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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第一章 陰から影へ(日月編:兎と影を繋ぐ世界)
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第八話 日世界と月世界

 まずは、父親に報告しよう。

 両方の父親に向けて、今の僕のことを……。


 僕は仏壇に向かって一礼した後。

 右手でマッチを掴み、蝋燭に火を灯した。


 次にマッチを元の位置に戻し、線香差から線香を一本取り出して火に翳す。

 線香に火が付いたのを確認し、左手で軽く扇いで火を消して香炉に立てた。


 最後に両目を瞑って合掌し、深く一礼した。

 そして、頭の中で父親を思い浮かべ、両方の父親に今までのことを伝えた。


(前世に居る父さん。僕、こっちの世界で元気にしてるから。だから、心配しないで……)


(そして、僕の父さん。会った記憶はないけど、母さんから立派な人だって聞いたよ)


(僕も、父さんたちのような。立派な人になれるように……。この世界で頑張るよ)


(父さんたちのような。最高の英雄になれるように……)


 十秒くらい経過した後、両目を徐々に開いて仏壇を見つめた。

 右手で火消しを掴んで蝋燭の火を静かに消し、火消しを元の位置に戻した。


 周囲には、干し草のような甘いにおいが漂っていた。

 この香りを嗅ぐと、なんとなく落ち着く感じがする。


 さてさて……。

 父親たちへの報告も終わり、落ち着いたところで、いよいよ本題に入ろう。


 先程、僕とシャドウの繋がりについて説明した。

 なので、次は他の繋がりについて説明しよう。


 まず初めに、両親について。

 母親の髪や瞳の色や声が同じことは、転生時からわかっていた。


 最初は偶然だと思ったが、同じなのはそれだけじゃなかった。

 なんと、怒り方・仕草・癖。これら全て同じだったんだ。


 前世の母親は必ず怒る時、恐ろしいほど怖い満面の笑みを浮かべ。

 体から禍々しいオーラを醸し出していた。


 この母親も怒る時はとんでもないほど恐ろしい顔をする。

 しかも、その顔からは笑みが溢れ、禍々しいオーラ放っている。


 そのことに気づいた時、僕はゾッとするような恐怖を感じた。


 基本、怒る時は怖い顔をする。

 けど、笑みを浮かべながら怒る人は早々居るもんじゃない。

 いや、居ないでくれと願っていた。


 だが、その願いは叶わず。

 同じようにおっかない怒り方をする人が母親になってしまった……。


 次は、仕草と共通点。

 例えば、話す時は必ず相手の目線に合わせようとするところ。

 笑う時、必ずどちらかの手を口に当てるところが全く同じだ。


 前世の母親は、僕が小学二年生まで、朝起きたら毎日欠かさずハグをしてきた。

 今の母親も、さっきみたいに朝は必ずハグをしてくる。


 多分、僕が長い間覚醒しなかったから行っているんだと思うけど。

 前世の母親は、単純に僕を溺愛していたからしていたらしい。


 ということは、今の母親のハグにも、その理由が含まれてる可能性がある。


 そして、文字の書き方の癖。

 前世の母親は、A型でとても几帳面な性格だった。

 故に、文字を書く時は、必ず下に定規を当てながら書いていた。


 更に、書く時にはいつも緊張してしまうらしく、なぜか角張った字になっていた。

 今の母親が書くところを確認した結果、全く同じようにして書いていたんだ。


 怒り方や仕草は、百歩譲って偶然かもしれない。

 だけど、癖は人それぞれ違っているはずだ。


 それが全く同じというのは、いくらなんでもおかしい……。


 父親に関しては、転生時から一度も姿を見たことがなく。

 この家にいた形跡も見当たらず、謎に包まれていた。


 だが……。


 陰歴二〇九九年四月六日。


 転生してから約七ヶ月が経った頃――。


 母親から、この部屋のことを教えてもらい、父親の死を知った。

