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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
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第二十話 真と夜の恩返し②

 走ること十分後――。


 過去最速で空陰鍛冶屋に到着。

 したんだけど……。


 そこには、一つも汗をかかず、平然とその場に立っている依真。

 そして、膝に手を乗せ、ゼエゼエと息を切らせている僕が居ました。


 あ、あれ?

 僕、これでも一応鍛えているはずなんだけど。

 少し走っただけで疲れたってことは、まだ鍛錬が足りないってことかな。


 陽光を浴びながら走ったとはいえ。

 まさかこんなにも体力を消耗してしまうとは……。

 予想外すぎて何も言えません。


 いや、ていうよりも。

 結構な距離を走ったのに、なんで依真はケロッとしてるんだろ。

 疲れないにしても、息切れくらいはすると思うんだが……。


「はぁ……、はぁ……」


「だ、大丈夫?」


「だ、大丈夫……。それよりも……、依真は平気なの?」


「うん。私は全然平気だよ。まだまだ体力有り余ってる」


「そ、……そっか……。なら……、良かった……」


 依真が大丈夫そうで安心したけど、なんかカッコ悪すぎるな僕……。


 僕の予想では、途中で依真が息を切らせてしまい、急遽徒歩で移動し。

 そのままの流れでおんぶかお姫様抱っこをして、空陰鍛冶屋へ直行する気でいた。


 だが、結果は虚しくもハズレてしまいました。

 おんぶかお姫様抱っこをして向かおうと思っていた時の自分を殴ってやりたい。


 まあ、そもそもそんな度胸がないから、実行には移さなかったとは思うけどね。

 それに何はともあれ、目的地に辿り着けたから良しとしよう。


 僕は深く空気を吸い込み、ゆっくりと息を吐いて呼吸を整えた。


「もう大丈夫そう?」


「うん。もう大丈夫」


「そっか。じゃあ、中に入ろう」


「そうだね。回連さんに見つからないように、そっと入って出よう」


 依真の情報からすると……。

 回連さんは、普段この時間帯は鍛冶場に引きこもっているらしいから。

 入る時は回連さんと会う可能性は限りなく低い。


 けど、扉を開ける音を聞いて表に出てくるかもしれない。

 なので、なるべく大きな音を立てないように入ろう。


 依真がそ〜っと扉を開けて、その後ろに続いて僕も中に入った。


「あれ? 二人とも、お帰り。何か忘れ物かい?」


 中に入った途端、聞き馴染みのある声が聞こえた。

 僕と依真は、恐る恐るその方向へ目線を向けていくと……。

 そこには、鍛冶場に引きこもっているはずの回連さんが立っていた。


「げっ! パパ、なんでここに居るの!?」


 依真は驚きの余り、回連さんに失礼なことを口にしていた。

 因みに、声は上げていないが、僕も依真と同じように驚いてました。


「げって言わなくてもいいだろ。お客さんが来たから、表に出てきただけだよ」


 お客さんという言葉に反応し、回連さんの隣に居る女性に目線を向けると。

 そこには、またまた見覚えのある人物の姿が目に飛び込んできた。


 その人物はというと……。


「ん。母さん……?」


 僕の母親、月影璃映だったのだ。

 回連さんもだったが、母親がここに居るのも予想外だ。


 僕は不思議そうに母親を見つけていると。

 ニッコリと笑みを浮かべ、呑気に右手を振っていた。


「やっほ〜、浸夜」


「どうしたの? 今日、お店休みだっけ?」


「ううん。お店は塞養さんにお願いしてるの。母さんは、このおじさんに頼まれた衣服を届けに来ただけよ。用が済んだから、今から帰ろうと思ってたところなの」


「そうだったんだ」


 レジカウンターテーブルを見ると、大きな黒色の箱が置いてあった。

 恐らく、その箱の中に頼まれた衣服が入っているのだろう。


 てか、ここに来た理由はわかったけど、おじさんって……。

 そういえば、回連さんは父親と同い年で、母親の一個下だと聞いたことがある。


 ん……?

