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希望と絶望を繋ぐ月世界  作者: 黒丸
第二章 陰から影へ(日月編:真と夜を繋ぐ月)
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第十三話 月長石

 今、確実に前を向いて、足跡が残せる程の一歩踏み出せた。

 本当の意味で絶望と後悔を乗り越え、新たな人生への一歩を踏み出せた気がする。

 この一歩が止まっていた人生と繋がり、今度こそ変わっていけると思う。


 それに、勇気を出した結果、生まれて初めて友達ができた。

 しかも、その相手はずっと探し求めていた美女、輪陰依真さん。

 最初に踏み出せた一歩にしては、かなり大きいのではないだろうか。


 そんな感じで自分の頑張りに浸っていると。

 ふと、あることが気になり、サッと顔から笑みが消え去った。


 そのあることとは、手汗だ。

 さっき両手を思いっきり握り締めたせいか。

 手のひらを中心に、汗が噴き出ている感じがする。


 や、やばいぞ……。

 このままでは、いずれ僕の手汗が輪陰依真さんの手に触れてしまう。

 そうなれば、間違いなく気持ち悪がられるに決まっている。


 挙げ句の果てに、やっぱり友達になることを拒否されるかもしれない。

 それだけは、なんとしても阻止せねばならない、と思った僕は直ぐに行動へ移し。

 サッと両手を引いてズボンのポケットに突っ込んだ。


 ポケットの中で手を握って確認した感じだと。

 どうやら、僕の気のせいだったらしく、全然手汗をかいてなかった。


 良かった〜。と思いながら、心の底から安堵し。

 右手を胸に当てながら、ホッと一息吐いた僕。


 対して、僕の不自然な行動を見て。

 不思議そうに首を右に傾ける輪陰依真さん。


 最悪の状況にならなかったのは本当に良かった。

 けど、結果的にちょっと変な空気になってしまったな。


 と、とりあえず何か言おう。

 えっと、友達同士が交わす会話といえば……。


 僕は復活した思考をフル回転させ、友達らしい会話を考えた。

 その結果、まずは初対面で聞くべきことを確認しようという結論に至った。


「えっと……。なんてお呼びしたらよろしいでしょうか?」


 ということで、呼び方を決めようと試みたのだが。

 変な敬語が抜けず、妙に畏まった言い方になってしまった。


「私のことは、依真って呼んでもらえると嬉しいな」


「わ、わかりました」


 なんと初っ端から呼び捨てですか……。

 かなりハードルが高いが、今はこの流れに乗っかるしかない。


「僕のことは、浸夜で大丈夫です」


「OK〜。あと、タメ口でいいよ。そんなに緊張せず、リラックスしていこう」


「わかり……。わかった」


 僕は依真に言われるがまま、強制的にタメ口へ変換した。

 まだ若干ぎこちなさが残っているが、流石にそんな早くは無理です。

 でも、明らかにこっちの方が話しやすいし、友達感がある気がする。


「うん。その調子だよ」


 依真の天使みたいな優しい笑顔を見ていると。

 自然と緊張が浄化されるように消えていき、喜びが口元に現れていた。


 互いの呼び方を決め、タメ口で会話をする。

 なんとかスタートラインに立てたって感じだな。

 この調子で、どんどん会話を広げていこう。


「それで、浸夜は何を探してるの? 鉱石? それとも、魔晶石?」


「いや、実は……」


 僕がここに来た理由か……。

 そういえば、まだ依真に伝えてなかったな。


 そのことを伝える前に、序盤から難関なことがあったから。

 すっかり本来の目的を忘れてしまっていた。

 

 ていうか……。


「ごめん。魔晶石って何?」


 鉱石はわかるが、魔晶石っていう名前は初めて聞く。

 名前からして、鉱石みたいな感じの石だとは思うけど……。


「魔晶石っていうのは、下級〜特級の魔獣を討伐した際に出現する石のことだよ」


「そうなんだね」


 この月世界(ムーンワールド)には、魔獣という人知を超えた能力を持った化物が存在する。


 各魔獣には階級が設定されており。

 無害魔獣・下級魔獣・中級魔獣・上級魔獣・特級魔獣に区別される。

 そこまでは知っていたが、討伐したら魔晶石が出現するのは初めて知った。


 ということは、まさかあれか?

