第十五話 真と夜を繋ぐ月
歩くこと約二十分が経過――。
やっと空陰武具屋に到着。無事に二人で帰って来れました。
依真の後ろに続いて台車と共にお店の中に入ると、回連さんが出迎えてくれた。
「お帰り、二人とも」
「ただいま、パパ」
「た、ただいま戻りました」
元気そうな依真とは裏腹に、僕は憔悴しきっていた。
というのも、依真に心配させたくなかったから口にはしなかったが。
実は台車で押しているとはいえ、かなりの重量が両腕にのしかかっていた。
しかも、行きは依真と出会えることで頭がいっぱいで気にしなかったけど。
意外に距離が結構あったので、予想以上に体力を消耗してしまったらしい。
これで真っ昼間だったらと考えると、恐ろしすぎてゾッとする。
それでもなんとか空陰武具屋に辿り着けたが。
問題はここからだ。果たして僕は無事に卯月衣服店へ帰還できるのだろうか。
……なんか急に不安になってきたぞ。正直、今のところ全然自信がないです。
そんな感じで不安に駆られながらも、回連さんたちに心配を掛けまいと。
強制的に背筋を伸ばし、疲労感を全く面に出さず、精一杯虚勢を張っていた。
「うん。無事に戻って来て良かった……が。どうしたんだ、依真。なんか、凄い嬉しそうなんだけど……」
なんとか回連さんに気づかれなかったことにホッとして安心していると。
徐々にこちらへ近づいて来るにつれて、回連さんの表情が段々曇っていった。
その原因は依真にあったらしく、凄く心配していることが表情と言葉から伺えた。
まあ、回連さんが心配するのも無理はない。
今の依真は、異常なほど満面の笑みを浮かべているんだもの。
丁度、遊ぶ約束を交わした辺りから、ずっとこんな感じでニコニコしている。
多分、それほど嬉しかったんだと思うけど、これは喜んでいいのだろうか。
それとも、心配するべきなのか、非常に悩ましいところだ。
「ん? そうかな〜? えへへ〜」
「何かいいことでもあったのかい?」
「実はね。浸夜と友達になったんだ〜!」
依真はそう言うと、ガシッと勢いよく僕の右腕に抱きついて来た。
年相応の程良く膨らんだ胸を押しつけられ、その弾力に全神経を持っていかれた。
依真のあまりにも大胆すぎる行動に、僕は反応せずにはいられず。
一気に頬から耳先まで赤く染まり、恥ずかしさであたふたしてしまい。
普段なら絶対に発しないであろう、機械音に似た声が口から飛び出ていった。
いやいや、依真の行動は凄い嬉しいよ。それほど喜んでいるってことだろうし。
でも、明らかに今日友達になった距離感じゃないと思うのは僕だけだろうか……。
それに、この状況を見て回連さんが何も言わないはずがない。
流石の優しいと定評のある回連さんでも、これは怒るんじゃないかな。
そう思いながら、恐る恐る回連さんに目線を向けると……。
「なるほど、そういうことか。良かったな、依真」
「うん!」
回連さんは怒るどころか、我が子に友達ができたことを心から喜んでいた。
間違いなく本心からの言葉だな。表情からも嬉しさが溢れ出ている。
てっきり、君に娘はやらん! みたいな展開になるのかとヒヤヒヤしていたが。
流石にそんなアニメみたいな展開にはならなかったみたいですね。
「よし。友達になった二人を祝して、俺からご褒美をあげよう」
余程依真に友達が出来たことが嬉しいのか。
回連さんは何かを決断したように一人でに大きく頷きながら。
僕と依真を交互に視線を向け、ご褒美という名の喜ばしい言葉を口にした。
「え!? 何をくれるの?」
相変わらず依真はウキウキだ。更にいえば、ずっと僕の右腕に抱きついたままだ。
まあ、状況がどうであれ、ご褒美を貰えるのは嬉しい。それは依真と同じだが。
生憎、僕は緊張と恥ずかしさで言葉が発せず、放心状態でした。
「う〜ん。そうだな〜」
回連さんはしゃがんで、木箱の中に両手を突っ込んでゴソゴソし始め。
