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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
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第十八話 真と夜の触れ合い②

「でも、よくわかったね。私、種族のことについて何も言ってなかったと思うんだけど……」


「う、うん。依真の手の甲に六角形の鱗みたいな模様が浮き出ていたから、もしかしてと思ってね。龍人種の人は、その模様があるらしいからさ」


「そっか。この模様って、龍人種にしかないんだね。全然知らなかったよ」


「じゃあ、龍人種の固有能力と人体能力も知らないの?」


「ううん。固有能力と人体能力は、パパから教えてもらったから知ってるよ」


「確か……。固有能力が『龍鱗鎧纏(りゅうりんかいてい)』。人体能力が『感嗅(かんきゅう)』だったと思う」


「龍鱗鎧纏は、手の甲から頬の位置まで龍の鱗を出現させ、鎧のように纏うことができる能力。使ったことないけど、腕から頬にかけて出現するらしいよ」


「感嗅は、においを嗅ぐだけで相手の感情を感じ取ることができる能力なんだってさ」


「そうなんだ」 


 龍人種にはそういう能力が備わっているのか。

 実際に見たことはないけど、龍鱗鎧纏っていう名前はなんかカッコいいな。

 なんとなくだが、男心をくすぐられるネーミングだ。


 そういえば、龍人種の手の甲は少し硬いと聞いたことがある。

 けど、今まで依真以外の龍人種の人と出会ったことがないから。

 実際にそのことを確かめたことがなかったんだよね。


 ……。


 やばい……。

 なぜか、今凄く触ってみたい。

 能力名もそうだが、どのくらい硬いのか興味が湧いてきた。


 普通なら、依真に許可を貰うべきだが。

 依真は、いつも僕に許可を取るわけでもなく、さも当然のように手を握ってくる。


 今まで友達が一人もできたことがないから知らなかったけど。

 恐らく、友達というのはそういうものなのだろう。


 よし!

 なら、今回は僕の方から手を握ってみよう。


 ということで、僕は両手を伸ばし。

 依真の右手を優しく握って手の甲を触り、模様の硬さを確認した。


「お〜。知ってはいたけど、手の甲が硬いんだね。本当に龍の鱗みたい」


「う、うん。そ……、そうみたい……だね」


 依真の手の甲を触っていると、手首に指が触れてしまった。

 その時、はっきりと伝わってきたのは、急激に速くなっていく脈だった。


 しかも、口にした声は少し震え、言葉が途切れており。

 明らかに先程までの様子とは異なっていることに気づいた。


 それらの現象を不思議に思い、依真の顔に目線を向けると。

 耳の付け根から頬まで真っ赤に染まっており、恥ずかしそうにしていた。


 その表情を見て、聞かなくても察した。

 間違いなく依真は照れている。


 歳上だからか、依真からは頼れるお姉さん感があったが。

 ちゃんと女の子らしい一面を目の当たりにし、なぜか嬉しさが込み上げてきた。


「そ、そそ、そういえばさ……。浸夜は、なんの種族なの?」


 すると、恥ずかしさに耐えられなかったのか。

 依真はあたふたしながら、僕へ質問を投げかけてきた。


「僕は、回連さんと同じ練人種だよ。けど……。練人種は、これといって見た目に特徴がないから、ぱっと見なんの種族なのかわかんないんだよね〜」


 僕が少し笑いながら、練人種のことを口にすると。

 先程まで照れていた依真の表情がスッと真剣な目つきに変わり。

 徐々に口元を緩ませ、ほのかに笑みを残して口を開いた。


「大丈夫だよ」


「ん?」


 言葉の意図がわからず、疑問を口にすると。

 依真が右手の指を絡み合うようにギュッと僕の右手を握った。


「例え練人種に特徴がないとしても、私は……」


「私は、どんな時でも絶対に浸夜を見つけ出すから……」


「ん? う、うん。ありがとう……?」


 依真は放った言葉と共に、何かを訴えかけているような眼差しを向けていた。

 けど、僕はそれらの意味がよくわからず、疑問を残しつつ返事を口にした。


 えっと、どういうことだろう。

 つまり、僕がどこに居ても見つけ出すってこと?