 ここは生前まで父親が使っていた部屋で、その日は父親の誕生日だったらしい。


 父親は白色の髪に、赤色の瞳をした男性。

 まるで、兎みたいな容姿をしていたと聞いた。


 亡くなったのは、陰歴二〇九八年五月五日。

 僕が転生する約四ヶ月前に亡くなったということになる。


 亡くなった時の歳は二十六歳で、死因は不明だ。

 というのも、母親はそのことだけは言いたくなさそうだったから。

 それ以上は踏み込んでは駄目だと感じ、僕も無理に聞こうとはしなかった。


 父親の職業は、冒険者だったみたいで。

 主な仕事は、素材採取・魔獣討伐・悪人捕縛をしていた。


 つまり、この世界に存在する……。

 いつも誰かの為に行動し、沢山の人を救う職業だ。


 父親は正義感の塊みたいな人で、いつも誰かを救うために行動していた。

 時には、自分が死ぬことを恐れず、困難に立ち向かっていたそうだ。


 父親の仕草や癖まではわからないが。

 容姿・性格・職業は、全て前世の父親と合致する。

 ここまで一緒なら、恐らく仕草や癖も同じだろう。


 極め付けが、両親の出会いと年数の共通点だ。

 前世の両親が出会ったきっかけは、母親が働いていた銀行に強盗が押し入った時。


 その時に、母親が強盗の一人によって人質に取られてしまい。

 首元にナイフを突きつけられ、とても危険な状況だった。


 その状況から母親を救い出してくれたのが、父親だったらしい。

 そのことがきっかけで、両親は付き合うようになったそうだ。


 この世界の両親が出会ったのは、当時受付嬢として働いていた母親の休日。

 一人で買い物をしていたら、ふと用事を思い出し、急いで冒険者組合に戻った時。


 二人の男性が喧嘩をしているのを発見し、仲裁をしに駆け寄ると。

 感情的になっていた一人の男性が母親の顔面に向かって殴り掛かってきた。


 だが、その拳は母親には届かなかった。

 なぜなら、その拳を一人の男性が防いだから。

 その男性……。いや、その冒険者が父親だったらしい。


 その時に、父親から衣服を褒めてもらい。

 そのことが嬉しくて、お店を開くことを決めたと同時に、両親は付き合った。


 出会いの共通点は、窮地を救ったこと。

 そして、出会った場所にある。


 前世では、銀行で強盗から母親を救い。

 この世界では、冒険者組合で一人の男性から母親を救った。


 これだけでは、場所との共通点がないように見えるが。

 それは場所自体にあるわけじゃなく、働く時に着ている制服だ。


 前世の母親が働いていた銀行の制服は、白色の襟シャツの上に深緑色のベスト。

 首元に黒色のネクタイをして、膝くらいの長さをした涅色のスカートだった。

 ネクタイの色は特に決まりがなく、人によって色や模様が違っていた。


 冒険者組合の受付嬢が着ている制服も同じ色と形をしている。

 しかも、受付嬢は全員で四人居るのだが、全員ネクタイの色は異なっていた。


 つまり、制服が一緒ということは、二つの場所は同じということ。

 更に、どちらも多くの人たちが利用する場所という点も合致している。


 年数の共通点は、誕生月。

 これは、僕にも共通すること。


 前世の母親は、陽暦二〇七二年九月六日。

 この世界の母親は、陰暦二〇七二年一月一日。


 前世の父親は、陽暦二〇七二年八月八日。

 この世界の父親は、陰暦二〇七二年四月六日。


 前世の僕は、陽暦二〇九六年四月六日。

 僕が転生した月影浸夜は、陰暦二〇九六年六月九日。


 全員誕生日は違えど、生まれた年は同じ。


 最後の共通点は、母親が経営しているお店。

 僕はこの名前を知っていた。


 母親に聞いて知ったんじゃない。

 その前から、既に知っていたんだ。


 前世の母親は、自分で衣服は作ってはいなかったが。

 興味はあったみたいで、色々な衣服を持っていた。


 特にお気に入りのブランドがあり。

 そこの衣服やアクセサリーを集めていた。


 そのブランドは、世界的に有名で大人気。

 所謂、ハイブランドで、多くの人が買い求めていたそうだ。


 そのブランドの名前は、RABBIT(ラビット)MOON(ムーン)

