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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
9/22

第九話 追撃と敗走

 その後、僕は母親に鍵を返すべく、お店を経営している場所へ移動した。

 母親に鍵を返し終え、いつものように裏手で能力訓練をしようと思ったが……。


 丁度、お客さんが多い時間帯だったことが災いし。

 母親によって、強制的にお店の手伝いをさせられてます。


 手伝いといっても、会計くらいしかできないけどね。

 衣服の手入れなどは、全く身長が足らないから無理です。


 この卯月衣服店は、かなり人気があり、毎日大勢の人たちが足を運んでくれる。

 だから、毎日休む暇がなく、めちゃくちゃ多忙です。


「浸夜〜。今ちょっといい?」


 店の手伝いをさせられていると、突然母親が呼びかけてきた。


「大丈夫だよ。どうかしたの?」


「ちょっと、浸夜にお使いをお願いしたいのよ」


 何かと思ったら、まさかのお使いですか……。

 そういうことであれば、答えは決まっている。


「え〜! 嫌だ!」


 そう。拒否です。

 少し前までは、『うん、いいよ』の二言で了承していたが、最近は違う。


 どうやら、僕は少し年頃?

 の子供とはかけ離れているというか……。

 凄く真面目という印象が強いらしいのだ。


 僕的には、いい印象がついているみたいで嬉しいのだが。

 それは僕だけで、母親からして見れば、子供っぽくないとのこと。


 なので、ほんの少しだけ羽目を外し。

 最近は子供らしく、嫌なことはやりたくないと駄々を捏ねてみたりしている。


「え? なんで? 何か用事でもあるの?」


 母親は首を傾げ、不思議そうに見つめてくる。

 そんな突き刺すような瞳で見るのは辞めて頂きたい。


「いや、外暑いから出たくない」


 僕は暑いのが嫌いだ。

 前世では苦手だったが、影の適性能力者になってからは嫌いに変更した。


 というのも、この月世界(ムーンワールド)で陽光に照らされると。

 なぜか体から力が抜けていく感じがするようになった。


 その原因は、もちろん僕自身にある。

 能力訓練を繰り返しているうちに気づいたんだけど。

 どうやら、僕の体は影と一体化しているみたいなんだ。


 だから、陽光を浴びると力……。

 正確には、影が抜けていってしまうんです。


 なんで影と一体化しているのかはわからないが。

 陽光を浴びると影が抜けていく原因だけはわかった。


 その原因は、恐らく相性の問題だと思う。

 例えば、炎は水や地に弱く、逆に樹や氷には強い。

 そんな感じで、物質には必ず相性というものが存在する。


 これらを踏まえて考えると。

 影は光や炎に弱く、光よりも強くなる。


 なぜ影は光に弱くもなり、強くもなるのかというと。

 影は光があってこそ、より濃く引き立つものだからだ。


 光が濃すぎたら影が負けてしまうし。

 逆に影が濃すぎると光の方が弱くなってしまう。


 つまり、今は僕の影よりも陽光の方が濃い状態。

 故に、陽光を浴びると体から影が抜けていってしまうんだ。


 ということは、陽光よりも影の量が上回ることさえできれば。

 例え地獄の豪華が立ち向かっていても、対等に渡り合えるようになるはず。


 そして、ちゃんと対策を考えた結果。

 『補影(ほえい)』という能力を発見することができた。


 この能力は周囲の影を取り込み、僕の体内に影を補充することができる。

 他の能力には存在しない、影の能力特有の能力だ。


 これによって、影の量を増やすことができ。

 多少の陽光を浴びても大丈夫なくらいにはなった。

 更に、影が存在しない時でも影の能力を使うことが可能になりました。


 そんな感じで対策を考えたのはいいんだが……。

 よくよく考えていくと、僕に起こっている現象はおかしい。


 なぜなら、炎の適正能力者が水に触れたからといって。

 力が抜けていくと感じる人は、誰一人として存在しないらしいのだ。


 つまり、これは影の適性能力者にのみ存在する特性……?

