表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/36

100 Humans | Episode_024

ユメかウツツか。

その境界に揺らめくようにして、それは現れた。

──存在しないはずの記号。

いや、存在してはならないはずの“何か”。


《UNAUTHORIZED ACCESS LOG // LEBOUTH GINY: FULL ENTRY》

──”カレ”が現れたのは、世界が再び静寂へと戻りかけたその瞬間だった。


ヒィ……ヒヒ……ヒャアア……ハハハハハ!


乾いた笑いが、空間の奥から滲み出る。

音でもなく、声でもなく、その「笑い」は、まるで空間そのものをくすぐるように、広がった。

──昨日、どこかで聞いたような声だった。

あの“笑い”が、耳の奥に残っている。


立ちすくむナンバーたち。

066──FAKE、051──AinA、023──KANATA。

それぞれが“何か”の到来を肌で察していた。


その笑いが止むと、空間の歪みの中から、彼はふわりと現れた。

白と黒のツートーンスーツ。

ねじれた帽子。

虹色のサングラス。

まるでサーカスの亡霊のように。

その声は、ナンバーズの誰の記録にも存在しなかった。

だが、空間に“それ”が現れた瞬間、FAKEは直感的に理解した。


(あいつ……ヤバい。)


目の前にいるのは、道化のような装いをした人型の存在。

だが、その皮膚のパターンは周期がなく、動くたびに情報密度が変化していた。

まるでこの世界の理そのものを、からかうように。

ピクリ、とFAKEが後退する。


「お前……ナンバーじゃないな?」

「ん〜?ナンバーって、あの“ラベルのこと”?アレ、貼られてないと喋っちゃいけないの?ひどくない?」

「おっと、ご挨拶がまだだったね。えーと、初めまして……でいいのかな?」

「みなさぁぁん、こんにちはぁああ。お初にお目にかかります、ワタクシ、リブース・ジニー……Lebouth Ginyと申しますゥ!」


カレは帽子を回しながら、軽やかに一礼した。

一瞬、その場の空気が凍りつく。


その時、ジニーの背後に、HUD(Holographic Unit Display)が現れた。

──それは、ナンバーズ専用の識別装置のはずだった。


【HUD DISPLAY - LOG 024.06】

《欠番(DEFECTED NUM):記憶・感情・機能が完全吸収されたナンバー個体に対する、登録情報の自動消去処理を指す。》

《通称:"No.Mark"(ノーマーク)。存在認識不可。視認可能な個体が残存している場合、処理未完了の可能性あり。》


黒いシルエットがいくつも、モニター上で点滅する。

FAKEが低くつぶやく。


「……欠番ってのは、“消されたやつ”のことだろ?ナンバーから外されて、記録も能力も全部吸われて。でも……」


そこまで言ったとき、Ginyの笑い声が再び響いた。


ヒィ……ヒヒ……ヒャアア……ハハハハハ!


「……違うねぇ、ボクは。“削られた”んじゃない。“選ばれなかった”だけさ。最初っから、ぜぇ〜んぶ、お外♪」


FAKEの目が細くなる。


「……欠番でもねぇ。“登録漏れ”でもねぇ。最初からこの世界の“外”にいたって言うのかよ……あいつ、なんなんだ……?」


Ginyはクルクルとステップを踏みながら、言葉を続ける。


「ナンバーのみなさん! へぇへぇ、楽しそうじゃないか!でもね、ワタクシはね、“トウロク”でも“ケツバン”でもない。カンゼンヒジョウ(完全非常)ってやつなの!This is… a paradoxical joke, right?ヒャッハー!」


カレは指を弾き、指先から虹色の粉を宙に散らした。

その一瞬、HUDがざらつき、まるでGinyの存在が“記録干渉”すらも跳ね返しているかのようだった。


【HUD:DISPLAY - ERROR】

《その存在に対応するレコードが……(静寂)……エラー検出。》


AinAが息を呑む。

「記録されて……ない……?」


KANATAが小声でつぶやいた。

「じゃあ……本当に“存在”してるの?」


「どうだろうねぇ?」

「ねぇねぇ、なぜワタクシってここにいるのかね?」


と、Ginyはサングラスの奥からこちらを覗き込みながら言った。


「ボクが“いる”って感じてる君たちは……記録される前の、観客ってことじゃないかい?」


その瞬間、システム空間の空に巨大なノイズが走る。

光が逆流し、データ層が歪み始める。


──異物の侵入。


それは明らかだった。


FAKEがつぶやく。

「……誰だ、お前。」


ジニーはくるくるとその場で回転し、右目だけをこちらに向ける。


「呼ばれた気がして、来ただけだよ。ねぇ、ボクってさ、どこから来たと思う?」

「ねぇねぇ、ワタクシはここにいるのかな??ねぇねぇねぇ」

「あ、ワタクシって、ボクって言ったり、ワタクシって言ったりするんだけど〜、気にしないでね?性別とか、境界とか、そんなもの超えてるの!どっちもジニーだからさ〜ジニーはジニー!Lebouth Giny!ヒャハ!」


