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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
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第十四話 遊びの約束

 無事に階段を上がり終え、鷹貫さんが居る部屋へ到着すると。

 直ぐに鷹貫さんがこちらに気付き、杖を利用しつつ、スッと立ち上がった。

 その杖を先程座っていた椅子に立て掛けた後、一直線にこちらへ近づいて来た。


 鷹貫さんの足取りはとても軽く、本当に目が見えないのか。

 と疑問に思ってしまうほど、段差や物を華麗に避けながら歩いていた。


 恐らく、下駄が成すカランッカランッという音の反響を利用し。

 周囲に存在する物体の場所や大きさを把握できているんだと思うが。

 そのことがわかったとしても、あまりにも不可思議な光景に驚きを隠せなかった。


「おや。お目当ての品は見つかったかい?」


「はい。つい目移りしちゃって、沢山選んじゃいました」


 そんな僕に反して、依真は全く動じている様子はなく。

 照れくさそうに右手を後頭部へ当ててながら、受け答えをしていた。


「そうか、そうか。見つかって何よりじゃ」


「それに……。どうやら、きちんと会えたみたいじゃな」


 鷹貫さんは、僕たちの目の前まで来ると。

 ゆっくりとしゃがみ、僕の方を向いて問い掛けてきた。


「はい。お陰様で、やっと会うことができました」


 質問の内容や向いている方向からして、間違いなく僕に言っていると断定し。

 返答するも、今更ながら依真に出会えた嬉しさが一気に込み上げてきた。

 僕の表情には押さえきれない喜びが溢れ、満面の笑みが浮かんだ。

 すると、鷹貫さんは嬉しそうにニッコリと笑っていた。


「それは良かった。しかし、本当にかなりの量を選んだんじゃな。この感じだと、かなりの重量があるはずじゃが……。一体どうやって……」


 鷹貫さんはそう言いながら、僕が持っている木箱へ徐々に顔を近づけた。

 だが、何かに気づいたように途中で口をつぐみ、険しい表情を浮かべ始めた。


「浸夜くん……。それは、君の能力かね……?」


 ギュッと眉間に皺を寄せると共に、鷹貫さんの声質が急変した。

 先程の余韻は全くなく、その声には重苦しい何かが篭っているように感じた。


「え? あ〜、はい。そうです」


 最初は鷹貫さんの変化に動揺したが、質問のお陰で直ぐに理由がわかった。

 つまり、あれだ。鷹貫さんは、僕の影を察知したから、急に警戒していたんだ。

 その証拠に、僕が肯定すると、鷹貫さんは考え込みように右手を顎に当てていた。


「そうか……。かなり異質なものに感じるが……。君は、一体なんの適性能力者なんじゃ?」


「え、えっと……。影の適性能力者です」


「ん……。なるほど、影か……」


 鷹貫さんが異質と感じるのも無理はない。

 影が生じる音なんて、初めて聞くだろうからな。


「やっぱり凄い能力なんですか?」


「そうじゃな。わしも初めて聞く能力じゃ」


「そうなんですね」


 僕と鷹貫さんの会話を隣で聞いていた依真が不思議そうに首を右に傾け。

 鷹貫さんに聞いた。その言葉からして、依真は能力のことをよく知らないっぽい。


 さっき僕が影の能力を使った時もそうだったが、普通ならもっと驚くはずだ。

 百歩譲って驚かなかったとしても、今の鷹貫さんみたいに警戒心を抱くと思う。


 極め付けが、今鷹貫さんが答えた言葉を聞いても顔色一つ変えず。

 それ以上は興味がないのか、特に追求することなく、あっけらかんとしている。


「おっと、すまない。とりあえず、その木箱を預かるよ」


「ありがとうございます」


 鷹貫さんは気を取り直して、木箱を預かるべく底の淵を両手で掴んだ。

 一気に木箱の重さが軽減したのを確認し、僕はパッと木箱の取っ手を離した。


 鷹貫さんはゆっくりと立ち上がり、後方にあるテーブルへ移動した後。

 木箱を上に置き、椅子に腰を掛けて算盤を右手で弾き計算し始めた。


 木箱に入っている鉱石と魔晶石を掴んで確認し、大きさ毎に分けた後。

 テーブルの上にあった、もう一つの木箱の中へ移す作業を繰り返していた。


 その速度は凄まじく、手慣れていることが伺えた。

 目にも止まらぬ速さというのは、こういうことなんだろう。

 と僕はしみじみ思いながら、鷹貫さんの姿に見惚れてしまっていた。


 側から見たら馬鹿みたいな顔をしていたと思うが。

 今の僕はそのことを気にする余裕はなく、ただただじっと見つめ続けた。


 だが、依真は普段から見慣れているのか。

 全く驚いている様子はなく、平然としていた。


 そういえば、さっき鷹貫さんが歩いて来た時も、別に驚いてなかったな。

 となれば、依真は以前にもここに来たことがあるのかもしれない。

 後で帰る時にでも聞いてみるとしよう。


 そんな感じ約一分が経過した頃、計算が終わったみたい。

 鷹貫さんは僕たちが持って来た鉱石と魔晶石を全て移し終えると。

 ピタッと電卓から左手を離し、誇らしげな笑みを浮かべていた。


「うむ。全部で、金貨二枚じゃな」


「鷹貫さん、計算間違ってますよ」


 余程自信があったのか、鷹貫さんはキメ顔で金額を口にしたが。

 待ち構えていたかのように、依真が即答してツッコミを入れていた。


 そんな二人の華麗なコントを目の当たりにした僕はというと。

 いや、間違ってるんかい! と頭の中でツッコミを入れていました。


「これだけの量だったら、金貨五枚くらいの金額になるはずです」


 依真はそう言うと、パーカーの右ポケットから財布を取り出し。

 中から金貨を五枚掴んだ後、目が見えない鷹貫さんを気遣ったのか。

 チャリンッという硬貨特有の音をわざと立ててテーブルの上へ置いた。


「いや〜、すまんすまん。最近計算するのが面倒でな」


 てことは、まさか速かっただけで適当に計算していたのか……?