 ブランドマークは、白色の円形の中に、瞳が青色で黒色をした右向きの兎だった。


 このRABBIT(ラビット)MOON(ムーン)を直訳すると、卯月になる。

 更に、このお店と真逆の刺繍がブランドマークだった。


 これらを踏まえて考えると、二つのお店は同じだ。

 流石に偶然で店名やマークが同じだなんてありえない。


 これら全てが前世とこの世界との共通点。


 ……。


 流石に、ここまで共通点が重なると少し怖い。

 けど、これを並行世界(パワレルワールド)として考えれば別に怖くない。

 というよりも、寧ろ必然的だとさえ思えてくる。


 前世の人と似ているんじゃない。正真正銘、一緒なだけなんだ。

 この世界に居る人物が前世の世界にも存在するっていうだけの話。


 いや、同一人物というのは少し違うのかな。

 趣味などは少し異なるみたいだし、全く同じではないっぽい。


 なら、二重身(ドッペルゲンガー)と言うべきだろう。

 基本的な情報は一緒だが、育った環境が違うから、多少異なっている。

 多分、鏡みたいに映った反対の世界っていう感じなんだと思う。


 そう断定し、それぞれの名前を決めた。

 決め方は至ってシンプルに、覚えやすい名前にした。


 前世では、日白。この世界では、月影だった。

 つまり、日と月。この二つは、ちょうど反対みたいなものだ。


 なので、前世の世界を日世界(サンワールド)。この世界を月世界(ムーンワールド)と名付けた。

 我ながらいい名前だと思う。覚えやすいし、なんとなくカッコいい。


 以上で、基盤となる世界構造の説明は完了です。


 ただそうなると、逆に異なっている点が気になってくる。

 二つの世界で異なっている点は二つだけ存在する。


 一つは、父親について。

 日世界(サンワールド)で生きている父親が、なぜか月世界(ムーンワールド)では亡くなっている。


 まあ、全く同じ人生を歩んでいるわけじゃないから。

 こっちの世界でも絶対に生きているとは限らないのはわかる。

 けど、正義感の塊みたいな人だったという点が少し気になるんだよね……。


 なんで亡くなったのか、詳細を聞くことはできなかったが。

 とにかく、口にしたくないような出来事だったのは確かなはず。


 もう一つは、僕の容姿について。

 先程、今の僕はシャドウと繋がったことにより。

 同じ容姿の姿をし、影の能力に適性があると説明した。


 でも、これは二つの世界が繋がっていることがわかる前に出した結論なんだ。

 二つの世界が並行世界(パワレルワールド)だと考えると、この結論には矛盾が生じる。


 二つの世界が繋がっているのなら。

 シャドウと同じ容姿をしているのは少しおかしい。


 というのも、母親や父親は同じ容姿をしていた。

 なら、当然僕の姿も同じ容姿をしているのが正しい姿のはず。


 だが、僕はシャドウと同じ容姿をしている。

 その理由が謎のまま、もう四年の月日が過ぎてしまった。


 もしかしたら、僕がまだ知らない。

 何か大きな出来事があったのかもしれない……。


◼️◻️◼️◻️



 僕は父親の部屋から出て、しっかりと外から鍵を閉めた。

 もう一つ存在する謎の部屋については、未だ謎に包まれている。


 なぜかというと、父親が亡くなる数日前に残した遺言によるもの。


『いつか、浸夜に必要になる時が来る。その時に、あの部屋を開けてあげてほしい』


 その言葉を母親に伝え、小指の約束を交わしたらしい。


 だから、今はあの部屋には入れない。

 母親曰く、今はその時ではないそうなのです。


 僕は鍵を母親に返す前に一度自室へ向かい。

 流れるように自室に入ると、ベットに腰を掛け。

 サイドテーブルの上に置いていた木箱を右手で掴んだ。


 最後に、この月世界(ムーンワールド)でどう生きるのか。

 その為に決めた四つの目標について説明しよう。


 まず一つ目は、夢に出てきた美女と出会うこと。

 その手掛かりは、声・髪と瞳の色。そして右側に掛けているモノクル。


 これだけ揃っていれば、一目見ただけで発見できるはずだ。

 それにもしかしたら、その美女から声を掛けてくれるかもしれない。


 なぜなら、僕も同じモノクルを掛けているから。

 正確には、形は全く同じで、僕のモノクルは左目用だけどね。


 僕は左手に持っている木箱を開け、中に入っている物を見つめた。

 木箱の中には、左側の耳に掛けるタイプのモノクルと円形のピアスが一個ある。


 モノクルの左側には鎖が付いており、そのピアスと繋がっている。

 そのモノクルのガラスは度が入っておらず、どちらも素材は鋼だ。


 僕は左耳にピアスを取り付け、モノクルを左耳に掛けた。

 いつも寝る時以外は、必ず身に付けるようにしている。


 このモノクルとピアスは母親から貰ったもの。

 僕が六歳になった時に貰った誕生日プレゼントだった。


 因みに、これが月世界(ムーンワールド)で初めて貰った誕生日プレゼントだ。

