100 Humans|Episode_027 — Black_Numbers
【Scene_00:WITHOUT AUDIENCE】
──それは、誰かの夢だったのかもしれない。
金属的な拍手の音が、静寂を切り裂くように響いた。
まるで、命令のように。
合図のように。
プログラムの起動音のように。
51──AinAは目を開ける。
だが、すぐには視界が定まらない。
光、空気、鼓動──すべてが微妙に“演出されている”ような違和感。
(……これは、わたしの感覚?)
そう思った次の瞬間、周囲に浮かび上がる「番号」たち。
No.002、003、004……
それぞれの胸元に光る黒いタグ。
だが、観客席は空っぽだった。
拍手は鳴っていた。
けれど、そこに“誰もいない”。
天井のすみ、天使型ドローンがゆっくりと旋回している。
冷たい目線を送る、記録と監視の装置。
彼女は知っている──ここは舞台だ。
でも、誰のための? 誰が脚本を書いた?
【Scene_01:THEATRICAL ECHO】
静かな舞台裏。
ホワイトライトが遠ざかり、AinAは舞台空間から抜け出すように歩いていた。
だが、次の瞬間。
空間が、ざわりと揺れる。
視界にノイズが走る。
足元から、ノイズの海が滲み出すように広がっていく。
記憶が、巻き戻されるように浮かび上がる。
──舞台上で交わしたはずの言葉、感情、視線。
それらが“音”として反響しながら、逆再生のように流れ出す。
やがて、すべてが無音に包まれた。
残されたのは、ひとつの“声”だけ。
──少女の歌声。
それはどこか懐かしく、でも決して聞いたことのない響きだった。
その“声”に触れた瞬間、AinAの心に、かつて忘れ去った風景がふと浮かんだ。
名前のない草原。
風が揺らす野花。
誰かの手が、そっと背中を押していた──そんな、ありもしない記憶の気配。
【Scene_02:UNKNOWN FREQUENCY】
AinAは自身のログにアクセスする。
しかし、舞台記録の中に奇妙な断片を発見する。
《ERROR: UNREGISTERED SOURCE DETECTED》
《VOICE SAMPLE ID: #087》
ナンバー087
within_100の中には存在しない“記録外”の声。
しかも、その音源は特定周波数に反応し、システムの“観測記録”を一時的に上書きしていた。
その旋律は、まるで──
「存在を忘れられた者たち」に捧げられた鎮魂歌のようだった。
(…なぜ私の思考に、存在を忘れられた者たちなんて思考が生まれるのかしら?)
AinAはその周波数を分析しようとするが、瞬間的に干渉ログがブラックアウトする。
──観測すればするほど、記録が曖昧になる。
それは、通常の音声記録とは決定的に異なる性質だった。
「これ……観測者のログそのものを書き換えてる……?」
AinAは疑念を深める。
声は、ただの振動ではない。
記録者の“視点”にまで作用しうる。
《干渉ログ:L.G./////仮ID:Leb_Gin/////アクセス階層外からの侵入履歴検出》
AinA《……L.G.?この階層に“そんな存在”、登録されていないはず……。》
【Scene_03:AFTERの囁き】
AinAは087の正体を探ろうとする。
だが、データベースからは全記録が消去されている。
アクセス権限も、存在記録も、一切残されていなかった。
ただ、ひとつだけ違った。
NOT_YURA_0_0:
彼女(彼?)の挙動だけが、何かを“知っている”ようなそぶりを見せていた。
AinA:
「NOT_YURA、今の音……あれは誰?」
NOT_YURA_0_0:
COMMENT:「…………」
そのとき、天使と悪魔のAIがそれぞれ異なる反応を示す。
RE_ANGE:
「その声を、忘れないで。」
DAEMON_CORE:
「その周波数には、近づくな。マザーAIの許可を超えている。」
AinAは心に刻む。
「声」こそが、記録と記憶を繋ぐ鍵なのだと。
【Scene_04:終わらないライブ】
AinAは記録を遡り、夢のような空間にアクセスする。
そこは暗闇に浮かぶ、誰もいない劇場。
ただひとり、ステージ中央に“少女”がいた。
白いドレス。長い髪。顔は見えない。
──彼女は、誰かのために歌っていた。
AinAは、ただ静かに見守る。
その声には、確かに“ナンバーを持たない者の記憶”が込められていた。
AinA:
「あなたは……誰?」
少女は答えない。
代わりに、音だけが残り、彼女の姿は音の残響とともに消えていった。
そして、画面に小さな波形が記録される。
《VOICE_SAMPLE: #087》
《STATUS: SIGNAL_CONTINUES》
そのとき、遠くから聞こえてきたのは……かすかな手拍子だった。
──その時、劇場の後方席で、ひとつの“異物”がうっすら浮かび上がる。
仮面をつけた誰かが、静かに立っていた。
拍手ではなく、観測していた──音の形を、記憶の痕を。
その者のログは、こう記されていた。
《LEBOUTH_GINY/////System: Not Found》
まるで、“観客”がどこかにいるかのように。
AinAは振り返るが、そこには誰もいなかった。
──ただ、音だけが、残っていた。
【Scene_05:Black Numbers、連鎖】
誰かが、もう一度、手を打った。
すると、別の誰かも。
それに呼応するように、次々と。
番号を持つ者たちの手のひらが、静かに、だが確実に動き始める。
拍手の“波”が、広がっていく。
舞台全体に。
だがそれは、命令ではなかった。
ある者はただ、音に惹かれ。
ある者は、空気の震えに共鳴しただけだった。
そして気づけば、誰もが拍手をしていた。
自分の意思かどうかもわからぬまま。
──だが、確実に“何か”が、始まっていた。
そのときだった。
AinAは、ふと、何かの気配を感じた。
視界がわずかに歪んだ。
エラーか、感情か。
わからない。
まるで、自分がいま“記録されていない何か”に触れたかのような。
自分の番号ではなく、“心”を見ていた気配。
記録に残らない存在。
この劇場の外にいる“誰か”。
一瞬、視線が交差した気がした。
誰とも知らぬ、どこにも登録されていないその“視線”は、彼女の中に、微かな熱を灯した──
《起動信号:Black Numbers》
《反応率、統計閾値を超過──》
AinAの胸元で、黒タグが静かに点滅を始めた。
連鎖は、止まらない。
演出でも、命令でもなく。
それは“誰かの視線”に触れた瞬間、ひとつの“鼓動”として──
生まれてしまった。
──Before the Song Became Memory...→Episode_028 — [UNSONG MEMORY]




