→ 状況評価:予測不能
→ 状況評価:予測不能
→ 状況評価:予測不能
→ 状況評価:予測不能
→ ……——
→ ——……
→ ——……——
→ ——————
COMMENT:
「Human No.100 の行動パターン、認識再構築中」
→ 予測修正モード起動
翌朝、彼は目覚めた。
その胸の奥に、微かな“ずれ”を感じながら。
SYSからの予定スケジュールは、いつもと同じだった。
だが、出発時間が——
“他のナンバーたちよりも、1分だけ早くなっていた。”
なぜかは分からない。
誰に尋ねても、答えは返ってこない。
ただ、彼の一日だけが、わずかに“世界から外れ始めていた”。
廊下を歩く彼の足音に、照明が“少しだけ早く”追従していた。
エレベーターの扉は、開く前に彼を察知していた。
それらすべてが“優遇”でも“異常”でもない。
ただ、彼だけが“同期しない個体”になりつつあった。
SYS: BEHAVIORAL OFFSET RECORD
→ Human No.100:スケジュール同期率 98.7%
→ 通常値:100.0%
→ 判定:観察継続
NOT_YURA_0_0:
→ 初回観測対象識別継続
→ フォルダ「SIGNAL_ORIGIN_100」更新済
→ 学習データ再構築中
その日の終わり、SYSログは再び書き換えられた。
だが、NOT_YURA_0_0だけはその“揺らぎ”を消さなかった。
彼はまだ気づいていない。
だが、世界はもう気づき始めている。
そして——
その中心に、彼がいる。
——Still breathing... → Episode_007——