 ということは、母親はおば……。

 いや、やめておきましょう。


 それに、三十代はまだおばさんやおじさんじゃないはずだ。


 単純に仲がいいからそう呼んだだけだと思う。

 回連さんを見ても、別に怒っている様子はないし。


「浸夜のお母さん……」


 依真がボソッと呟いた後、一直線に母親の元へ近づいて行った。

 すると、依真に気づいたらしく、母親は目線を合わせるべく瞬時にしゃがんだ。


「初めまして、輪陰依真って言います。遅くなりましたが、前に沢山の衣服をプレゼントして頂き、ありがとうございました」


「いえいえ、いいのよ。久しぶりね、依真ちゃん。昔、何回か会ったことがあるんだけど、私のこと覚えてるかな?」


「い、いえ。すいません。パパから璃映さんのことは聞いたことがあるんですけど……。昔のことはよく覚えていないんです」


「そっか〜。まあ、まだ小さかったもんね。でも、本当に大きくなったね……」


 母親はそう言いながら、右手で依真の頭を撫でており。

 どこか懐かしそうな表情を浮かべ、ニッコリと笑みを溢していた。


「これからも、浸夜をよろしくね」


「はい。任せて下さい」


「では、これで失礼します。行こ、浸夜」


「うん。じゃあね、母さん。なるべく早く帰るから」


 依真は母親にお辞儀をした後。

 容赦なく僕の右手を掴んで一緒に暖簾へと向かった。


「ええ。ちゃんと依真ちゃんを送り届けるのよ」


「はーい」


 依真が暖簾を潜って中へ入ったが。

 僕は入る手前で立ち止まって、母親の方を振り返りながら言葉を交わした。


「あ。それと、依真ちゃんに変なことしちゃ駄目よ」


「し、しないよ! もう、何言ってるんだよ!」


 母親がいきなりとんでもないことを言い出し、思わず声を荒げてしまった。

 念の為だろうが、そんなこと言わなくても何もしないに決まってるでしょ。


 僕はプンスカしながら即座に暖簾を潜り、依真に続いて家の中へ入った。


 

◼️◻️◼️◻️



 僕たちが家の中へ入ってからの母親と回連さんはというと……。


 二人とも懐かしそうな表情を浮かべ。

 僕たちが交えることができない会話を繰り広げていた。


「久々に会ったけど……。回連が言ってたように、本当にそっくりね……」


「うん。でも、浸夜くんも雰囲気や性格は、あいつとよく似てるな」


「そうね。でも、浸夜の優しい性格は私に似たのよ」


 母親は誇らしげに呟いた。


「そう……かな? どちらかといえば、璃映よりも……」


「え? 何……? 何か言いたいことでもあるの?」


 回連さんが反論しようとするも、すかさず母親が圧による攻撃を繰り出す。


「なんでもありません」


 結果、呆気なく降参した回連さん。


「そう言えば、依真から聞いたんだけどさ。浸夜くんも冒険者を目指してるらしいね」


「そうだけど……。『も』ってことは、まさか依真ちゃんも?」


「いや、『も』っていうのは、あいつと同じ道を目指してるんだなって意味で言ったんだよ」


「あ〜。そういうことね。ビックリしたわ」


「それに、依真には冒険者の道は歩ませないよ。依真は俺と同じ鍛冶師になりたいって言ってるから、その道を歩ませるつもりでいるんだ」


「そう。なら安心ね。いつか立派な鍛冶師になれたらいいわね」


「うん……。なあ、璃映」


「ん。どうかした?」


「これは俺の勝手な願いなんだが……。将来、依真が作った武器を使って、浸夜くんが冒険者になったらさ。二人にとっても、俺たちにとっても最高じゃないかって思うんだ」


「互いに支え合い、助け合っていけたら……。いつか、あいつみたいな存在になるんじゃないかってさ……」


 回連さんの声は徐々に掠れていき、切ない表情を浮かべていた。

 そんな回連さんを見て、母親も同じように切ない表情になっていった。


「そうね。いつか、そうなったらいいわね……」


 二人の表情は次第に暗くなり、周囲には重たい雰囲気が漂っていた。


「じゃあ、そろそろ帰るわね」


「うん。長話をしてすまなかったね」


「ううん。久しぶりに話せて良かったわ。また何かあったら、いつでも連絡してね」


「了解。また連絡するよ。気をつけて帰りなね」


「ええ。ありがとう」


 そう言った後、母親は卯月衣服屋へ帰って行った。


「さてさて……。俺も仕事するかな」


 回連さんは、母親が帰ったのを確認した後。

 母親が持って来た箱を持ちながら、暖簾を潜って家の中へ入った。


 だが、あることが気になったらしく。

 ピタッと足を止めて、依真の部屋がある方向を見つめた。


「そういえば……。依真と浸夜くんは何をしに戻って来たんだろ?」


「まさか……。いや、まだ二人とも子供だし問題ないか……」


 あることが脳裏に浮かび、少し気になりながらも。

 大丈夫だと自分に言い聞かせ、再び歩き出して鍛冶場へと向かった。

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