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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
22/22

第ニ十二話 真と夜の恩返し④

 できる限り早く依真に追いつきたいのだが。

 先程、体力が保たなかったことを踏まえ、小走りで移動することにした。


 今走って依真に追いつけたところで、体力が保たなければ意味がない。

 なぜなら、体力が切れる=魔力が切れることに繋がり、能力を使えなくなるから。


 もちろん、体力が回復さえすれば全く問題ないのだが。

 体力が完全にゼロになると、回復するのにかなり時間が掛かってしまう。


 最悪の場合、今日一日は能力を使えない可能性だってあるんだ。

 それだけはなんとしても避けなければならない。


 ということで、小走りで移動すること約十三分後――。


 残念ながら依真に追いつくことはできず、そのまま安全地帯に到着しました。


 直ぐにいつも依真と遊ぶ場所へ向かうと。

 日陰で無害魔獣と戯れている依真を発見した。


「ごめん。お待たせ〜」


 駆け足で依真の元へ向かいながら声を掛けると。

 僕の声に気づいてくれたらしく、パッとこちらに振り向き。

 心配そうな目つきで僕を見つめながら、一直線にこちらへ駆け寄って来た。


「お〜、浸夜。遅かったけど、何かあったの? もしかして、迷子になっちゃったとか?」


 予想していた通り、依真は真っ先になんで遅くなったのかを聞いてきた。


 言うまでもないが、依真へのプレゼントを買っていたことは秘密だ。

 だから、他の理由を言わないと、下手したら勘付かれてしまうかもしれない。


 となれば、適切な理由はあれしかないな……。


「いや、ちょっと人助けをして遅くなっただけだよ。待たせちゃってごめんね」


 正確には、人助けをしようとしただけで終わってしまったが。

 実際に起こったこと自体は本当のことだから、全く嘘というわけではない。


 これなら、依真にも怪しまれないはずだ。

 というよりも、これ以外の理由が思いつかん。


「そうなんだね。てっきり場所がわからなくなってたのかと思って心配してたよ」


 よしよし。

 なんとか回避できたみたいだな。


 で、でも……。


「流石にそんな方向音痴じゃないから安心して」


 心配してくれたのは嬉しいけど、なぜか母親目線なんだよな。

 まあ、依真の方が年上だから、自然とそういう視点になるんだと思う。


 そういえば、依真って少し母親に似ている気がする。

 特に、距離感がバグっているところがそっくりですね。


 お陰で、もうすっかり慣れてしまった。

 例え、今みたいに右腕に抱きつけれていても、別に動揺なんてしない。

 母親に抱きつけれた時みたいに、ただ平然として喜びを表情に浮かべるだけです。


「そっか。じゃあ、早速アクセサリー作りを始めよっか」


「だね。ではでは……。収影(しゅうえい)