 そう思った瞬間、鷹貫さんの凄さが一気にガクンと下がった気がした。


 てか、そのことに気づいたのもそうだけどさ。

 指摘しながらも、正しい金額を計算できた依真って凄すぎるでしょ。

 そう思いながら依真を見ると、見たことがないほど呆れた表情をしていた。


「もう、しっかりして下さいよ。何年お店経営してるんですか」


「うむ。良くぞ聞いてくれた。この店は……、四年くらいじゃな」


「け、結構短いんですね。なんかすいません……」


 確かに意外だな。てっきりもう何十年も経営しているものと思っていた。

 まあ、お店の外観や内観は真新しいようには見えるし、本当だろうけど……。


 見た感じ、鷹貫さんは大体六十歳くらいだ。

 その年齢から考えると、四年というのは短すぎる気がする。


「じゃが、今日は本当にその金額で大丈夫じゃよ。わしからの誕生日プレゼントじゃ」


 鷹貫さんは、先程依真がテーブルの上に置いた金貨を二枚だけ右手で掴み。

 残りの三枚は左手で掴んで依真に向かって差し出していた。


「そ、相当な額なんですが……」


 依真が言うように、プレゼントとしては大金すぎる。

 金貨五枚のところを二枚でいいってことは、三枚分の割引ということ。


 それだけ聞くと大した金額じゃないように思うかもしれないが。

 これを日世界(サンワールド)で換算すると、三万円分の割引ってことになる。


 三万円あれば、当時大人気だったVRゲーム機『|AttractDreamアトラクトドリーム』が買える。

 ……ね? 大金でしょ? 少なくとも九歳児が所持していい金額じゃない。


「でも、そういうことならお言葉に甘えさせて頂きます。ありがとうございます、鷹貫さん」


 とはいえ、割引価格でいいと言われて断る馬鹿はいない。

 何度も言うが、その相手が子供なら尚のことだ。


 現に、依真は仕方なさそうに深いため息を吐き、平静を装っていたが。

 体は正直らしく、自ら強請るかのように、両手を皿のようにして差し出していた。


「いやいや。ええんじゃよ。では、確かに頂戴した」


 鷹貫さんは嬉しそうに口角を上げながら、依真の両手の上へ金貨を三枚乗せ。

 受け取った二枚の金貨を引き出しの中へとしまっていた。


「もう日も落ちているから、足元に気を付けて帰るんじゃよ」


 会計を終えると、鷹貫さんが鉱石と魔晶石が入っている方の木箱を渡してくれた。

 僕はその木箱の取っ手を握り、依真が受け取った金貨を財布の中に戻していた。


「「はい。ありがとうございました」」


 僕と依真は一斉に鷹貫さんにお礼を言った後、出入り口へ向かい。

 先に依真が扉を開けて通りやすいように押さえおり、一緒に外へ出た。



◼️◻️◼️◻️



 鷹爪宝魔晶店を出たら、直ぐに持っていた木箱を台車の上に乗せた。

 これで帰る準備が完了し、あとは台車を押しながら空陰武具店に向かうだけだ。


 ということで、まずは能力を解除しよう。

 能力を解除したい場合は、使わないイメージをするだけでいい。

 『能力解除!』と頭の中で訴えると、腕に纏っていた影が徐々に消えていった。


 正直、まだまだ余力は残っているが、能力使用中は常に魔力を消費してしまう。

 ただでさえ、今日が初めての長期外出で体力の消耗がいつもよりも激しい。

 なので、無事に帰還するためにも、できる限り体力を温存しておきたい。


 一つ救いだったのは、意外と時間が経っていたみたいで。

 もう完全に夕方になっており、先程の暑気は消えて涼しい風が吹いていたこと。


 太陽は周囲の建物に隠れつつあり、青色だった空が明るい赤色に染まり。

 雲は茜色に色付き、柔らかい赤みを帯びた陽光が地面を照らしていた。

 つまり、帰るには絶好の気候です。これなら無事に帰れそうだ。


「じゃあ、帰ろっか」


「そうだね」


 依真の声掛けに賛同し、二人揃って空陰鍛冶屋に向かって歩き出した。

 もちろん、台車は僕が押してます。依真は右側を歩いてくれており。

 僕を気遣ってくれているのか、歩く速度を合わせてくれていた。


「すっかり日が暮れちゃったね」


「だね。でも、涼しくなって良かったよ」


「そうだね〜」


「「……」」


 歩いている中、依真が話題を出してくれたものの。

 適切な答えを返せず、沈黙の時間に突入してしまった。


「依真は、よく鷹爪宝魔晶店に行くの?」


「うん。お使いで、よく行ってるよ」


「そ、そうなんだ〜」


「「……」」


 今度は僕から話題を出してはみたが。

 結果は変わらず、再度沈黙の時間に突入した。


 沈黙になると同時に、重たい空気が漂い始め。

 己の愚かさが全身に広がり、胸に苦しい浪が打ち寄せてきた。


 か、会話が続かない……。

 普段から話し慣れていないから、上手い返しができない。

 いつもなら差ほど気にしないけど、今はこの沈黙の時間が凄く嫌だ。


 流石にこのままの状態で二十分はきつすぎる。

 何か話題になりそうなことを言わないと身がもたない。

 それに、何よりも気遣ってくれている依真に申し訳が立たない。


 何かないかな……。

 僕でもわかることで、話が続くような話題。


 ……そうだ!