 ……。


 いや、凄い嬉しいよ。

 それは本当。


 けど、同時に凄い自信だと思ってしまった。


 依真とは昨日出会ったばかりだ。

 まだ、お互いに知らないことの方が多いはず。


 それなのに、僕のことを絶対に見つけ出すという自信。

 一体、どこから湧いてくるのだろうか……。


 あ。でも、そっか。

 さっき、依真が龍人種だと判明したばかりだ。


 ということは……。


「もしかして、感嗅で誰なのか見分けられるとか?」


「ううん。そういうことじゃないよ」


「あ。そうなのね……」


 いい考えだと思ったのだが。

 依真にあっさりと却下されてしまった。


「けど、浸夜からはいつも優しい匂いがするよ。なんというか……。お日様の匂いみたいな、いい匂い。だから、あながち間違いじゃないかもね」


「お、お〜。そうなんだ」

 

 優しい匂いと聞いて心底安心した。

 これで、陰気臭い匂いがするなんて言われたら、多分一生立ち直れない。


 因みに、お日様の匂いってダニの死骸の臭いだとか聞いたことがあるけど。

 あれって本当は間違っているんだってさ。


 正確には、柑橘系の爽やかな香りのもとになるオクタナール。

 他にも、バラのような香りがするノナナールなどが含まれているらしい。


 以上が、知っていても特に意味もない情報でした。


 とりあえず、いい匂いがするんなら一安心だ。

 そう思った瞬間、急に何かが僕の顔面めがけて飛び掛かって来た。


「うおっ!」


 いきなり視界が真っ暗になったことに驚き、行天したような声で叫んだ後。

 依真と繋いでいた右手を離し、顔にへばりついた物体を両手で掴んで引き離した。


「あははっ! 大丈夫、浸夜」


 依真は右手を口元に当てながら、上品に笑っていた。


「う、うん。大丈夫」


 欲を言えば、笑っていないでなんとかして欲しかったが……。

 それほど面白かったんだということで納得しよう。


 それに気のせいか。

 依真が抱き抱えている木兎(キウサギ)も一緒に笑っているように見える。


 まあ、それはさておき。

 一体何が飛び掛かって来たんだろう?