 僕はそう発すると同時に、頭の中で先程のケースを想像した。

 すると、影が円形状に変化していき、中からヌルッとケースが出てきた。


 ケースが完全に影から出て来たのを確認し。

 『収影』を解除すると、影の形が元に戻った。


「お〜! ありがとう、浸夜」


 ケースが出現したのを確認した依真は、僕にお礼を言った後。

 直ぐにケースを開け、ゴソゴソと器具などを取り出し、作る準備を整えていた。


 ケースの中には、様々な器具や宝石が入っていたが。

 残念ながら、僕は全然詳しくないから、何が何やらわからない。

 なので、僕は邪魔にならないよう、近くにソッと座って大人しく待つことにした。


「それで、浸夜は誰にプレゼントするの? やっぱり、璃映さん?」


「うん。母さんにも、いつもお世話になってるからね。それに、今着ている服もそうだけど、沢山のものを貰ってるから」


「なるほどね〜。そういえば、さっき璃映さんが言っていた塞養さんってどんな人なの?」


「あ、そっか。依真はまだ会ったことなかったよね」


 いつも依真と遊ぶ時は、必ず僕が迎えに行っている。

 だから、依真は一度も卯月衣服店に来たことがない。


 しかも、空陰武具店に衣服を届ける時は、基本的に僕が行っているので。

 プライベートなら兎も角、塞養さんが空陰武具店に行ったことはないはずだ。


「塞養さんは、卯月衣服店で働いている人のことだよ。いつも元気で明るい人なんだ。見たことはないけど、衣服も作ったりするらしい」


「そうなんだ……。じゃあさ、その塞養さんにもアクセサリー作ってもいいかな?」


「ん? いいと思うけど……。依真と塞養さんって、何か接点あったっけ?」


「ううん。特に接点はないんだけど、私が持っている衣服は、全部璃映さんから貰ったものなの。だから、その衣服の中には、塞養さんが作ったものも含まれていると思うから。そのお礼として、塞養さんにもアクセサリーを送りたいと思ってね」