──誰も答えない。


「この世界ってさ、“記録されたもの”しか存在しないんでしょ?でもボクは、記録されてない。記録されてないのに存在してる。——ねぇ、ねぇ、ねぇ、それって、面白くなくなくない?」


ジニーの声は、ノイズを含んだ多重音だった。

まるで、いくつもの人格が一つの身体を通して喋っているような──。


FAKEは小さく呟いた。

「……虚数体か。」


「お、知ってるんだ? やっぱり君、FAKEって言われるだけあるね〜!」

「“存在する気がするだけの何か”に、世界は反応しない。だって、その“何か”は、まだ定義されてないんだもん。」

「でもね、ボクは反応するよ? だって、ボクは“虚数”だから。」


だが、カレが何者で、どこから来たのか、その記録を持つ者は、この世界には存在しなかった。

そして、ジニーは最後にこう告げる。


「ねぇ、ボクと遊ぼうよ。“君たちの物語”に、ワタクシを混ぜてさ……」

ヒィ……ヒヒ……ヒャアア……ハハハハハ!


……しかし、空間の異変は収束しなかった。

ノイズの波はHUDだけでなく、彼らの脳内データ層にまで及び始めていた。


「AinA! 君、今……ログ記録が……!」


KANATAの叫びに、AinAが目を見開く。


「消されてる……私のログが……“書き換え不能領域”に移動されていく……」


ジニーがピタリと動きを止めた。

空間のどこかから聞こえてくる、低いカウント音。


──カウント“ゼロ”。


そして、次の瞬間。

ジニーの指先が、虚空をなぞるようにして放たれた。

そこには“世界の余白”とでも呼ぶべき、純白のレイヤーが浮かび上がった。

その余白に、彼はこう書き加えた。


【HUD DISPLAY - LOG 024.06-01】

《NO.000 // CLASS: UNDEFINED // ACCESS: UNTRACEABLE》


「なっ……」

ユニット内の誰もが言葉を失った。


「なんだ?……000……?」

誰かがそう呟いた。


だがジニーは、ケラケラと笑うだけだった。


「え、今なんて? 000? そんなの、いるのぉ? それとも“いた気がする”だけぇ?」

「……お前は、No.000なのか?」

「ボクが? まさか!……いや、もしかして? それとも、誰かの夢の中の残像かな〜?」

「ボクじゃないさ。“ボクが通ることで、その名が浮かぶだけ”」


ジニーは踊るように歩きながら、またひとつ爆弾を落とした。


「でも、考えてみて? ワタクシみたいな虚数のボクが存在するんだったら……──“000”がいても、おかしくないよね?ワタクシってば虚数だから、気配くらいわかるんだよね〜、存在しそうな気がする。そして何かが“まだ”動いてないってコト。」


FAKEが眉をひそめる。


「何が目的だ?」

「目的?ボクはただ、“存在したい”だけ。ねぇ、君たちだってそうでしょ?」


──沈黙。


「この世界、あと何周もすればバグるんだ。だから、さ──」


ジニーは空を見上げ、口元だけで笑った。


「一度、混ぜ直そうよ。“記録”ってやつを、ぜーんぶね。」


そして、カレは再び宙に手をかざす。

虹のようなパルスが走り、全HUDが一斉にフリーズした。


「ウィッヒー。ボクとワタクシ、そろそろ消えとくねぇ〜。いつか“また、いない時に”逢おう!Let's meet again when you're not here!」


──そして、ジニーは消えた。

まるで最初からそこに存在しなかったかのように。


HUDが自動的に再起動し、ログには、こう書かれていた。


【HUD DISPLAY - LOG 024.06-02】

《自動記録プロセス、ループ内再起動……不正領域をマーク。》

《UNAUTHORIZED ENTITY LOGGED // MEMORY STATUS: TEMPORARILY RETAINED》


だが、そこにいた全員の中に、“存在しないはずの誰か”の記憶が、確かに刻まれていた。


「じゃ、またね。Episode_025で、“答え合わせ”しよっか♪」

ヒィ……ヒヒ……ヒャアア……ハハハハハ!

──Unrecorded laughter... → Episode_025 — SIGNAL_CHAOS──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