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瘴気の霧

凍るような寒空のした、月だけが唯一の光源だった。

淡い月光に照らされた、白い霧が覆い尽くす闇。

白と黒の世界。

霧はだんだんと濃さを増してきている。まるで僕を拒むかのようだ。

それでも僕は自分の感覚だけを頼りに前に進んでいる。

これも僕の仕事だ。

今回、僕に持ち込まれた依頼は「霧の原因究明及び排除」。

もちろん、これには超常の存在が絡んでいる。通常の霧と異なる霧。

禍々しい瘴気の霧と呼んでもいいだろう。

今回は大物のようだ。用心しないといけない。

こんなときに限って、助っ人を頼まなかったのが悔やまれるが今更どうしようもない。

かなりの時間、霧の中を歩き続けた。やがて視界は真っ白になり、僕を包み込んだ。

…来た。

霧が揺れ、その間から何かが見える。やがて、それは僕の前に現れた。

人の形をした超常の存在。

肌は青白く、唇は血のように赤い。大きな瞳も血の色をしていた。

黒い髪は肩の位置で綺麗に切りそろえられていた、いわゆるおかっぱと言えるだろう。

深紅の着物を着て、手には少女のような容姿と不釣り合いなほどに長い刀が握られている。

その少女ははっきりと、そして澄んだ声で僕に話しかけた。

わたくし双月そうづきと申します。何者かは存じませぬが、このような場所までいかがなされた?」

僕の体は汗で滲んでいた。

震えを隠すように僕は答えた。

「僕の名前は紫門要しもんかなめと言います。ここまで来た理由は霧の原因究明と排除です。」

双月と名乗った少女は微笑を浮かべながら、僕に一歩近づいた。

僕は後退したい気持ちを押し殺し、毅然とした態度で問い詰めた。

「貴女が霧を発生させている張本人ですね。理由はどうあれ、霧を晴らしていただけませんか?

貴女の霧はあらゆる生命を糧としている。草木は枯れ果て、動物や人間も衰弱しています。」

双月はまた一歩僕に近づき、刀の射程範囲に入った。

「晴らしても良いが、条件がある。

私の友でもある愛猫が人間にさらわれたのじゃ。救いだし、私の元へ返して欲しい。

私と契約をすれば今すぐ霧は晴らそう。」

僕に選択の余地はないようだ、簡単に言えば、契約をするか今すぐ殺されるかどちらにするかと。

今まで何度も超常の存在と闘ってきたが、その中でも別格だ。

「どうやら、僕は貴女には勝てそうにありません。契約しましょう。」

僕はそう言って、右手の小指を立てた。

「漆黒の、妖力を得た猫又。それが私の友だ。名は黒翁こくおう。普通であれば、人間など捕えられるようなことはないのだ。強力な霊力の持ち主が私をここへ繋ぎとめ、黒翁をおびき出し、霊力の込められた網で捕えたのだ。」

悔しそうに、そして怒りを露わにしながら僕の小指に白い小指を絡ませた。

いわゆる「ゆびきり」というもの。

契約の一つの形。守らなければ相応の対価を払わなければならない。

簡単でありながら、安易に交わしてはならないほどの効力を持っている。

書面と違い、体に刻まれた印は契約が果たされるまで消えることなく、その結びつきは深い。

書面ならば、火にくべれば効力が消失してしまうケースもあるのだが…。


視界が急激に戻ってきた。淡い月光が照らし出すのは枯れた森の一角。

あたりは朽ちた木々で囲まれていた。

僕の小指には赤い線が指輪のようについている。

契約の印。

果たさなければ僕は契約の対価に魂を奪われるだろう。

それにしても強力な霊力の持ち主とは一体だれなんだろう。

まあとりあえず、僕は霧を晴らしたのだから、依頼は遂行され、ギャラは受け取れる。

僕はそれを考えながら自宅兼事務所に戻った。


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