 僕は目線を両手で掴んでいる物体へ向けた。

 すると、目に飛び込んできたのは……。


「……なんだ。何かと思ったら、木兎(キウサギ)か」


「だね〜。でも、珍しいね。木兎(キウサギ)は、普通は木にしか登らないはずなんだけど……。ん? この尻尾って……」


 その木兎(キウサギ)をよく見ると。

 兎の尻尾ではなく、狸の尻尾が生えていた。

 そのことに依真が気付き、咄嗟に右手で尻尾を触った。


 すると、その木兎(キウサギ)がピクリと反応し。

 ポンッという音と共に、体を覆うほどの白い煙を発生させた。


「「はあっ!」」


 僕と依真は、その音と煙に驚いて叫ぶと。

 煙の中から一匹の化狸(バケダヌキ)飛び出して叢の中へ逃げて行った。


「な、なんだ……。木兎(キウサギ)に化けていた化狸(バケダヌキ)だったのか」


「ビックリしたね〜。化狸(バケダヌキ)木兎(キウサギ)に化けているところ初めて見た」


 確かに周囲を見渡しても、木兎(キウサギ)に化けている化狸(バケダヌキ)は一匹も見当たらない。


 つまり、今回のような現象は超絶珍しいってことだな。

 そんな激ムズ遭遇イベントを初めてここに来た僕に当たるとはね。


 いいのか悪いのかわからんが……。

 とりあえず、何も害がなかったから良かった。


 これで得体の知れない生物とかだったら。

 多分、反射的に影の能力を使ってボコボコにしていたわ。


 けど、お陰で依真とも結構打ち解けてきた感じがする。

 依真と話している時は、人見知りやコミュ障が作用していないみたいだし。

 今の流れに乗って、あのことを聞いてみようかな。


「依真ってさ。怪魂かいこんってなんなのか知ってたりする……?」


 夢の中で依真が言っていた怪魂かいこんという言葉。

 この怪魂かいこんについては、僕もまだなんなのかわかっていない。


 でも、もし依真が知っていたら。

 あの約束の意味も少しわかるかも知れない。


怪魂かいこん……? ううん。知らないけど……。なんか物騒な名前だね」


「そう……だよね。僕もそう思う」


 依真も怪魂かいこんについてはまだ知らない。

 ということは、現時点であの約束の意味は不明ってことだな。


 ていうか、そもそも(けん)なんて持っていないし。

 今はあの約束を交わす時のピースが揃っていない状態ということだろう。


 なら、まずはその(けん)を入手することを目標にしよう。

 そして、今は依真との仲を円満にしつつ、徐々に怪魂かいこんについて知っていこう。


「ねえねえ、浸夜。あっちの方に行ってみようよ。無害魔獣いっぱい居るみたい」


 依真はそう言いながら、右手人差し指で十時の方向を指した。

 その方向には、無数の無害魔獣たちが屯って居るのが見受けられた。


「うん。行こう」


 僕は左手で依真の右手を握り。

 その場所まで移動した後、一緒に無害魔獣と戯れていた。


 その後、日が暮れるまで無害魔獣と戯れて遊んだ。

 もちろん、ちゃんと依真を空陰鍛冶屋に送り届けました。



 ◼️◻️◼️◻️



 依真を無事に送り届けた後。

 僕は自宅に帰って、母親と一緒に夕食を食べていた。


 今日の夕食は、チーズたっぷりの濃厚カルボナーラ。

 控えめに言って、高級料理店で食事しているかのような味。

 とにかく、めっちゃ美味です。


 黙々と食していると……。

 ふと、気になっていたあることを思い出した。

 そのことを思い出した途端、気付いたら母親に問い掛けていた。


「母さんって、回連さんと仲いいよね……」


「ん? そうね。子供の頃から知っているからかしら……。それがどうかした?」


 子供の頃からってことは、所謂幼馴染というやつだろう。

 残念ながら、僕には幼馴染という存在がいなかったので定かではない。


 でも、二人の仲がいいということは確認できている。

 ということは、家族間でも仲が良かった可能性があるよな……。


「……なら、依真のお母さんとも仲が良かったの?」


 僕がそう聞いたら、母親の表情から一瞬で笑みが消え去り。

 右手に持っていたフォークを止め、目線を下にして暗い表情へと変わった。


「え、ええ……。母さんの、一番の友達だったわ……」


 母親の声は、今までに聞いたことがないほど掠れていた。

 けど、一番の親友ということは、相当親しい間柄だったということになる。


 そして、依真と同じように過去形だ。

 その言葉と表情で、予想は真実へと近づいていった。


「じゃあ……。依真のお母さんってさ。今、どこに居るか知ってたりする? もし知っていたら、教えて欲しいんだけど……」


「あの子は……。今、土の中に居るはずよ……」


「そっか……」


 土の中で生きていられる人は居ない。

 つまり、依真のお母さんは生きていないってことだ。


 母親は、ハッキリと口にしたくないからこそ。

 そのことを遠回しに伝えてくれているんだ。


 依真の言い方から、ある程度は予想していたが。

 やはり、依真のお母さんは亡くなっていたのか……。


 多分母親なら、死因や亡くなった日も知っているんだろう。

 でも、母親の心境を読み取った感じ、これ以上は聞くべきではない。


 とにかく、今後依真と話す時、お母さんの話題を出さないように気をつけよう。

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