「そういえば、依真はなんの適性能力者なの?」


 僕がよく知っていることと言えば、真っ先に思い浮かぶのは適性能力だ。

 適性能力のことなら、どんどん会話を広げられ、上手く話を続けられると思う。


 まだ依真のなんの適性能力者なのか聞いてなかったし。

 聞くタイミング的にもベストなんじゃないかな。


 と思ったのだが、質問が悪かったのか。

 依真は渋い表情を浮かべ、返答に困っているようだった。


「いや〜……。それが、わからないんだよ」


「え? まだ検査してないの?」


「う〜ん……。というか、パパに冒険者組合に行ったら駄目だって言われててね。適性能力の検査もしたことないんだよ」


「あ、そうなんだ……」


 なるほど。これで合点がいった。

 通りで僕が影の適性能力者だって言っても驚かないはずだ。


 依真自身の適性能力がわからないのなら。

 どんな適性能力が存在するのか把握してない可能性が高い。


 且つ、僕が影の能力を使った時は驚いていて。

 影の適性能力者だと言った時は、反応が薄かった。


 それらを踏まえると、依真は今まで能力自体あまり見たことがなく。

 能力を使ったことに驚きはするものの、適性能力のことをよく知らないから。

 僕が影の適性能力者だとわかっても、それ以上の反応を示さなかったんだな。


 そうなると、なんで輪陰さ……。

 回連さんが依真に冒険者組合へ行くことを禁止しているのかが気になる。


 冒険者組合といえば、冒険者が依頼を受ける為の場所。

 でも、別に冒険者じゃない依真が行ったとしても別に問題ないはずだ。


 実際、僕は何回も冒険者組合に行ったことがあるけど。

 冒険者は愚か、受付嬢の乾目さんたちから一度も注意されたことはない。

 それどころか、『毎日来てもいいよ!』と言われるくらい歓迎されている。


 そういえば、鷹爪宝魔晶店に行く途中で乾目さんたちと会った時。

 巳鳴さんはいつものことなんだが、今日は他の三人も少し変だったな。


 特に回連さんの名前を言った時の乾目さんたちの反応は不自然すぎる。

 あの反応を見るに、間違いなく回連さんのことを知っているみたいだった。


 ということは、まさか回連さんと乾目さんたちの関係って……。

 元恋人同士なのでは!? なんて考えが一瞬脳裏を過り、妄想を膨らませた。


 例えば、回連さんが受付嬢の誰かと付き合っているのにも関わらず。

 魔が刺したのか、残りの受付嬢全員とも付き合い始めてしまった。


 最初は順調だったが、ある日そのことがバレて修羅場になった。

 なんとか和解はしたものの、それ以降の乾目さんたちとの関係は最悪。

 故に、娘である依真を冒険者組合に行かせたくないんじゃないだろうか。


 ……いや、一応真剣に考えてはみたが、そんなのありえないよな。

 プレゼントを送るくらいだから、元受付嬢だった母親との仲は良好みたいだし。


 なら、なんでだろうな……。


 僕は天に救いを求めるように上を向きながら、頭をフル回転させて考えていた。


