6.ヴェルゼ視点*ルピナスのために
ルピナスに頬ずりされると全身が熱くなったから、少しだけ顔を離した。なんだこの感じは……心の臓が早くなる。今までに感じたことのない現象が我に起きている。だが、可愛いと言われるのも悪くない。ルピナスに本来の姿が受け入れられなければ、いっそうずっとモフモフの姿でいようか。
外に出て家から離れ、湖まで来た。しばらくルピナスは湖を眺めながら休憩している。我は脳内でエアリーと会話をした後、ずっとルピナスの横顔を見つめていた。もう一時間ルピナスは湖を眺めている。
「はぁ……」とルピナスは溜息をつく。
さっきの、ルピナスと母親の会話は聞いていた。ルピナスはあの家にいる限り、心を健やかにして過ごすことは困難だろう。早急にあそこから離す必要がある。エアリーにはある計画を実行するよう頼んだが……。
我は姿を戻し、ルピナスに提案した。
「ここから離れているが、魔力を蓄えられるため、我が人界に来てからしばらくいた土地がある。そこで我はある程度の魔力を回復した。そこでしばらく一緒に暮らさないか? 気に入れば、ずっとそこで暮らしてもいい」
「……でも、家にいるお母様が心配で」
「大丈夫だ。エアリー」
ヴェルゼがエアリーを呼ぶと、羽を広げた姿でエアリーが空から降りてきた。
「ルピナス様のお姉様達は近々、遠くにある街の男の元へ嫁ぎに行くことになります」
「えっ? それは、決定されたのですか?」
「はい、その通りでございます。なのでご両親は今後平和に、仲睦まじくおふたりでお暮らしになると思われます。ルピナス様のお姉様達は嫁ぐ準備で慌ただしく動かれると思われますので、お母様を毒殺するお時間もないかと」
「お仕事がお早いですね……じゃあ、心配しなくても?」
「両親のことはエアリーに任せていればいい。会いたくなればいつでも会いに行けばいい」
「はい、わたくしにお任せください。すでにルピナス様のお父様とお母様にもお伝えしており、納得されております」
「あの、ひとつ質問が……」
「その、時間が巻き戻る前は、私の側にはお母様はすでにいなかったのですか?」
「あぁ、我が迎えに来た時にはすでにいなかった……」
「ということは、お姉様達の毒で……今回は、前の時とは変わったということですか?」
「そうだ」
ルピナスは目を閉じた。何かを考えているようだ。
「何を考えている?」
「前のお母様は、知りながら娘達が盛った毒を飲んで……とても心が苦しかったのだなと」
「母親のことばかりだが、そなた自身はこれから、どうしたいのだ」
「私? 私は、特に何も願いはございません。お母様が幸せに暮らしていけるのなら」
「でも、そなたはあの時、苦しくて自ら命を絶った……」
そうだ、我が冷たかったせいで。我がルピナスの心を壊したせいだ。壊した……。
「そうだ! 花の小屋を一緒に作ろうではないか」
「花の小屋?」
「我の背中に乗れ。さっき教えた土地に案内しよう」
ルピナスは前の世界で花の小屋を作っていた。今回は絶対に壊さない。我の魔力があれば前の世界でルピナスが作っていた小屋よりも立派に――。