「そっか。じゃあ、塞養さんには僕から渡しておくよ」


「ありがとう。張り切って作るね」


 ということで、回連さん・母親・塞養さんにアクセサリーを作ることが決まり。

 依真に作り方を教えてもらいながら、一緒にアクセサリーを作っていった。



◼️◻️◼️◻️



 僕と依真は黙々とアクセサリー作りに専念し。

 計三個のアクセサリーを完成させることができた。


 因みに、アクセサリーはループタイにした。

 ループタイに決まった理由は、全員が常にシャツを着用しているから。


 何を作ろうか依真と相談した結果……。

 せっかくなら、いつも身に付けれるようなものを贈りたい。

 そういう結論に至り、シャツに一番合うループタイに決定しました。


 各ループタイは、全く一緒のものではなく。

 回連さんのは、翠玉(エメラルド)。母親のは、紅玉(ルビー)。塞養さんのは、蒼玉(サファイア)を組み込んだ。

 紐は三つとも黒色で統一し、それぞれの宝石を組み込む土台は金になっている。


 それぞれのループタイを木箱に入れた後。

 母親のは、赤色。塞養さんのは、青色。回連さんのは、緑色で包装した。


 やはりプレゼントとして渡す時。

 包装されているか、されていないかでグンッと気持ちが変わってくる。

 どちらの方が嬉しいかと聞かれたら、全員が包装されている状態を選ぶはずだ。


 ということで、遂にプレゼントとして渡す準備が整いました。


 僕はもう一度『収影』を使い、ケースを影の中へしまった。

 もしも、持って帰るのを忘れてしまったら元もこうもないからね。


「よし。プレゼントを作り終えたところで……。今日は早めに帰ろっか。遅くなったら、塞養さんが帰っちゃうかもしれないし」


 ケースをしまい終えた辺りで、タイミングよく依真が話しかけてきた。


「そうだね」


 確かに、今日は早めに帰った方がいい。

 いつも僕が自宅に帰る頃には、もう塞養さんは帰ってしまっているからな。


 けど、まだ帰るわけにはいかない。

 僕には、まだやるべきことがあるから……。


「その前に、ちょっといいかな……?」


「ん? どうかした?」


 依真が聞き返してきたタイミングで、僕はパーカーの内ポケットに左手を入れ。

 先程購入したプレゼントを取り出し、両手でそっと掴んで依真へと差し出した。


「あ、あの〜。これ、僕からの気持ちなんだけどさ……」


 本当は、もっと気持ちを言葉にして伝えたいのだが。

 初めてのことで緊張しているせいか、うまく言葉が出てこなかった。

 けど、ちゃんと気持ちは伝わっているみたいだ。


 プレゼントを差し出すと、依真の表情がパーッと明るくなり。

 喜びが溢れんばかりの満面の笑みを浮かべているのが見て取れた。


「え!? これ私に? 貰っちゃっていいの?」


 次に、依真は右手を口元に当てて、度肝を抜かれたような表情になった。

 依真の反応を見た感じ、ちゃんとサプライズとして渡すことができたみたいだな。


 その様子を見て、なんとも言えない達成感を感じ。

 自然と僕自身も嬉しくなっていき、頬を赤くしながらコクリと頷いた。


「わ〜、嬉しい! 開けてもいい?」


 すると、プレゼントを優しく両手で受け取り。

 依真は眩しいほどに深い喜びを瞼に乗せ、嬉しそうに聞いてきた。


「うん。気に入ってもらえたら嬉しいんだけど……」


「え〜、なんだろ〜?」


 依真が喜んでいるのは間違いないが、本題はここからだ。

 あのブレスレットを見た後、果たしてどういう反応をするのか……。


 依真は丁寧に包装紙を剥がし、木箱を開けて中身を確認した。

 すると、何かを察したかのように、表情が一瞬で切り替わった。


「これ……。もしかして、このブレスレットを買うために、私に先に行くように言ったの?」


「そ、そう。依真、サプライズの方が嬉しいって言ってたから、内緒にしたくてね」


 僕が照れくさそうにそう伝えると、直ぐに依真は口角を上げ。

 驚喜に近い表情を顔面に漲らせ、嬉しさを顔一面に浮かべていた。


「そうだったんだね……。ありがとう、浸夜。大切にするね」


「うん。喜んでくれて良かったよ」


 どうやら、気に入ってもらえたみたいだ。

 これで、やっと恩返しができたってことかな……。


 依真は木箱からブレスレットを取り出し、右手首に身に付けた。

 その後、木箱と包装紙をパーカーの右ポケットへと仕舞い込んでいた。


「よし。じゃ、帰ろっか」


 プレゼントを渡し終えたところで、いよいよ帰ろうと右足を踏み出した。


「あ。待って」


 だが、すかさず依真によって引き止められ。

 僕はピタッと足を止めて少し戸惑いを残しつつ、依真の方を振り向いた。


「私からも、浸夜に渡したいものがあるの」


 ん、僕に渡したいもの……? と疑問に思っていると。

 依真はパーカーの内ポケットから、包装された一つの箱を取り出し。

 両手で優しく掴んで僕に向かって差し出してくれた。


「はい。いつも、私と遊んでくれてありがとう。これ、感謝の気持ちです」


「え? あ、ありがとう」


 僕はその箱を両手で受け取り、予想外の展開に呆気に取られながらも。

 不意に渡されたことへの嬉しさが抑えられず、自然と表情に滲み出ていた。


 まさか依真も僕と同じようにプレゼントを用意してくれていたなんて……。

 そんなの思いもしなかったし、そういう素振りも全く見せてなかった。


 でも、上手く言葉にできないんだけど。

 なんだか、凄く嬉しいな……。


「ねえねえ。早く開けてみて」


「う、うん」


 依真にやや圧を込めた目線を向けられ。

 僕は丁寧に包装紙を剥がし、木箱を開けて中身を確認した。


 その瞬間、木箱の中に入っていたものを目の当たりにし。

 パッと目を見開き、嬉しさ以上に驚きの方が上回った。


 なぜなら……。


「こ、これって……。ブレスレット?」


 そう。

 木箱の中には、ブレスレットが入っていた。


 しかも、ただのブレスレットじゃない。

 さっき、僕が依真にプレゼントしたブレスレットと同じものだった。


 正確には、全く同じものというわけではなく。

 中心部に組み込んである宝石が白色に煌めいていた。

 なので、依真と色違いのブレスレットってことになる。


 ということは、僕が買ったブレスレットの左側にあったであろう。

 同じ形のブレスレットを買ったのが、他でもない依真だということか。


「そう。実はね〜。私も同じブレスレットを渡すつもりでいたの。昨日、パパがこのブレスレットを作っていた時、うまく言葉にできないんだけど……。凄く浸夜にピッタリだと思ったんだ」