 依真の足元に目線を向けると、大きな木箱があるのを発見した。

 その木箱の中には、先程上の部屋で見た不思議な水晶があり、虹色に光っていた。


「もしかして、これがその魔晶石?」


 僕は引き込まれるように右手でその水晶を掴み上げ、依真に聞いてみた。


「うん。そうだよ」


「へぇ〜。これが……。魔獣のことは知ってたけど、魔晶石は初めて見たよ」


 魔晶石がどんなものなのか確認できたので。

 傷がつかないように、そっと元あった木箱の中へ戻した。


「そっか。じゃあ、魔晶石について簡単に説明してあげるよ」


「お願いします、依真先生」


 いや、先生って……。

 反射的に口にしたとはいえ何言ってるんだろ、僕。


 あ。でも、依真先生は嬉しそうだな。

 めっちゃニッコニコしてるし、なぜか咳払いをしている。


「おっほん。ではでは……。魔晶石は、主に武器や防具を製造する際に用いられたり、魔獣除けとして使うことができるの」


「しかも、魔獣の階級によって色が異なっていてね。下級魔獣は、赤色。中級魔獣は、紫色。上級魔獣は、青色。特級魔獣は、虹色の魔晶石になってるんだよ」


「討伐した魔獣の階級が上であれば、より強い武器や防具を製造することができるし。魔除けについても強力な効果を発揮するようになるよ」


「お〜。ありがとう。凄くわかりやすい説明だったよ」


「えへへへへ。どういたしまして〜」


 僕は、依真の見事な説明力に圧巻し、パチパチと拍手をした。

 すると、依真は恥ずかしそうに照れながら、右手を後頭部に当てていた。


「でも、その感じだと宝石や魔晶石が目的って訳じゃなさそうだね」


「うん。僕がここに来たのは、依真に会いたかったからなんだ」


 おっと、やばい。

 理由としては全然間違ってないんだけど。

 鼻寅さんに言った時みたいに、ちょっと簡潔にまとめすぎた。


 まあ、本質は合っているから嘘ではないし。

 恐らく、依真も鼻寅さんと同じような反応をすると思った……のだが……。


「……」


 その予想は外れてしまったらしい。

 なぜか依真は思考停止したように口を開けて固まっていた。

 まるで本当に依真の時間が停止してしまったようだった。


「へ!? わ、わわ、私に会いに!?」


 数秒が経過した後、とんでもないほど慌てふためき始めた。

 どうやら、本当に思考が停止していて、やっと言葉の意味を理解したみたい。


 でも、なんでそんなに慌ててるんだろ……?

