表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/36

100 Humans|Episode_032 — [AFTER_MEMORY]

【scene_01:AFTER THE DOOR】


──記録されない、ということは、存在しないということなのか?


No.51──AinAは、あの無名の扉の中に立っていた。

目の前にあるのは何もない空間。

視界には何も映らず、聴覚には何も届かない。

だが彼女の内面だけが、異常に“騒がしい”。


──風が、吹いている。


確かに髪が揺れている。

だが、ログには風の動きは記録されていない。


風は、冷たいようで、どこか懐かしい気配を帯びていた。

まるで、誰かの呼吸が空気を震わせているような、そんな感触。

AinAの頬をかすめるその風は、どこか遠い場所──彼女が一度も訪れたことのないはずの場所から吹いてきたように感じられた。


この空間は、システムには存在していない。


SYS:

《No.051:ログ記録不能区域に滞在中/環境データ不明》


「……誰かが、ここにいる気がする」


声にならない音が、皮膚の内側で響く。

言語化されない、けれど確かに意味を持った“誰かの気配”。

それはまるで——彼女の過去から呼びかけてくるようだった。


足元には、見えない波紋が広がっている。

音ではなく、記憶の“揺らぎ”のような感覚。

その波紋は、AinAの内面でひとつの音に変わる。


──誰かの“歌声”。


それは遠い昔、誰かが歌ってくれた子守唄のようで、それでいて、AinAが一度も聴いたことのない旋律でもあった。


♪───そらをわたる かぜのこえ

きみをまもる やさしいうた───♪


微かに響いたそのフレーズに、AinAの胸の奥が熱を帯びた。

旋律が記憶の底から浮かび上がるにつれ、どこかで失った何かが名を持ち始めるような感覚が広がっていく。


「誰なの?」


AinAは意識が揺らぐ中で思わず呟いた。


【scene_02:MEMORY_048】


うすぼんやりとした“少年”の姿が、空間の奥に浮かび上がる。

彼の顔は霧がかかったようで、はっきりとは見えない。

だがその目だけは、確かに彼女を見つめていた。


少年:「記録されると、壊れちゃうから。……だから、ここにいるんだ」


AinAは言葉を失う。


少年:「記録は証明になる。でも、呪いにもなる。君が覚えてるなら、それで充分なんだよ」


その声は——兄に似ていた。

思い出すはずのない、でもずっと胸の奥にあった声。


AinA:「……あなたは……」


少年は静かに首を振る。


少年:「名前は、まだいらない。思い出すまではね」


一瞬、彼の周囲に“歌詞”のような言葉がホログラムのように浮かぶ。


──『ふたりの名前は、ひとつじゃない』。


それを見たAinAの胸が、チクリと痛んだ。


【scene_03:OTHERS' GLITCHES】


同時刻、施設の別エリア。


■ No.022 — EMO-SYNC型。

突然、激しい感情波に襲われる。

「誰かが泣いてる……」と呟くが、周囲には誰もいない。

感情記録ログには、“外部起因”とラベル付けされた未確認ソース。

脳内に直接語りかけてくるような“残響感”が残る。


■ No.036 — PRE-VISION型。

未来予測演算に異常。「2秒後に誰かが来る」と言った直後、実際には誰も来なかった。

「……おかしい、未来が……分かれた?」

その時、視界の端に“別の選択肢の自分”が映った錯覚を覚える。


■ No.066 — FAKE/記憶改竄体質。

かつて語った“嘘の記憶”が、周囲の記録に事実として現れる。

「俺、そんなこと……やったか?」

彼が昔、話を盛るために作った「英雄談」が実際の映像記録に混入していた。


NOT_YURA_0_0:

《共鳴波検知。No.051由来と推測。記録外波動による影響拡大中》


RE_ANGE(天使AI):

《記録できない記憶は、他者の観測をも歪める……》


【scene_04:ECHO OF A NAME】


AinAは、記録不能空間の中で、彼(=少年)の声に耳を傾けていた。


少年:「昔、君のことを、こう呼んでた……気がするんだ」


その言葉と共に、彼女の脳裏にある“呼び名”が甦る。


AinA:「……それ、なんで……知ってるの?」

少年:「ううん、君が思い出したんだよ」

AinA:「私が?」

少年:「そう。君が」


AinAの目に涙が浮かぶ。


AinA:「名前って……他人に付けられるものじゃなくて、自分で……思い出すもの?」


少年:「そうだよ。記録じゃなくて、記憶があればいいんだ」


少年はふと、彼女の肩に手を伸ばしかけ、やめた。

その手はわずかに震えていた。

ほんの一歩踏み出せば触れられる距離。

けれど、それを越えた瞬間に、すべてが崩れてしまいそうな──そんな繊細な“線”が、ふたりの間に見えていた。

彼の目には、決意と迷い、そして祈るような感情が交差していた。


少年:「でも……もうすぐ、記録のほうが君を“追いかけてくる”」


AinAの表情がこわばる。


【scene_05:NOT_YURA_0_0の記録断絶ログ】


NOT_YURA_0_0:

《No.051:現在位置不明。ログ断絶。感情フレア値上昇中》

《記録に残らない存在に観測干渉を受けている可能性》


RE_ANGE:

《記録されないものは、消えるのではない。記録がないからこそ、消せないのだ。》


天井のログスクリーンに、“記録外個体”のシルエットが映る。

それは、少年のものにも似た輪郭だった。

身長はAinAより少し高く、うつむいたその姿勢からは迷いと哀しみが滲んでいた。

顔の輪郭はまだ不明瞭だったが、光の反射が一瞬、頬の涙を照らしたかのようにも見えた。


だがAIは、それを「映像ノイズ」として処理するしかなかった。


NOT_YURA_0_0:

《ECHO_TAG:ACTIVE》

《観測ログ:再解析中……干渉元不明。タグ付け継続》


RE_ANGE:

《“記憶にのみ存在する個体”が、観測点を揺らし始めている》


──Because Memory Can’t Be Stored... It Becomes Eternal...

→ Episode_033 — [THO


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