「そっか……」


 これで合点がいった……。

 だから、僕があのブレスレットを買いたいって言った時。

 回連さんは驚きながら、依真へのプレゼントかと聞いてきたんだな。


「でも、浸夜も同じものを選んでくれていたなんて思っても見なかったよ。なんか、運命的っていうかさ……。二人の心が繋がってる感じするね」


「えへへ〜。なんちゃって……」


 依真は照れくさそうに口にした言葉。

 その言葉を聞いて、僕は深く共感した。


 何も仄めかすような言葉を交わしていないのにも関わらず。

 お互いにプレゼントを用意し、同じものを選んでいたなんて……。


 そんなこと普通はない。

 いや、不可能だと断言できる。


 これは依真が言ったように、僕たちの心が繋がっているとしか思えない。


 だから、僕はそう信じるよ。

 例え、他の人が否定しようとも、絶対に僕は肯定する。


「そうだね。ありがとう、依真。大切にするよ」


 この繋がりを永遠に切り離さないように……。

 どこにいても、どんな状況になろうとも、絶対に繋ぎ止める。


「こちらこそだよ。これからもよろしくね」


「うん。よろしく」


 そう言った後、僕はブレスレットを左手首に身に付け。

 木箱と包装紙をパーカーの右ポケットへと仕舞い込んで。

 いつもと同じように依真と手を繋ぎながら、空陰武具店へ向かって歩き出した。

 さっきのことがあったからか、二人の距離がより一層近くなったような気がする。


 因みに、帰っている際に聞いたんだけど。

 僕たちのブレスレットに組み込んである宝石の名は、曹灰長石(ラブラドライト)

 この宝石には、多様性や自由の象徴っていう意味が込められているらしい。



◼️◻️◼️◻️



 空陰武具店に到着後――。

 すぐさま依真の部屋に移動し、ケースを元あった机の上に戻した。


 僕たちが帰った時、回連さんはいつものように鍛冶場に居たらしく。

 残念ながら、会うことはできなかった。


 できれば、依真が回連さんにプレゼントを渡すところを見届けたかったが。

 もう少ししたら、塞養さんが帰ってしまうので、ここは仕方ないと腹を括り。

 僕は依真に別れを告げた後、即座に自宅へと向かった。



◼️◻️◼️◻️



 無事に自宅に帰還することができ、ゆっくりと扉を開けると。

 そこには塞養さんが立っており、今まさに帰ろうと左腕にバックを掛けていた。


 ギリギリセーフ。

 なんとか、間に合ったみたいだな。


「お帰りなさい、浸夜くん。今日はいつもより帰って来るの早いね」


「はい。ちょっと塞養さんに渡すものがあったので、いつもよりも早めに帰って来ました」


 中へ入ると、直ぐに塞養さんが気づいて話しかけてくれたので。

 僕は長々と引き止めるわけにはいかないと思い、直ぐに本題を切り出した。


「渡すもの? 私に……?」


 予想していた通り、塞養さんは首を右に傾けて、疑問を提示していた。

 その隙に、僕はズボンの後ろポケットから青色の紙で包装された箱を取り出した。


「どうぞ。依真が塞養さんにお礼を伝えたいらしくて、渡すように言付かってるんです」


 そして、落とさないように両手でそっと掴み。

 ちゃんと依真のことを伝えながら、塞養さんに差し出した。


「依……真……」


 すると、塞養さんが両手で受け取ると共に。

 掠れた声を途切れながら依真の名前を口にした。

 その声を聞き、重要なことを忘れていたことに気づいた。


 そうだった。

 塞養さんも依真とは会ったことないから、よく知らないはず。


 母親から聞いているかもと思っていたが。

 塞養さんの反応からして、どうやら依真のことを聞いてはいないっぽい。


 なので……。


「依真は、僕の友達でよく遊んでいる女の子のことです。その子が塞養さんにって、一生懸命作ったものなんです」


 僕は依真のことを簡潔にまとめ。

 どんな気持ちでプレゼントを作ったのかを伝えた。


「そう。ありがとう……」


 依真のことを伝えると、塞養さんは幸せを噛み締めるかのように。

 プレゼントをギュッと胸部に当て、幸福感に満たされているように見えた。


 前髪で隠れてはいるが、微かに口元が緩んでおり。

 少なからずとも、塞養さんが喜んでいることは見て取れた。


「依……。その子に、喜んでいたって伝えてもらえるかな……?」


「もちろんです。必ず伝えますね」


「うん。じゃあ、また明日ね……」


 塞養さんはプレゼントをバックの中に入れ。

 僕に右手を振った後、その場を逃げるように颯爽と帰って行った。


 その後、母親にもプレゼントを渡し。

 いつも感じている感謝を伝えることができた。


 母親は余程嬉しかったのか。

 歓喜の余り、いつも以上にギュッと抱きしめられました。


 後日、依真から無事に回連さんへプレゼントを渡せたと聞いた。

 しかも、それから三人は必ずループタイを身に付けてくれるようになった。

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