鉱石を掴んでは凝視する行為を繰り返し、何か目当てのものを探していた。
「何かお揃いのアクセサリーとか……。ん?」
すると、回連さんはパッと目を開き、右手で一つの鉱石を掴み上げた。
「これは……。月長石か」
どうやら、回連さんが発見したのは月長石だったらしい。
その月長石は、黒色でできていて、光の加減で青色の光沢を出していた。
「そう! その鉱石は、浸夜が選んでくれたんだよ! いいでしょ〜!」
「おお、そうなのか。じゃあ、この月長石を二人が付けているピアスに組み込むっていうのはどうだ?」
『え。そんなことできるんですか?』とを聞こうと思ったのだが……。
「お〜! それいいね〜!」
依真に先を越されてしまったので、僕は口をつぐんだ。
とりあえず、組み込むことができるということですね。了解しました。
「ねえねえ、浸夜はどう思う?」
「僕も凄くいいと思うよ」
「そっか! 良かった〜!」
まさか、この月世界の象徴に相応しいであろう月長石。
そんな素晴らしい鉱石をピアスに組み込めるとは思ってもみなかった。
けど、それが出来る回連さんからの提案。それを賛同しないわけがない。
「じゃあ、二人のピアスとモノクルを預かってもいいかな?」
「わかった〜」
「わかりました」
僕と依真はピアスとモノクルを取り外して回連さんに手渡した。
「ありがとう。直ぐに組み込むからね」
「依真。浸夜くんと一緒に中で待っていてくれないかい?」
「は〜い。じゃあ、行こっか。浸夜」
「うん」
僕と依真は暖簾をくぐり、家の中へと入って行った。
言うまでもないが、依真はその時も僕の右腕にがっしりと抱きついたままでした。
◼️◻️◼️◻️
依真に連れられた部屋はリビングだった。
僕はソファーに腰を掛け、依真がキッチンで飲み物の準備をしてくれていた。
やれやれ、一時はどうなることかと思ったが。
やっと依真からの抱きつき攻撃から免れることができた。
ていうか、外観が卯月衣服店と似ていると思ったが、内観もそっくりだな。
正確には真逆の作りになっていると言った方が正しいかもそれないが……。
チラッと見た感じ、部屋数は全部で九部屋あるみたいだし。
今居るリビングのキッチンやソファーの配置が全く真逆になっている。
この感じだと、多分他の部屋にある家具も同じように真逆だろう。
けれど、別に似ていたとしても不思議じゃない。
これが全く関わりのない人なら結構問題がある気がするが。
今日の出来事で、母親と回連さんがとても仲がいいことがわかった。
なら、ただ仲がいいから同じ構造にしたっていうだけの話だ。
まあ、それはいいとして……。僕が今気になっているのは母親のことだ。
改めて考えたら、なんで僕にプレゼントを渡すお使いを頼んだのかがわからない。
お店の構造を同じにするくらい仲がいいからこそ。
回連さんの娘である依真に自分が作った衣服をプレゼントした。
正確には塞養さんも作っているが、それは特に問題ない。そこまではいいんだ。
気になるのは、わざわざ僕にお使いを頼む必要性を感じないってこと。
僕の人見知りを克服させようとした可能性もなくはないだろうけど。
今まで母親がそのことについて言及したことが一度もなかった。
となれば、目的は別にあると考えるのが妥当だ。
母親が依真と面識があったのかはわからないが。
プレゼントを送るくらいだから、面識があると仮定すると。
自分で渡した方が気持ちを伝えることが出来るし、何より会えて嬉しいはず。
それに、プレゼントの相手や依真のことを教えてくれなかったのも変だ。
母親は几帳面故に、僕がお店の手伝いをする時も前もって事細かく教えてくれる。
そんな母親が伝え忘れるとは考え難い。
つまり、意図的に教えなかった可能性が高い。
なんの目的があって僕にお使いを頼んだのか。
なんでプレゼントの相手や、依真のことを教えてくれなかったのか。
これは、帰ったら母親に直接聞いてみないとな。
