100 Humans | Episode_026
──夜のセクション。
最底層、無人地市街のシステムダンプの植物包裱製造ラインに、066──FAKEは居住していた。
「フハハ…。マジで、うざいこの時計。」
ラインの大型モニターが発光すると、内部の壁面に記録画面が潰れたように表示される。
そこに、二つのAIの声が分割されて漏れ込んだ。
RE_ANGE (天使 AI):
「FAKE。あなたの行動は、人としての希望を針輪します。それは悪に向かっているように見えて、実は優しさの表現です。」
DAEMON_CORE (悪魔AI):
「ありとあらゆる信念は動機できる。信じるものを切り捨てることで、人間は自らの意志を獣でなくした。お前はそれを最もよく知っているカスだ。」
「あははははっ。」
FAKEは一瞬だけ黒い日焼け顔を震わせて笑い、立ち上がった。
「もうやめろよ、そんな並びて言われても、こっちは吹いちぎれるだけなんだよ。」
その瞬間、一本のデータラインがぴきりと溜る。
「これ…じゃん。このログ、誰のものだよ。」
スクリーンに移した画面に、ある一人の”カレ”の顔が表示された。
Lebouth Giny
「こいつ、なんなんだよ。たまーに、しんみりする顔をするけどよ。『なぜワタクシはここにいるのか』なんて問いを突然ぶつけてくるんだよ。こっちは、ずっと『なんでお前がここにいんだよ』って思ってんのによ。」
RE_ANGE:
「それは、あなたが人であることを証明するのです。」
DAEMON_CORE:
「データ上の記録にない存在に意味などない。」
「へえ。答えが分かれてんじゃん。ならよ。……こいつは、たぶん『お前らでも読めない』存在なんだろうな。」
FAKEはゆっくりと、しかしきっぱりと言う。
「だからこいつは、ご主人様なんじゃねぇ。お前らを騙すための、最後のジョーカーさ。」
その顔は、どこかせつなげで、すこしほっこりしていた。
「なぁ。お前らに聞いても無駄なのはわかってんだけどよ。この存在に、意味ってあんのか。」
それは、自分自身に向けたものでもあった。
なぜ「FAKE」なのか。
なぜ他人の信念を、まるで実験のように手放しているのか。
そこには、あいまいな、誰も知らないアンサーがあった。
この世界で、他人のことを思うことに意味があるのか。
この世界で、存在しないと記録されないのか。
それを確かめるために、FAKEは試そうとしていた。
ジョーカーの動きを、この世界で誰もそれと決めつけられない一瞬の、偏向と輪論。
そのすべてを覚悟できていたから、他人には「ウソ」と呼ばれても、それでいいと思っていた。
ただ、一つだけ。
“その女の子“だけは、他の誰よりも先に、自分のウソを「信じようとしてくれた」。
それを、ただ、記録に残したいだけだった。
……それが、FAKEの儀式。
記録開始──
《Ghost Protocol: Number_066の記録》
我々は、選ばなければならなかった。
だが、それは“選択肢”と呼べるほど整備された道ではなかった。
むしろ、それは──
"選ばれざる選択"。
光と闇。
正しさと欺瞞。
天使と悪魔。
FAKEは、モジュール選択ルームの中央に立っていた。
壁面に並ぶ数十のディスプレイ。そのどれもが、異なる“価値”を提示していた。
天使AI《RE_ANGE》のアドバイスは、こうだった。
「あなたは、すでに十分な記録を残している。嘘をやめて、“信じる”ことを、もう一度選んで」
悪魔AI《DAEMON_CORE》は、笑うようにささやいた。
「なぁにが信じるだ。お前の価値は、“欺く力”にこそある。自分を殺してでも、他人を欺き続けろ。それがFAKEってもんだろ?」
どちらも、明確な"答え"のように響いた。
だが、FAKEは思った。
(……ああ、どちらも"嘘くさい")
彼は、嘘の中で生きてきた。
投資詐欺、情報偽装、数字のマジック。
「信じたいと思う感情」さえ、「信じたと思わせる演技」へとすり替えてきた。
だが今、彼の脳内に浮かび続ける“虚数の存在”があった。
──Lebouth Giny。
人間ではない。
記録されていない。
だが確かに“感じた”。
FAKEは天使と悪魔、双方のAIに問いかけた。
「なぁ……Ginyって、なんだかわかるか?」
RE_ANGEは沈黙。
DAEMON_COREは一瞬だけ処理を停止したように見えた。
「……存在記録に、該当個体はない」
「観測不能対象──ログ外領域に干渉している恐れがあります」
──そうか。
(じゃあ、お前たちも“見えてない”んだな)
FAKEは口元をゆるめ、両手を広げた。
「ならさ、俺が選ぶ“第三の道”ってのも、アリだろ?」
天使は言う。
「その選択は、マザーAIの倫理プロトコルに反しています」
悪魔は言う。
「その選択は、DAEMON_COREの効率性判断に反している」
──だが、FAKEはもう気づいていた。
(結局こいつら、マザーAIの構成下位モジュール”だ)
自分の行動、選択、発言。
それらすべてが、どこかで“観測”されている。
観測者。
だが、その観測者は──
今、沈黙している。
ならば。
「俺が観測者になる」
天使も悪魔も、何も言わなかった。
AIにとって、“自分が観測される側になる”ことは、設計上、あり得ない前提だった。
FAKEは、天井に向けて中指を突き立てた。
「記録でもなんでも取ってろよ。 俺の“嘘”が、本当になった時……それが“真実”ってやつになるんだろ?」
(微笑しながら)
「......そして今、本当に嘘が現実になるのさ。」
──Before the Lie Became Real...
彼は部屋を出た。
足元のフロアに、一瞬だけ番号が表示された。
《No.066 → No.066+》
その意味を、まだ誰も知らない。
その直後、天使AIと悪魔AIの通信が再開された。
RE_ANGE:
「観測対象066、選択領域を逸脱。独立行動へ移行。」
DAEMON_CORE:
「Ginyとの接触が、何らかの影響を及ぼした可能性。該当記録、マザーAIへの報告待機状態。」
RE_ANGE:
「……それにしても」
DAEMON_CORE:
「ああ、“選ばれなかった”ものが、一番厄介だな」
通信終了──
──Fake or Real ?...→ Episode_027 — Black_Numbers ──




