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3 勉強会

約一月ぶりの更新!

 雨宮凍華は完璧美少女である。

 故に、学校のテストではどの教科でも満遍なく高得点を叩き出し、学年一位に君臨し続けている。その学力は全国模試でも上位に食い込むほどであり、ほとんどの生徒から尊敬の眼差しを向けられている。


 そんな彼女は、今一つ大きな悩みを抱えている。

 それは──────。


「あの、雨宮さん、良かったら俺に勉強教えてくれない?」


 テスト期間に入るなり、ひっきりなしに自分の元を訪れる男子の数々である。

 誰も皆照れ笑いが漏れており、これを口実に凍華に近づいて距離を少しでも縮めようという魂胆が見事なまでに浮き彫りになっている。

 もちろん凍華もそれに気づいており、相手に聞こえるように大きくため息をつくと、冷たく言い放つ。


「私も自分の勉強で忙しいので。私以外にも賢い子は大勢いるのでそちらにどうぞ」


 その冷たい空気に当てられた彼らは食い下がることすらできず、儚い希望は打ち砕かれてただただ撤退を余儀なくされる。


(はぁ、なんでこんな勉強する気の見えない人ばっかり…………。多少なり真面目に取り組む気概が見えればもう少しちゃんと取り合ってあげても……いや、無い。照也以外とするくらいなら一人で黙々とやった方が圧倒的に効率が良いし)


 凍華がそんなことを考えている間にもひっきりなしに人は訪れ、「照也以外受けつけない」という凍華の中に引かれた明確な基準に則ってズバズバと叩き切られて行くのだった。


 照也はその様子を少し離れたところから友人と言葉を交わしながら、内心で「うわぁ、むごい」と呟き、それを眺めていた。




 放課後になると、普段は男女問わず色んな人と遊び歩くか部活で汗を掻くかの二択しかない照也も流石にテスト期間ということをわきまえ、嫌だけど勉強するか、というスタンスで大人しく家に帰る。

 そして、自室に直行し、扉を開くと───さも当然かのように座卓の前に色白の美少女が座っていた。


「…………なぜいる、凍華」

「ん? 普通にインターホン鳴らしたらお母さんが通してくれた」

「母さん!!!!!」


 幼馴染だからと無警戒で部屋に上げる母親に抗議するように叫ぶと、凍華はくすりと笑う。


「てか、なんで来たんだ? 俺は別に普通に勉強はできる方だし、俺のとこに来るくらいなら今日声をかけてきてた奴らの内の誰かに勉強教えてやれば良かったのに」

「勉強に一ミリも興味が無く、完全に私目当ての人と勉強しろと?」


 冗談半分で照也が言うと、学校での『冬菊姫』モード並みの冷たい声が返ってくる。

 照也はその冷ややかさに背筋を凍らせながら、「分かってるよ、俺と一緒に勉強したいだけなんだろ」と正解を口にして鞄を下ろし、大人しく凍華の向かいに腰を下ろした。





「あれ、これってどうやるんだっけ」


 凍華と向かい合う形で座り、大人しく勉強をしていると、とある数学の問題で照也の手が止まった。

 凍華はすぐにそれに気づくと、身を乗り出して照也の問題を確認すると、「ああ、これね」と呟く。


「おお流石だな、凍華。一瞬見ただけで分かったのか」

「えへへ。解き方、教えてあげよっか?」

「まじか、助かる〜」

「その代わりに私と付き合ってくれるのが条件ね」

「あ、じゃあ別にいーや。教科書とか見て自力でどうにかしよ」

「ええーー、ひどい!」


 隙あらば照也と交際の約束を交わそうと目論み、仕掛けてくる凍華を照也は軽くあしらう。

 あしらわれた凍華は毎度のように少しおどけた風に悲鳴を上げ、面白半分、残念半分といった様子で照也のことを見つめるのだが、徐々にその表情は陰っていく。


(はぁ、やっぱりダメか……私、そんなに魅力無いかな……?)


 何度告白しても一向に態度が変わらない照也を前に、凍華は不安気に豊かな胸に手を当てる。


 一方、照也は照也でまた落ち込んでいる。


(はぁ、またやっちまった)


 幼い頃は、本当に凍華を異性だと思っていなかった。だから、初めて告白された時も『彼女』という特定の存在を作って他の友人と遊ぶ時間を減らすのが嫌だという気持ちが先行し、考える事なく断った。

 だが、何度も告白され、時が立っていくに連れて凍華の性格や体つき、ちょっとした仕草までもがどんどん女の子らしく、可愛らしくなっていき、いつからか照也は本当の意味で凍華に惹かれるようになっていた。


 しかし、ある種定型化されてしまった「凍華が告白する→照也が即座に断る」という形から抜け出すのは容易ではなく、結局今日のように即断してしまう。


 次こそは必ず……と先ほどの自分を反省し、大人しく勉強に戻ろうと照也がペンを持つと、急に凍華が立ち上がり、照也の隣に向かい始める。


(落ち込んでる暇なんか無い! 何度でも仕掛けて、何としてでも照也に意識させる!)


 照也と同様、反省を済ました凍華は照也の隣に腰を下ろし、自分の体を照也に添わせるようにしながら、普段よりも少し甘めのトーンで呟く。


「仕方ない。特別に私が無償で解き方を教えてあげちゃおう」


 そして、照也の反応を確かめることもせずにペンを取ると、ぼそぼそと解説を呟きながら照也のノートに書き込んでいく。

 そんな状況について行けていないのは、もちろん立て続けに行動を起こされて混乱している照也。


(なんで急に態度変わって……つか柔らか……! 胸当たって……! なんか近くに来るとめっちゃ良い匂いもするし……)


 自分の策が簡単に通じていると気づかずに凍華は解説を続けるが、照也にはそれを聞く余力は残っていない。


 結局、開解説が終わるまでに照也の集中力が回復することはなく、明日先生にでも解き方を教わろう、と頭の隅で考えると、また凍華の魅力に吸い込まれて行くのだった。

読んでいただきありがとうございました!


本連載の空き時間で、と思ってたけど中々時間が取れず、本当に不定期化しました。


読んでみて少しでもいいなと思ってくれたら、感想やブックマーク、評価などいただけると嬉しいです!励みになります!

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