「でも、浸夜の能力は本当に凄かったね。普段から特訓みたいなことしてるの?」


 すると、さっき能力のことを話題に出したから興味を持ち始めたのか。

 依真が不思議そうに右へ首を傾げながら、キラキラと目を輝かせて聞いてきた。


 そんな綺麗な瞳で見つめられたら、一瞬で頭の中が依真のことで埋め尽くされ。

 思考がまとまらず、今考えていることが些細なことのように感じてくる。


 そもそも今日初めて会った回連さんのことを考えても圧倒的に情報が足らない。

 僕は一旦考えるのを辞め、向きを元に戻して依真との会話を再開することにした。


「うん。僕は冒険者になるのが夢だから、そのために毎日能力訓練をしてるんだ」


「そっか。きっと、浸夜なら立派な冒険者になれるよ。私、陰ながら応援してる!」


「あ、ありがとう。期待に応えれるように頑張るよ」


 声援と共にグイグイとこっちに迫ってくる依真に心を奪われ。

 林檎のように頬が真っ赤に染まり、照れるような仕草で頭を右手でかいた。


 ちょっと距離が近い気がするけど、これはいい流れが来ている。

 よし。この流れに乗って、もっと会話を広げよう。


「依真はいつも何をしてるの?」


「私は、お店を手伝ったり、簡単なアクセサリーを作ったり……。他には、安全地帯で無害魔獣と戯れたりしてるよ」


「そうなんだ。安全地帯……」


 安全地帯とは、僕たちが住んでいる国内に存在している区域のこと。

 卯月衣服店などの建物が存在する区域の外側を覆うように広がっており。

 若々しい木々や緑草が生い茂り、全体的に自然感が漂っている場所らしい。


 無害魔獣は名前の通り、全く害がなく、とても大人しい魔獣のこと。

 誰でも触れ合えるように、安全地帯で飼育している。


「もしかしてだけど、行ったことないの?」


 やや下を向いていると、僕の微妙な反応を見て察したんだろう。

 更に下から覗き込んだ依真が心配そうに眉間に皺を寄せて聞いてきた。


「うん。実は、ほとんど家に引きこもってたから、外に出たのも久しぶりでね。知っていることと言ったら、能力のことくらいなんだよ」


「そっか〜。じゃあ、今度一緒に行ってみない?」


「え? い、いいの?」


 なんと依真から遊びの誘いをしてくれた。これは嬉しすぎるぞ。

 それは表情にありありと浮かび上がり、喜びがみなぎっていた。


「もちろん。私、能力のことはよくわかんないけど、他のことなら教えられると思うし」


「ありがとう。じゃあ、明日とかって空いてたりする?」


「うん。大丈夫だよ」


「それじゃ、明日の昼過ぎに迎えに行くよ」


「OK。待ってるね」


「うん」


 初めて友達ができた日に、遊びの約束を交わした。

 初日にしては、かなりいい感じで仲を深めている気がする。


 この調子で、どんどん仲を深めていこう。

 夢で交わしたあの約束を、いつか現実で交わせるように……。

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