第二話:東国へ
港町に就いたレッドとポン。
船着き場近くにある大きな三階建ての建物へと向かう。
「レッド様、あれはもしや冒険者ギルドでございましょうか?」
「ああ、もしやポン殿もギルド登録をなされておるので?」
「ええ、魔法学園の学生は必ず登録が義務づけられておりますので」
「ならば話は早い、我らはパーティーと言う事で♪」
レッドとポンは、傭兵や迷宮探索など様々な依頼をこなす何でも屋。
危険を冒す事もあるから、冒険者と呼ばれる者達の互助と依頼斡旋組織。
その名も冒険者ギルドに登録していた。
互いの身分証である冒険者カードを見せ合う二人。
ポンは職業欄に忍者、魔法使い、ロボマスターの三個。
レッドは騎士で魔法剣士と情報が記されている。
騎士や武士はロボマスターも兼ねるので記載は二個だ。
二人がカードを重ねると、魔法の光が輝く。
パーティー結成とカードが自動で書き換わった。
二人がギルドの建物に入れば、酒場兼食堂も備わった内部は静かであった。
「おや、普通はギルドは人々で賑わうはずですのに?」
「まあ、そう言う日もあるのだと。 俺達も依頼を受けよう」
レッド達はカウンターで仕切られ書類棚や事務机が並ぶ受付に向かう。
「ようこそ、港町支部へどのようなご依頼をお探しでしょうか?」
黒髪のお団子頭で黒いローブ姿の女性が笑顔で語りかける。
「ああ、俺達は東国イースタンへと向かうのだが?」
「でしたら、イースタン商人の方の護衛依頼がございます」
「私達でお受けさせていただきますわ♪」
受付嬢にレッドとポンがカードを見せる。
「まあ、お二人共ロボ持ちのパーティーなんですね♪ ではお二人が受理と言う事で」
「はい、宜しくお願いします」
「お願いしますの♪」
依頼を受けた二人は、食堂スペースで軽く食事をしながら依頼人を待つ。
「ここは、料理も人も東方と西方が入り混じるな」
「ええ、イースタンの故郷のイヌガミ村とは大違いです」
レッドとポンは、リュ―メンと言う麺料理やダンプリングを食べる。
やがて一人の青い羽織に灰色の袴でちょんまげの東国人男性がやって来た。
眼鏡をかけた細身で知的な顔つきは、学者風の青年商人と言う印象のブンザ。
「お初にお目にかかります、私はブンザ・ミカンと言うイースタンの貿易商でございます」
「レッド・ファイヤーハートです、若輩者ですが全力で務めを果たします」
「ポン・イヌガミと申します、ミカン屋様と言えば西の大商人では?」
「イ、イヌガミの忍び姫様?」
「ポン殿も東国の名家なのだな」
「そちらは暴れん坊騎士殿? 東西の名の知れた方達が護衛とはありがたい」
「レッド様も、中々のようですわね♪」
「ああ、まあブンザ殿の御身のみの護衛と言う事で宜しいかな?」
「はい、仕事は済ませたので後は戻るだけでございます」
「人手が出払っていると言う事は、海で難事が待ち受けているのですね?」
「海賊か怪物か双方か? だな」
「レッド様、いざとなれば私も出ますわ」
「ええ、背中はお任せいたします」
「まあ、私も忍者ですのよ♪」
「だからこそ、俺はポン殿を信じてお任せするのです」
ブンザも加えて追加で食事をしながら打ち合わせをする。
「レッド殿、ポン姫様、一つ同じ釜の飯を食った仲と言う事で宜しくお願い申し上げます」
「ああ、騎士は裏切りません!」
「忍者として人として裏切りませんわ!」
「では、兄弟杯と洒落込んで水で乾杯と参りましょう」
三人はグラスに注がれた水で乾杯する。
この時の縁が、末永く続いて行くとは当人達にもまだわからなかった。
港町からイースタンの西の都のミカン屋の本店まで護衛する。
船賃やイースタンに到着後の旅費はブンザ持ち。
諸経費を差し引いてのレッド達への報酬は手取りで金貨十枚分となった。
「打倒な相場ですわね、ありがたいですわ♪」
「ああ、全力で挑みます♪」
「お二人とロボの強さなら、金貨百枚は支払うべきだと考えますが?」
「旅費はブンザ殿持ちなんですから、お気になさらず」
「ギルドの額通りですので、提示額のみで十分ですわ♪」
相談の続きはブンザが泊まるホテルで行い、レッド達も宿泊。
翌日、三人は最新式の魔導船と謳われる巨大な鉄の客船。
トリトン号に乗り込んだ。
「船と宿が一体化した豪華客船、世界は広いですね」
「ええ、私も驚きましたわ♪」
「世界は広い、なので私も見て見たくて冒険に出たのです♪」
甲板で語り合うレッド達三人、すっかり打ち解けていた。
甲板で豪勢な食事会、サーカスなどの出し物と船の上は祭り状態。
何事もなければ楽しい船旅だが、そうはならなかった。
前方に現れた黒い帆船が人型ロボットへと変形したのだ!