 みたいなものだと思うけど、なんでそんな特性があるのかは謎のままです。


 それに、『補影(ほえい)』を使えるようになったとはいえ。

 まだまだ陽光の方が遥かに濃すぎて、力が抜けていくのは変わらない。


 だから、極力外には出ないようにしている。

 太陽が完全に沈み、陽光がなければ全然いいよ。

 けれど、今は真っ昼間で一番強く陽光が差す時間帯だ。


 九月だというのに太陽が燦々と輝いている。

 なので、ここは正当な理由を述べて外に出るのを回避しようとした。


 だが、多分断る理由に問題があったのだろう。

 母親は納得するどころか、額に怒筋が浮き出ていた。


「え? なんて? もう一回言ってみなさい?」


 母親はいつものように圧を掛けてきた。

 もちろん、恐ろしい笑みを浮かべ、禍々しいオーラを放っている。


 けど、大丈夫。

 ちゃんと対処法は考えてある。


 それは……。


「日に当たると溶けてしまう病気に罹ったから、外に出たくない」


 即座に理由を変更。

 そんな病気罹ってないけどね。


「さっきと言ってること違うじゃないの」


「で、どこに行けばいいの?」


 母親は呆れるようにため息を吐いていたので。

 僕も駄々を捏ねるのを辞めて、お使いの内容を聞くことにした。

 すると、僕が諦めたのを確認し、母親はいつも通りの優しい表情に戻った。


「ここから徒歩三十分くらいのところにある、空陰(そらかげ)武具店っていうお店に行ってほしいの」


「武具店ってことは、武器や武具を売っているところなの?」


「そうよ。武器・防具・アクセサリーなどを売っているお店よ」


 つまり、そのお店に行けば武器や防具が買えるということね。

 これはいいことを聞いたぞ。


「母さん……」


「ん? どうかした?」


「お使いに行くのはいいんだけど……。僕、ご褒美が欲しいな〜」


 お使いをすれば、その対価を頂く。

 更に言えば、子供なら自らせがむ。


 僕は今子供だ。

 故に、僕はせがむのも当然です。

 しかも、僕が欲しい物がそこにはある!


「いいわよ。それで、浸夜は何が欲しいの?」


 お、いいのかい?

 正直怒られると思ってたんだけど、なんとか母親の許しを得ることに成功。


 ではでは、早速その対価を頂こう。

 僕が欲しいもの……。それは!


「鎧!」


「却下」


「えー」


 なんと即答。

 一秒の差もない。


 これは、僕がそう言うって予想してたな?


