2 部活
不定期更新!!第2話です!
ある放課後、学校のグラウンドではサッカー部が赤ビブスと青ビブスの二チームに分かれ、試合形式で練習を繰り広げていた。もうすぐ公式戦ということで、対戦相手の対策と自分達の攻撃パターンが染み付いているかを実践して確かめているのだ。
コートの中央、センターサークル付近で赤チームが相手のロングボールを奪い取ると、前線へとスルーパスを送る。
そのボールに見事に反応してみせたのは照也。
寄せてきたディフェンダーをワンタッチで躱すと、そのままドリブルを開始。巧みなタッチで相手にボールを触らせず、ペナルティーエリア手前から右脚を振り抜くと、見事な弧を描いたボールがゴールキーパーの手をすり抜けてネットを揺らした。
何となくで練習を眺めていたらしい生徒たちから歓声が上がり、照也はやや乱れた息を整えながら観ていた人たちに手を振る。
と、同時に顧問の先生が笛を鳴らし、試合形式の練習の終了を知らせる。
駆け足で部員が顧問の元に集まり、それを確認した顧問はいくつか良かった点や反省点を述べていく。
「まあ、俺が言いたいのはこんなところだ。マネージャーの雨宮、何かあるか?」
言い終えた後、最後に隣に立っていた黒髪ロングの美少女───凍華へと声をかける。
「……いえ、特に」
「そうか。なら今日の部活はこのまま終了だ。道具片付けて解散!」
『冬菊姫』という名に相応しい冷たい声で凍華が答える。それを受けて顧問が締めの一言を発すると、部員はまばらに返事を返し、グラウンドの所々に落ちているボールやタオルを回収しに向かった。
「いやぁ、やっぱり『冬菊姫』は可愛いよなぁ」
「まったくだ……まあ、ちょっとあの冷たい感じは怖いとも感じるけど。というか、今日いつものマネージャーが休んでるからって、その代打で何であんなザ・真面目の優等生みたいな子がマネージャーなんかやってくれてるんだよ」
「わかんね。まあ、おかげであの美貌を眺めれてるから良いだろ。はぁ、どうにかデートできねぇかな」
部員が片付けを進めながら時折遠くを歩いている凍華に目を向け、そんなことを話していると、たまたまタオルを拾いにきた照也と目が合う。
「何話してんだ?」
何の気なしに照也が声をかけると、二人の部員は少し目を輝かせながら照也に駆け寄る。
「そういや、照也は『冬菊姫』と同じクラスだよな? なんか……好きなものとか知らないか?」
「いやー知らないな。そもそも俺も同じクラスって言っても全く相手にされてないからな」
「うわー照也でそのレベルじゃ俺らには希望無いじゃん」
照也の話を聞き、露骨に落ち込んだ様子を見せる二人の姿を見て、照也は苦笑と呆れが混じった顔を浮かべながら歩いて部室へと向かった。
部室で着替え終えた照也は、普段と違って友人を一人も連れずに、何なら少し人目を避けるように帰路へと向かっていく。
そして細い路地へと入っていくと、「あ、照也! お疲れ様!」と明るく可愛らしい声が反響する。声の主は、もちろん凍華。
照也が軽く言葉を返そうとすると、それを遮って目を輝かせた凍華が口を開く。
「照也めっちゃかっこよかった!! あの得点シーン!」
「おお…………さんきゅ」
凍華の勢いに気圧され、少し遠慮がちに照也が感謝を伝えると、凍華は次々と称賛の言葉を続ける。その中には照也自身も意識していなかった些細な動きに対するものも含まれている。
「ちょっ……、凍華どれだけ見てんだ?!」
たまらずに照也が声を上げると、凍華は不思議そうに首を傾げる。
「? 好きな人の行動をしっかり見とくのは当たり前でしょ?」
「ってことは、今日休んでるマネージャーの代わりに少し仕事を手伝ってくれって先生に言われてそれを受けてたのも……」
「もちろん照也の部活の様子を間近で見るためだよ?」
普段は凍華に何を囁かれても比較的平静を保ってきた照也でも、ここまでの褒め殺し+好きアピールには耐えきれず、視線が泳いでいる。
もちろんこの好機を逃さない凍華ではなく、一気に畳みかけにいく。
「そうだ、照也、知り合いからサッカーの試合のペアチケット貰ったんだけど付き合ってくれない?」
「え、サッカーの試合? いいよ、全然付き合うよ」
「ほんと!? ありがと! じゃあこれからは幼馴染じゃなくて恋人だね!」
「え………? っておい! 「付き合う」ってそういう意味じゃないぞ!」
「ちぇー」
少し「照れ」や「動揺」といった弱味を見せた途端に、ここぞとばかりに全力でこちらを振り回しにくる幼馴染に呆れ顔を送ると、照也は一人で路地を進み始める。それに慌てた凍華が急ぎ足で追いかけると、焦って足がもつれ、前を歩く照也に体の前面から衝突する。突然背中に押しつけられた柔らかい感触に思わず照也は顔を染めるが、それ以上に凍華が真っ赤に染まっていく。
「…………っ、ごめん」
小さく謝ると、凍華は再び歩き出した照也の服の裾をいじらしく掴んでついていく。
凍華の顔は俯いていて、その表情を周囲から隠そうとしていたが、耳まで真っ赤になっていたので当然隠し切ることなどできず、時折通行人の視線を集めながら二人は帰路に就くのだった、
凍華、結構強火です。
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