「俺が出る、レッドナイト~ッ!」
レッドが愛機の名を叫び甲板から会場へと飛び出しロボットを所管し乗り込む。
「ブンザ様は客室へ、私も出ますので戸締りは厳重に!」
「ああ、承知した! ご武運を!」
ブンザは客室へと戻れば、ポンも懐から巻物を取り出してロボを召喚する。
ポンが召喚して乗り込んだのは、茶色い茶釜から手足が生え蓋から頭が出たような機体。
その名はチャガマㇽ、十メートル程の小型スーパーロボットだ。
「行きますわよチャガマㇽ、レッド様は私のお婿候補にしたいほど好ましい方ですから!」
チャガマㇽも空を飛び、レッドナイトを追う。
レッドナイトは黒い海賊船長型のロボットと一戦交えていた。
『驚いたな、噂の赤い暴れん坊か♪』
『その声、噂の女海賊か!』
『そうさ、キャプテンメリー様のお出ましだ♪』
レッドナイトは真紅の長剣、レッドカリバーで海賊ロボのカトラスと打ち合う。
海賊ロボ、キャプテンブラックはカトラスとロボット用のピストル。
加えて両肩の大砲と遠近双方の攻撃でレッドナイトを翻弄する。
レッドナイトは、盾と長剣で敵の飛び道具や近距離攻撃に対抗する。
『やるなあ、暴れん坊♪ 船を守りながら私を相手にするとはね♪』
『俺は騎士だ、守り抜いた上で貴様を倒す!』
『う~~ん、良い少年だ♪ 負かして私の旦那にしてやる♪』
『お断りだ!』
キャプテンブラックの中で、ピンク髪の巨乳美女が笑う。
『船もレッド様も、そちらには渡しませんわ!』
レッドナイトの後方からポンの叫び声と共にチャガマㇽが到着。
『ポン殿、かたじけない!』
『さあ、ご一緒に討ち取りましょう!』
『ライバルか燃えるねえ♪』
二体一でも余裕のメリー、砲撃と銃撃で攪乱する。
『忍法竜巻返しの術ですわ!』
『これは風の盾か、助かった!』
『今です、レッド様!』
『わかった、ファイヤーピアス!』
レッドナイトが全身から炎を燃やし、剣を構えて突進。
『しまった! 私としたことが!』
レッドナイトの炎の必殺剣で機体を貫かれ、爆散するキャプテンブラック。
パイロットのメリーもロボと共に運命を共にした。
「さらばだ、あの世で悔い改めろよ」
レッドは自分が倒した相手を弔う。
『ああ! キャプテンメリーの賞金がいただけませんわ!』
レッドのしんみりした気持ちを打ち壊すポンの叫び。
『いや、どうしたポン殿? そ、そうか! ロボ持ちの悪党は莫大な賞金が!』
レッドも思い出して叫びを上げる。
ロボットで悪事を働いたものには、莫大な賞金が掛けられる。
ただし、賞金額が高い悪党ほどはっきりとした倒した証拠が必要となる。
レッドナイトの必殺技は、倒した証拠も残らず木っ端みじんにする技。
当然、賞金など貰えるはずもなくリザルトは無しである。
船へと戻って来たレッドとポンは、肩を落としていた。
「レッド様、手加減は大事ですわよ?」
「そうだな、儲けばかりが大事ではないけれど」
「金貨一万枚の悪党は、惜しかったですなあ」
甲板の手すりで落ち込むレッド達の隣でブンザが二人を慰める。
海の上でのトラブルは解決したが、逃した儲けは大きかった。
船は無事にイースタンの南の港町、バリカタに着いた。
「ここが東国かあ、空気が違うなあ」
「ここまで来たら、もうひと頑張りですわ」
「お二人共、宜しくお願いいたします♪」
東国に着いたレッド達、レッドはロボを使いブンザを乗せて一気に彼を送り届けた。
ブンザと別れたレッド達、次はポンの故郷に向かう番であった。