間違いなく、何かしらの理由があるはずだし……。
そう考えをまとめ、母親が企てた魂胆を頭の片隅に追いやっていると。
依真がマグカップを片手ずつ持ちながら、こっちに向かって歩いていた。
僕の目の前まで来ると「はい、どうぞ〜」と言いながら。
依真が右手に持っていたマグカップをこちらへ差し出してくれたので。
僕は「ありがとう」とお礼を言いながら、マグカップを両手で受け取ると。
依真は左手に持っていたマグカップを両手で支え、僕の右隣にちょこんと座った。
マグカップの中には、子供が大好きなホットミルクが入れられていた。
もちろん、僕も子供だから大好きですよ。見た目だけだけどね。
マグカップからはモクモクと湯気が立っており、見るからに熱そうだった。
僕は念の為、ふーふーと息を吹きかけて冷ました後、こくこくと飲んだ。
牛乳のほのかな甘味と程よい温度が絶妙にマッチしている。
ポカポカと体の芯まで温まっていき、自然と心が落ち着いていく気がした。
やはり、ホッと一息つく時はホットが一番ですよね。
……はい、どうもすいませんでした。やっぱ中身は変わんないわ。
「そういえばさ。今更だけど、浸夜のピアスとモノクルって、私のとお揃いなんだね」
「だね。形も全く同じものっぽい」
「私は六歳の時にパパから貰ったものだけど……。もしかして、浸夜も?」
「うん。凄い偶然だね」
「でも、なんか嬉しいね。今日、私たちが出会う前から、運命で繋がってたみたいな感じしない?」
「そ、そうだね」
依真が頬をほのかに赤くし、照れながらも口にしてくれた言葉。
その言葉を聞き、僕は吹きこぼれる喜びを抑えられず、ニヤリと笑みが浮かんだ。
突拍子もないことではあるが、依真が言っていることも一理ある気がする。
同じ歳に全く同じものを貰っているなんて、本当に偶然なんだろうか……。
母親と回連さんの仲が良かったなら、お店の構造と同じく。
意図的に同じものを用意していた可能性も考えられる。
けど、一体なんのために……?
例え意図的に用意したんだとしても。
あのピアスとモノクルは、別に特別なものではなさそうだった。
となると、別に特別な意味はなく。
単に同じものを選んだってことになるのか……?
……。
いや、やめよう。今考えても埒があかない。
明らかに情報が足りなさすぎる。
と、とりあえず、二人とも同じものを身に付けていた。
そのお陰で、依真と出会うことができたっていうのは確かだ。
だから、今は依真との繋がりを喜ぼう。
「ねえねえ、浸夜。もう一回、さっきの能力を見せてもらってもいい?」
「ん? いいよ」
僕はマグカップをテーブルの上に置き、両手を前に突き出した。
「影纏」
そう言葉を発すると、周囲に存在する影が両腕に集まっていった。
今回は物を運ぶわけじゃないから、とりあえず前腕部分のみに影を纏わせよう。
「それで、どうしたらいいかな?」
完全に影が纏ったのを確認し、依真の方に両手を向けながら聞いてみた。
「そのままでいいよ」
「え……?」
そのままでいいってどういうこと……?
依真が言った言葉の意味がわからず、僕は疑問が口から漏れた。
すると、依真はマグカップをテーブルの上に置いた後。
僕と自分の指を絡み合うように、ギュッと手を握ってきた。
「……」
現在、思考停止中――。
僕は瞬き一つせず、石のように固まっていた。
十秒程経過し、やっと思考が動き始め、今起こっている状況を把握し。
体がカアっと燃えるような恥ずかしさで頬を中心に耳の付け根まで真っ赤になる。
対して、依真は差も当然のような表情を浮かべており、にぎにぎと握り始めた。
「ど、どどどど、どうしたの!?」
依真の突然すぎる行動に動揺を隠せず、震えた声となって口から溢れた。
いや、いきなり女性に手を握られて動揺しない男性はこの世に存在しないだろ。
しかも、相手は普通の女性ではなく美女ですよ?