 ふっ。やるな、母親よ……。

 やはり一筋縄ではいかないみたいですな。


 せっかく鎧が買えると思ったが、今の僕ではまだ早いと言うことかな。

 そういうことなら、仕方ないね。キッパリと諦めよう。


 人間……。

 いや、子供は諦めが肝心だって言うし。


「お小遣いあげるから。それで何か買っていいわよ」


「はーい」


 なんと。お優しいではございませんか。

 てっきり怒られると思っていたけど、流石母親、偉大なり。


 母親はズボンの右ポケットから財布を取り出し、中から何枚か硬貨を掴んだ。

 その様子を見て、僕は餌を待ち構えるように両手を皿のようにして待ち構えた。


「はい。大切に使うのよ」


 母親が掴んだ右手を解放し、硬貨を僕の手のひらに置き。

 僕はのしかかる硬貨の重みを感じつつ、落ちないように優しく握り締めた。


「うん。ありがとう」


 僕は素直にお礼を言った後。

 両手を徐々に開いて貰った硬貨を確認すると。

 母親から貰ったお小遣いは、銀貨三枚でした。


 これを日世界(サンワールド)の基準で換算すると……。

 鉄貨一枚で十円、銅貨一枚で百円。

 銀貨一枚で千円、金貨一枚で一万円くらいだ。


 因みに、鉄貨十枚で銅貨一枚分。

 枚銅貨十枚で銀貨一枚分、銀貨十枚で金貨一枚分になる。


 つまり、今貰った銀貨を換算すると三千円ということだ。


 子供の僕でも……。

 いや、子供だからこそわかるぞ。


 絶対に鎧や剣は買えない。

 買えるとしたら、アクセサリー程度だ。


 僕は貰った銀貨をじっと見つめ、この硬貨の使い道について考えていた。

 だが、そんな僕にはお構いなしに、母親はそそくさと店の奥へ入って行った。


 まあ、別に貰ったからといって、今日使う必要はない。

 少しずつ集めていけば、いつか自分で鎧や剣を買うことができるはずだ。


 ということで、僕は特に文句を言うでもなく。

 貰った銀貨をぎゅっと握り締め、右ポケットに入れていた財布の中へとしまった。


「浸夜くん、浸夜くん。外が暑いなら、このパーカーを着ていくといいんじゃないかな?」


 すると、母親との会話を聞いていた一人の女性が駆け寄って来て。

 両手に持っていた黒色のボリュームネックパーカーを手渡してくれた。


「ありがとうございます、塞養(そくよう)さん」


 この人は、塞養役雇(そくようやくこ)さん。

 卯月衣服店で働いている店員だ。


 白色の髪を鎖骨くらいの長さにしており。

 前髪は鼻背程度まで伸ばしている為、瞳は隠れて全く見えない。


 しかも、耳当て付きのニット帽をいつも被っており。

 一度も外したことがないので、耳も見たことがない。


 黒色のワイシャツの上に、蒼色のデニムジャケットを着て。

 白色のロングスカートと黒色の革製でできた厚底ブーツを履いてる。


 適性能力は、『風』。

 誕生日は、九月二日。

 現在、二十二歳のミステリアスガール。


 塞養さんは、陰暦二〇九八年六月四日からここで働き始め。

 基本は接客を担当しているが、たまに自分でも衣服を作っているらしい。


 というのも、一度も作っているところを見たことがない。

 いつもここに来る時に、自分で作った衣服を持参している。


 知りたがりの僕も、そのことに不思議に思い。

 少し前に、なんでお店で作らないのか尋ねたことがあるのだが……。


『それはね……。秘密だよ!』


 塞養さんには可愛らしく断られてしまい、教えてもらえなかった。


 なので、なぜかはわからないが。

 何か人前で衣服を作れない理由があるということはわかった。


 住まいは、ここから歩いて一時間程度の場所にある。

 『総合集合住宅』という集合住宅で、塞養さんは大家をしている。

 つまり、掛け持ちしているということになる。


 なぜ掛け持ちをしているのか。

 それは大家の仕事が暇だかららしい。


 大家といっても、特別やらないといけないことはなく。

 精々家賃の回収をするくらいしかすることがないんだとか……。


 ということで、ここでも働き始めたということだ。

 僕が転生してからというもの、塞養さんはよく話し掛けてくれる。

 

 前髪で隠れていて表情がよくわからないけど。

 いつも明るくて、とても陽気な人だということはよくわかった。


 あと、なぜか陰が薄くて、いつもどこからともなく姿を現す。

 けど、いい人だということは確かだ。


 僕は受け取ったパーカーに腕を通し。

 前のファスナーをきちんと上まで閉めて着服した。


「ふむ……。でも、これだとまだ不十分かな……」


 その姿を見て、納得がいかないのか。

 両手を組んで考え込んでいる塞養さん。


「そうだ! あとは、マスクと手袋があれば万全だよ!」


 すると、ハッと何かを思い出したらしく。

 どこからか黒色のマスクと手袋を持って来てくれた。


「おお、確かに。これで準備万端ですね」


 僕はマスクと手袋を受け取って着用すると。

 タイミングよく母親がこちらに戻って来ており。

 両手には、綺麗に包装された大きな箱があるのが見えた。


「浸夜ー、これを……。って、何やってるの?」


 その箱を差し出そうと、母親がこちらに向かって来ていたが。

 僕の姿を目の当たりにし、直ぐに眉間に皺を寄せ、微妙な表情を浮かべていた。


「ん? 日差し防止のために着替えたんだよ」


 僕は、何か問題でもあるの?

