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なんか書きたい欲が爆発したので書いてみました。

恐らく四話程度で完結する超短期連載になるでしょう。


よろしくお願いします!

 ある昼下がりの教室。

 教室の中心付近で輪を作り、何やら話し合っている一団があった。


「だからさ〜、せっかく今日学校のお偉いさんの会議で少し早く帰れるんだからクラスのみんなでカラオケにでも行こうぜ〜」


 輪の中心で大きい動作をつけながらそう言うのは、黒髪ばかりの教室の中で一際目立つ茶髪の持ち主───高峰(たかみね)照也(しょうや)

 生まれつきの茶髪に整った顔立ち、高いコミュ力に加えて軽い性格と揃った結果生まれた典型的なチャラ系高校生である。


 そんな彼に、輪の中にいた一人が軽く一歩踏み出して体を相手に向け直してから意見する。


「カラオケならこの間も行っただろ。それに、今日は他のクラスの連中からボウリングの誘いも来てる。悪いが俺らはそっちに行くつもりだ。…………まあ、『冬菊姫』が来るなら話は別だが」


「『冬菊姫』、ねぇ」


 そう呟きながら照也が目を向ける先は、教室の前方の一角、昼休みだというのに誰とも談笑するでもなく黙々と英単語帳を片手に昼食と思われるおにぎりを口に運んでいる黒髪ロングの少女。名を雨宮(あめみや)凍華(とうか)という。

 常に冷静沈着、というか冷徹、淡々と物事を進め、誰とも過干渉しない。成績も優秀で先生からの信頼も厚く、その可憐な美貌も相まって付いたあだ名が『冬菊姫』。男女問わず学年全体から羨望の眼差しを集めている存在だ。

 もちろんクラス親睦会的なノリで開催されたカラオケや食事会には一度も顔を出した事がなく、仮にそういったものに顔を出そうものならたちまちその会への参加者が増えていくだろうと予想される。


 一応ダメ元で声をかけてみるか、とクラスのメンバーとカラオケに行きたい照也は輪から離れ、凍華の元へ足を運ぶ。


「ねー、雨宮ちゃん、ちょっといい?」

「……何?」


 軽い口調で照也が声をかけると、鋭く冷たい眼光と口調が照也を射抜く。


「あー、えっと今日の放課後暇だったらカラオケでもどうかな〜.って思ってるんだけど」

「行かない」

「ですよねー」


 誘いの言葉は即座に切り捨てられ、そそくさと照也は撤退する。

 すると戻った先で、一部始終を見ていて必死で笑いを堪えている様子の友人らから声をかけられる。


「……ふふ、残念だったな」

「……くく、カラオケ行きたいなら今日はヒトカラでもしとくんだな」

「チクショウ、いいさ、ヒトカラしてやんよ!」

「いやほんとにそうするのかよ!」


 笑われ、開き直った照也の宣言に盛大にツッコミが入った所で予鈴が鳴り、各々が自分の席に戻り始める。

 そしてそこから一時間授業を受けて今日の日程は終了し、放課後へと進んでいく。





 授業が終わってからしばらく友人と談笑してから、ボウリング組と解散した照也が向かうのは、宣言した通りカラオケ───ではなく、学校の裏手にある人通りの少ない路地。少し進むと、路地の片隅で佇む一人の少女を視界に捉える。


「悪い、待った?」


 少し声を落として声をかけると、顔を上げた彼女が慌てて照也に駆け寄る。


「あーっ! やっと来た!照也遅すぎ!」

「いやーごめんごめん。つい友達と話し込んじゃって。悪いな───凍華」


 路地で照也を待っていたのは、凍華。実のところ、照也と凍華は幼馴染である。

 大きく声を上げ、駆け寄る姿は教室での『冬菊姫』の姿と大きく異なっており、仄かに怒りを覗かせながらも自然な笑顔を広げている。

 というのも、こちらの姿が凍華の『素』の面。あくまでも学校で見せているクラスメイトなどへの冷たい態度は時間をかけて作り上げてきた仮初の姿である。


「なんで凍華はそんな面倒臭い事してんだよ。素の方が絶対可愛いのに」

「かわっ………! …………中学の頃にほわほわしてる、とか言われてたから高校ではクールなイメージを作りたかったのっ」

「いや、そんな理由かよ」


 頬を染めながら反論するも、照也に笑われる結果に終わる。このまま続けても照也に笑われ続けるだけだと判断した凍華は話題を変え、今日の本題に移る。


「それで照也、今日なんで呼ばれたか分かってる?」

「んー、俺がヒトカラするって宣言した直後にメッセ来たことから察すると、放課後暇な俺を連れてカフェとか行くんじゃね?とは思ってるけど」

「ん〜、正解! という事で今日発売の新作飲みに行こ!」


 左腕に擦り寄ってくる凍華を軽くあやしつつ、一人で飲食店に入れないのは変わらないな、と嘆息して照也はカフェのある通りに向かって足を動かし始めた。







「ねぇ、照也。付き合おうよ私たち」


 カフェへ向かう道中、何の脈絡もなく急に凍華が言い出す。

 普通、告白なんてこんな路上でゲリラ的に行う事では無いはずで、百歩譲ってそれが起こりうるとしても告白された側は驚いたり取り乱したりするはずである。しかし、告白されたはずの照也は何の気にも留めていない様子で「んー却下」と断りを入れる。