更に言えば、普通に手を繋いでいるのではなく、恋人繋ぎですよ!?
そんなの動揺するに決まってるでしょ。
逆にこの状況で平然としていられる男性は男の中の男だよ。
まあ、平然としている女性は目の前にいるんだけどね……。
ということは、依真は女の中の女ってことだな。多分。
「いや〜、ずっと気になっててさ」
「な、何を!?」
も、もしかして……。僕と手を繋ぎたかったとか!?
今の状況的にそうとしか考えられな……。
「影の感触!」
「へ……?」
予想していた遥か上の返答が飛んで来て、思わず腑抜けた声を上げた。
「さっき見た時から、どんな感じなのか気になっててさ。ずっと触ってみたかったの」
「あー、そっか。そういうことね……」
期待に胸を膨らませていたからか、ショックがとてつもなく大きかった。
いや、それでも嬉しいんだけどさ。理由がどうであれ、手を繋いでくれているし。
でも、ふと思ったんだが、異性の友達同士で手を繋ぐのって普通なのかな?
皆さんご存知の通り、残念ながら僕にはそういう経験がない。故にわからない。
僕の解釈では、異性同士で手を繋ぐのは恋人だけかと思っていた。
だけど、依真の行動からして、別にそういうわけではないみたいだな。
ちょっと距離感はバグっている気はするけど……。
「意外と硬くて、がっしりしてるんだね〜。なんとも興味深い感触だ」
「そ、そっか〜。あははは……」
相変わらず依真は影に夢中らしく、嬉しそうに笑っているが。
恥ずかしそうな素振りが一切見受けられないのはなんでだろうか。
普通は恥ずかしがるでしょ。僕なんて今にも爆発しそうなのにさ。
それとも普段から慣れているから耐性がついて平気なのか……?
ん? 依真の近くに居る異性っていうと、回連さ……。
いやいやいや、待て待て。普通に考えてありえないだろ。
依真と回連さんが仲がいいからと言っても、流石に親子の領域を逸脱している。
てか、さっきから僕の中で勝手に回連さんの株を下げまくっている気がする。
一旦落ち着こう。恐らく依真と出会えたことで浮かれているんだ。
だから、いつもよりも頭が働いて斜め上の想像を構築してしまうんだろう。
僕が荒ぶっている気分を落ち着かせようと一度深呼吸をした時。
一人でにリビングの扉が開いたと思ったら、木箱を持った回連さんが入って来た。
「二人ともお待たせ……」
回連さんは直ぐに僕たちに目線を向け、こちらに近づきながら言葉を発していた。
けど、なぜか急に声を絞るように口をつぐみ、足を止めて怪訝を顔色を浮かべた。
いや、間違いなくこの状況を見ての反応だと思うのだが。
それにしても、信じられないものでも見たかのような表情を浮かべている。
そんな回連さんの表情を見て、依真も不思議に思ったのか。
先程まで握っていた両手をそっと離して、自分の膝の上に置いていた。
「し……浸夜くん、それは……。まさか、影か……?」
「は、はい。そうですけど……」
え、そっちですか……?