 と差も当然だと言わんばかりに真面目な表情で返答した。


「浸夜。その姿で外に出たら、確実に不審者と間違われるわ。そのマスクと手袋は置いて行きなさい」


「はい……」


 確かによく考えたら、ほぼ全身真っ黒な服装。

 更にマスクで顔を隠し、指紋がつかないように手袋を付けている。

 例え僕が子供だとしても、間違いなく職質される格好になっていた。


 反論できないほど真っ当な意見を口にされ。

 黒色のマスクと手袋をそっと取り外し、塞養さんへ返した。


「はい、これが荷物ね。あと、この紙に簡単に地図書いておいたから。それ見ながら気をつけて行ってくるのよ」


「わかった」


 やっと僕が外へ出られる格好になったところで。

 安心した母親から、包装された大きな箱と一枚の紙を受け取った。

 紙に書かれた地図を見た感じ、距離は差ほど離れていないように思う。


 ていうか……。


「これ、何が入ってるの? もしかして割れ物とか?」


 思っていた以上に箱が重いぞ。

 仮に割れ物が入っていたら、亀みたいな速度で移動するのは必須だ。

 そんな速度で移動していたら、予想以上に時間が掛かってしまう。


 そうなれば、僕は暑さに耐えられない可能性が高い。

 つまり、辿り着く前に力尽きてしまい、母親に怒られるのは確定。


 それはなんとしても避けなければならない。

 なので、念のため確認しておこう。


「ううん。衣服よ」


 なるほど。衣服だけでこんなに重いのか。

 けど、そういうことなら、走っても大丈夫そうだな。


「あ。でも中は開いちゃ駄目だからね。それはプレゼントだから」


「わかってるよ」


 母親は念の為に釘を刺しているんだろうけど。

 流石の僕も誰かへのプレゼントを開けたりしないよ。

 最初は渋っていたが、引き受けたからにはきちんと届けますから。


「お店の中に入ったら、優しそうな男性が居ると思うから。その人に渡してあげて欲しいの」


 僕は胸を膨らませ、やる気になっていたのだが……。

 母親の言葉を聞いた途端、致命的なことに気付き、一気に顔が青ざめていった。


「……母さん」


「ん?」


「僕、大変なことを忘れてたよ……」


 これは転生以来の緊急事態だ。

 僕はとんでもないことを忘れていた。


「大変なこと? どうしたの?」


 それは……。


「実は僕、人見知りなんだ」


 追加で、極度のコミュ障でもある。

 母親や塞養さんなら兎も角、他の人に話しかけるのはまだ早い。


 基本お店の手伝いや能力訓練をしているから、外に出たのは数回程度。

 しかも、お使い自体が人生初の出来事なので、当然経験値不足は否めない。

 こんな状態では、まともに話すことはできず、追い出されるのは必然だろう。


 なので、母親に告げてみた。

 きっとこの優しい母親ならこう言ってくれるはず。


『なら、今回は辞めておきましょう』


 僕はそう願っているよ。

 さてさて、母親の反応は如何に。


「そうなの。じゃあ克服するためにも、色んな人と話したほうがいいわね。頑張ってね」


 な・ん・だ・と……。


 い、いや。もう一度言ってみよう。

 もしかしたら、言い間違いかもしれないし。


 いつもなら、このまま引き下がる僕だが、これだけは譲れない。

 例え、相手が母親だとしても、今回は反撃を試みるぞ!


「あ、いや。だから人み……」


「気をつけて行ってくるのよ?」


 けれど、僕の反撃の言葉を強制的に遮り。

 母親の圧が籠った追撃の言葉が脳天に直撃した。


 当然、僕はというと……。


「あ、はい……。そう……ですね。行ってきます……」


 成す術をなくし、呆気なく敗走しました。


 斯くして、僕は母親の圧に負け、外に広がる暑の中へ進んで行ったのであった。

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