 その反応を受けた凍華も、特別落ち込んだりする事はなく軽くため息をつくのみで、まるでその結果が分かっていたかのような態度を見せる。


 それもそのはず、この二人は同じようなやり取りを幼稚園で出会ってから今に至るまで何度もしてきている。

 家が近かったこともあり、幼少期から二人でよく遊んでいたが、だんだんと凍華が照也に惹かれるようになっていき、何度も告白を試みているのだが全て断られているのだ。

 中学までは何かしらの行事があったときなどに告白していたのだが、最近ではその頻度が上がり、今日のようになんて事ない帰り道に告白したりしているので、凍華の真剣な恋心は半ば冗談のように捉えられてしまっている節すらある。


「むぅ。前々から思ってたけど何でダメなの? 自分でいうの恥ずかしいけど、私まあまあスペック高いよ?」


 自然な動作で照也の左腕に自らの右手を絡めて体を密着させながら凍華が尋ねると、間をおかずすぐに照也が答える。


「そりゃ、『彼女』なんて決まった相手作ったら遊び辛いからでしょ。凍華がダメなんじゃなくて彼女を作る事自体が、色んな子と出かけたりして遊ぶのを楽しんでる俺のスタンスに反してるだけ」

「むぅ……」


 とても誠実とは言い難い幼馴染の答えに凍華が頬を膨らませると、一拍魔を置いてから照也が続ける。


「まあ、どうしても彼女作らないとってなったら凍華を選ぶかもな。それこそ勉強とかできるし、顔も悪くないし、胸もデカいし」


 続けられる言葉の最初の方を聞いていた時は、それはもう満面の笑みを浮かべていた凍華だったが、最後の一言を聞いた途端、絡めている照也の左腕に胸が密着している事に気づいて顔を真っ赤に染め上げて照也の左腕から離れ、制服の上からでも分かる大きな膨らみを両手で隠すように覆う。


「…………最低」


 絞り出すようにして凍華がそう言い返すと、照也は「高校生男子なんてみんなこんなもんだよ」と笑いながら答え、「実際それどれくらいあるんだよ、それのサイズは」と問いかける。


「…………最低」


 頬だけでなく全身が染まるのを堪えようと、さっきよりも冷たさを全面に押し出して呟く。

 そして、幼馴染とはいえズカズカと繊細な所に踏み込んでくるのをどうにか戒めたいのか、凍華はその細い腕を振り回して照也の背中や肩をポカポカと叩く。

 しかし全く力が入っておらず照也にダメージが入ることはなく、むしろ照也の笑いを加速させるだけという結果に終わった。








 しばらくの間照也を叩いて満足したのか、路地を抜けて目的地のカフェに辿り着く頃にはまた凍華の態度はすっかり元通りになっていた(とはいえ、胸が当たると気づいたので無闇に体を寄せる事はしなくなったが)。


 新作のドリンクの発売日だからなのか、平日の昼過ぎ、それも他の学校の生徒はまだ授業を受けているような時間帯に訪れたにも関わらず、カフェはそれなりに混雑しているようで入り口の前には少しだが列が出来ていた。


 まあ仕方ないか、と最後尾に並んだ二人はそれぞれのスマホでカフェのメニューを表示し、何を注文するかを決める。


「私はもちろん今日発売のイチゴのドリンク!」

「俺も同じの───って言いたい所だけど、それだとつまんないよな。よし、俺はほうじ茶ラテにしよう」

「な、なら…………後で少し、飲ませて」

「もちろん。代わりに凍華のも一口貰うからな?」


 そんな口約束をして前を見ると、まだ少し列は続いていた。それを確認した照也は再びスマホに視線を戻し、流行っているカードゲームアプリを起動する。

 そして、凍華は照也の意識が完全に自分から外れたのを確認すると、自身の双丘に手を当てて思案する。


(照也も興味あるんだ、胸とか(こういうの)に)


 確かに、同年代の周りの人と比べると些か大きく育ってしまっている。今までは全然気にしてなかったのに、他人、それも好きな人に言及されるとどうしても気になってしまう。


 一方、自分の発言が幼馴染を思案の海に叩き込んだとは思ってもみない照也は、スマホを弄っている最中に何か思い出したかのように「あ」と声を上げ、凍華に話しかける。


「そういや、サイズは?」

「ふぇ…………!? ………………い、E……」


 照也が尋ねた「サイズ」というのはもちろん注文する飲み物の大きさのこと。何を頼むか決めたのにサイズを決め忘れていたことに気づいて尋ねたのだ。

 しかし、自身の胸について考えていた凍華がそれを察するのはあまりにも難しく、それに加えてカフェに向かう前に一度尋ねられていた事も相まって顔を真っ赤にしながらも正直に答えてしまう。

 これには、それまで何をされようともいつも通りの態度を貫いてきた照也も流石に慌て、凍華と同じように頬を染める事となった。


「……ばか、飲み物のサイズだよ」

「え………? あぁぁぁぁ!!!! …………………………………………………とーる、で」


 時遅くして自らの過ちに気づいた凍華は両手で顔を覆い隠してか細い声でそう答えた。



 やがて照也たちの番となり、飲み物を注文して受け取ったが、その間も凍華はずっと顔を隠していて、結局飲み物の交換は成されなかった。

寒菊───ハナキリンの別名。棘の多い姿は、近寄りがたい冷たい印象を与えることもあるが、一方で赤や黄色の鮮やかな苞は暖かさや情熱を表現するため、品種によって「冷たさ」と「温かさ」の両方のイメージが混在する。




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