 というのも、この月世界(ムーンワールド)では、誕生日プレゼントを贈るのは六歳と九歳の時だけ。


 なぜかはわからないけど、そう決まってるらしい。

 けど、禁止されてる訳じゃないから、別に送っても大丈夫みたい。


 だが、母親はそいういう決まりをしっかり守る人だ。

 なので、六歳になるまで誕生日プレゼントはお預け状態でした。


 このモノクルとピアスは、母親と父親で決めたものだそうだ。

 しかも、九歳の誕生日プレゼントも既に用意してあると母親から教えてもらった。

 それがなんなのかまで教えて欲しかったが、流石にその願いは叶いませんでした。


 因みにですが、ピアスを付ける時は全く痛みがなかったです。

 というのも、母親は『癒』の適性能力者で、ある程度の傷なら治すことができる。

 なので、癒の能力を使いながら、左耳の耳たぶにピアスを付けてもらいました。


 あ。少し脱線したので、話を戻そう。

 まあ、何が言いたいかというと、このモノクルを身に付けていれば。

 いつか美女の目に止まり、興味本位で声を掛けてくれるかもしれないんだ。


 可能性としてはかなり低く、ほんの少しだけしかない。

 とても脆く、直ぐに崩れ落ちてしまいそうなガラスの希望だ。

 けど、必ず出会ってみせる。そして、あの約束を交わし、絶対に果たす……。


 二つ目は、冒険者になること。

 日世界(サンワールド)では父親と同じ消防士になろうと考えていた。

 だから、当然月世界(ムーンワールド)でも目指す先は父親と同じ冒険者だ。


 そこまではいいのだが、問題なのは冒険者になれる年齢。

 月世界(ムーンワールド)では、十六歳から成人として認められる。

 言うまでもないが、成人にならないと冒険者として働くことはできない。


 つまり、僕が冒険者になれるのは十六歳になってから。

 だけど、もっと早く冒険者になれる方法が一つだけある。


 それは、『冒険者基識学園』を卒業すること。

 冒険者基識学園とは、冒険者になる上で必要な基礎知識を学ぶことができる機関。


 八歳から十歳までの子供が入学可能で、約三年間、冒険者について学べる。

 冒険者基識学園を卒業すれば、最短十二歳から冒険者になれるということだ。


 けど、当然誰でも入学できるわけではない。

 入学するためには、入学試験に合格する必要がある。


 その試験内容は三つあり、学習能力を図る『筆記試験』。

 基礎体力を測る『体力試験』。基礎能力を測る『能力試験』。


 その中でも、一番の難関は能力試験。

 この試験で、ほとんどの人が脱落している。


 毎年、数百人の子供たちが入学試験に望むそうだが。

 その中で合格出来るのは、たったの二人程度。


 最悪の場合、入学者がゼロの年もある。

 しかも、試験内容は毎年変わると共に、難易度が上がっており。

 近年では、入学者がゼロというのが普通になりつつあるらしい。


 それでも難易度を上げ続けている理由は……。

 別に公表されてなく、詳細については明らかになっていないが。

 恐らく、それは冒険者という職業が原因ではないかと言われている。


 というのも、冒険者は人気がある反面、一番死亡率が高い職業なんだ。

 例え、冒険者になることができても、無事に生き延びている人は極少数だけ。

 故に、より立派な冒険者に育て上げるべく、試験の難易度も上がっているそうだ。


 そう考えると、なぜ難易度を上げ続けているのかも納得がいく。

 けど、難関だからこそ、乗り越える価値があるというものだ。


 乗り越えられた時、達成感が生まれ、より強くなろうと思うことができるはず。

 だから、僕は冒険者基識学園に入学し、無事に卒業して冒険者になると決めた。

 その為に、今は影の能力を極めることに専念中です。


 三つ目は、最高の英雄になること。

 この月世界(ムーンワールド)には、優れた行いをした人が五人存在し。

 それぞれの名を、木の英雄・流の英雄・土の英雄・火の英雄・光の英雄と言う。


 この五人は、絶望的な状況を打破し。

 沢山の人を救ったことから、『五英行』と呼ばれている。


 つまり、五英行こそ、この月世界(ムーンワールド)で言う最高の英雄だ。

 だから、僕の最終到達点は五英行と同じように名を残すこと。

 六人目の英雄になって、この月世界(ムーンワールド)に月影浸夜という名を浸らしめてみせる。


 最後の四つ目は、あの時に救えなかった女性を救うこと。

 二つの世界が繋がっているのなら、あの時の女性も存在しているはずだ。

 もちろん、この月世界(ムーンワールド)でも、日世界(サンワールド)の時と同じような状況になるとは限らない。


 けど、僕が英雄になって、沢山の人を救っていけば。

 再び同じ状況が来ても、今度こそ救うことができるかもしれない。


 だから、今度こそ必ず救う。

 あの時に変えられなかった絶望を希望に変えてみせる。

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