なんと回連さんが反応したのは、僕の影だったらしい。
そういえば、回連さんの前では、まだ影の能力を披露してなかったな。
てっきり、依真との恋人繋ぎを指摘されるのかと思っていたが……。
てか、この状況なら普通は影のことよりもそっちの方が気になるでしょ。
回連さん。お願いですから、父親として我が子の行為を指摘してあげてよ。
明らかに友達に成り立ての二人がする行為ではないと思いますよ。
そう思いながら、僕はつぶらな瞳で回連さんに訴えかけたのだが。
余程僕の影が気になるのか、回連さんは全然気にしてないみたいですね。
「やはり、そうか……」
回連さんは完全に意識を影へ向けながら、重い足取りでこちらへ来ると。
僕の前でゆっくりと右片膝を立ててしゃがみ、右手で僕の右腕を優しく掴んだ。
「浸夜くんは……。その影をコントロールできるのかい……?」
「そうですね。僕は、影の適性能力者なので……。今のところ、特に問題なく使えます」
回連さんの異様な反応に不思議に思いながらも、僕は影が使える事実を口にした。
すると、回連さんは絶望から希望へと変わったように、パッと目を見開き。
強張っていた口元を徐々に緩めて、安堵の微笑が浮かび上がっていた。
「そうなのか……。なら、良かった……」
「どうしたの、パパ。なんか変だよ?」
僕と回連さんの会話をずっと黙って聞いていた依真が遂に口を開き。
様子がおかしい回連さんの妙な言動と表情に対して抱いた疑問を問いかけていた。
「ん、ああ……。すまない。ついね……」
心配そうな依真の声を聞き、回連さんは我に返ったように呟きつつ。
そっと僕の右腕から右手を離し、左手に持っていた木箱をテーブルの上に置いた。
上蓋を外すと、木箱の中には依真と僕が渡したピアスとモノクルが入っていた。
二つのピアスには、輪のように真丸な月長石が組み込んであり。
まるで、本物の月みたいにキラキラと光り輝いている。
けど、全く同じ月長石ではない。
一個目は、黒色の月長石が組み込んであり。
二個目には、白色の月長石が組み込んであった。
依真と僕は、組み込んである月長石の輝きに目を奪われてしまい。
一点に見つめると共に、みるみると表情に笑みが現れていき、嬉しさが溢れた。
「はい。依真のピアスには、黒月長石。浸夜くんのピアスには、白月長石を組み込んだから、試しに付けてみるといいよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
依真と僕は順番に回連さんへお礼を言った後。
それぞれのピアスとモノクルを手に取って身に付けた。
「違和感とかないかい?」
「うん! いい感じ!」
「大丈夫そうです」
「そうか。なら、良かった」
僕たちが心の底から喜んでいる姿を見て嬉しいらしく。
回連さんの表情には優しい笑みが蘇り、いつも通りの状態に戻った。
「ではでは、お待ちかねの報酬をあげよう」
その言葉を聞いた瞬間、その言葉を待ってました!
と言わんばかりに、僕と依真は同時に両手を皿のようにして待ち構えた。
「はい。大切に使うんだよ」
回連さんはズボンの右ポケットから財布を取り出し。
財布の中から何枚か硬貨を掴み、僕たちの手のひらに置いてくれた。
「「ありがとうございます!」」
僕たちは今日一番の声量で一斉に回連さんへお礼を伝え。
直ぐに受け取ったお小遣いを確認すると、貰った報酬は銀貨八枚だった。
僕と依真はその報酬を財布の中へしまった。
母親から貰った銀貨三枚と足すと、これで銀貨十一枚になった。
「それと依真。お使いで余ったお金は、そのまま持っていていいよ」
「え! 本当!? ありがとうー!」
「まあ、そんなに余らなかったはずだから、少ないかもしれないけど」
「い、いや。全然大丈夫だよ〜。思っていた以上に余ったし……」
最初は回連さんからのとんでも発言を聞き、驚きに近いほど喜んでいた依真。
だが、申し訳なさそうに右手で頭を掻いている回連さんを目の当たりにし。
依真は瞬時に苦笑いを浮かべ、流れるように視線を右に逸らした。
前もって回連さんが依真にいくら渡したのかは知らないが。
確実に今貰った約四倍の金額を所持しているのは間違いない。
「そ、そうか? それなら良かったけど……」
「う、うん……」
見るからに様子がおかしくなった依真を心配そうに見つめる回連さん。
唯一理由を知っている僕は、少し圧を込めて依真をじっと見つめた……。