 なぜか頬が真っ赤になってるし、明らかに異常な反応だ。


「そう。依真に会いたくて、ここまで来た」


 僕は依真がなぜ慌てているのか訳がわからず。

 疑問符を脳裏に浮かべつつ、さっきと同じことを口にした。


「な、なんで!? もしかして……」


 やはり僕が発した言葉に問題があるのか。

 またしても依真は尋常がないほど驚き、両手を口元に当てていた。

 けど、ふと何かに気づいたように、ハッと目を開き、何かを発しようとしていた。


 だが、僕もあることに気づいた。

 よくよく考えたら、さっきの言葉だけでは説明不足すぎる。

 流石に簡潔にまとめすぎて、重要なことを何も伝えられてなかった。


 となると、依真が驚くのは普通の反応だな。

 初めて会った人から、自分に会いに来たとだけ言われたら普通に怪しいし……。


 とりあえず、ここに来た経緯をきちんと説明しよう。

 そして、警戒心を解いて安心させてあげよう。


「実は、回連さんから依真を無事にお店まで連れて帰って欲しいってお願いされててね。それで、依真を探しにここに来たってわけだよ」


「あ、あ〜。そういうことか……。パパからのお願いだったんだね……」


 ちゃんとした理由を聞いて安心するかと思いきや。

 なぜかはわからないが、依真は逆に残念そうに俯いていた。


「ん? どうかした?」


「う、ううん。なんでもないよ。探しに来てくれてありがとう」


 なんとなく期待に添えなかった感じがするけど。

 今の表情から、喜んでいることはよく伝わってくる。

 なら、いっか。今は出会えたことを喜ぼう。


「それで、欲しい物は全部見つかった?」


「う〜ん。ほとんど見つかったんだけど……。残り一つをどっちにしようか悩んでるの」


「何と何で悩んでるの?」


「えっとね……。日長石(サンストーン)月長石(ムーンストーン)だよ。このどっちかの鉱石を二つ選びたいんだよね〜」


 依真は左側の棚から二つの引き出しを開け。

 右手で月長石(ムーンストーン)、左手で日長石サンストーンをがっしりと掴み。

 僕に見せるように、顔の横で構えていた。


 月長石(ムーンストーン)は、白色でできていて、光の加減で青色の光沢を出しており。

 日長石サンストーンは、透明無色でできていて、光の加減で赤色の光沢を出していた。

 鉱石のことはあまりわからないけど、多分太陽の石か月の石かってことだな。


「あ、そうだ!」


「ど、どうかした?」


 急に依真が何かを思いついたかのような大きな声を上げ始め。

 僕は、その声に酷く驚いてしまい、ビクつきながら訳を聞いてみた。


「ねえねえ、浸夜はどっちがいいと思う?」


「え? 僕?」


「うん。浸夜が好きなやつを選んでよ」


「う、う〜ん……」


 何を言われるのかと思ってヒヤヒヤしていたが。

 まさか僕が選ぶ展開になるとは思ってもみなかったな。

 予想外すぎる展開に少し動揺し、咄嗟に引き受けてしまった。


 多分、普通に断っても良かったんだろうけど……。

 依真の眩いほどキラキラした瞳で見つめられると、なぜか断れなかった。

 でも、僕が選んでもいいのなら、もう答えは決まっている。


 この世界は、月世界(ムーンワールド)と命名した。

 だから、僕が選ぶとしたら月長石(ムーンストーン)一択だ。


「僕は、月長石(ムーンストーン)がいいと思う」


 僕は右手人差し指で月長石(ムーンストーン)を指した。


「OK。じゃあ、月長石(ムーンストーン)にするよ」


 依真は、右手に持っていた月長石(ムーンストーン)を木箱の中に入れ。

 左手で持っていた日長石サンストーンを元あった引き出しの中に戻した。


 その後、月長石(ムーンストーン)が入っていた引き出しから。

 もう一個の月長石(ムーンストーン)を取り出して、木箱の中に入れた。

 その月長石(ムーンストーン)は、黒色でできていて、光の加減で青色の光沢を出していた。


「よし。欲しい物が全部揃ったところで……。お会計をしに上の部屋に戻ろ〜」


「お〜」


 依真は余程嬉しかったのか、勢いよく右手を突き上げていた。

 なので、僕も便乗して同じポーズをしながら、大きめの声を上げた。


 ということで、先程降りてきた階段へと目を向けると。

 ハッと言わんばかりに右手で口元を隠し、何か重要なことを忘れていたのか。

 依真はしょんぼりとしゃがみ込み、木箱の中をジーッと見つめ始めた。


「しまった……。思ったよりもいっぱい選んじゃったなぁ……」


 僕も同じようにしゃがみ、木箱の中へ目を向けると。

 鉱石や魔晶石がはみ出しそうなほどいっぱい詰まっていた。


 木箱自体かなりの大きさで、子供二人が軽々入れそうなほど大きい。

 明らかに子供一人で持ち上げるのは愚か、運ぶことは困難だと思われる。


 普通の子供は……ね。


「大丈夫、僕が運ぶよ。多分、依真よりも僕の方が力あると思うし」


 僕は普通の子供ではない。

 なぜなら、僕は影の適性能力者だからね。

 この影の能力を使えば、軽々と運ぶことができるはずだ。


 そもそも僕がここに来た目的は、依真と友達になることじゃない。

 友達になるのは、あくまで僕自身の目的にすぎない。


 本来の目的は、依真を手伝って無事に空陰鍛冶屋へ帰還すること。

 だから、依真に怪我をする可能性がある行為をさせるわけにはいかない。


 それに、僕は一応男だ。

 故に、運ぶ役目は僕が請け負うのが当然だろう。


「そう……? でも、浸夜って今何歳なの?」


「えっと、六歳だね」


「そっか。じゃあ、やっぱり私が運ぶよ」


「え、なんで? 僕運べるよ?」


「大丈夫、大丈夫。私の方が年上だから」


「そ、そういう問題?」


 そういえば、確か僕と依真は三歳くらい離れていると予想していたが。

 見た感じ、身長の差はそんなにないみたいだし、依真は今何歳なんだろう。


「因みに、依真って今何歳なの?」


「私は、今日で九歳になったよ」


「そっか」


 僕が予想していた通りだな。

 てか、今日で九歳になったのか。


 ……ん?


「き、今日で!?」


「うん。今日、私の誕生日なの」


「そ、そうなの! おめでとう!」


 まさか今日が誕生日だったとは……。

 あ。だから、今日依真にプレゼントを送ったってわけね。


「ありがとう。ということで、私が運ぶね」


「え、ちょ……」


 知らなかったとはいえ、オーバーリアクションな上に慌てふためいた僕。

 そんな面白おかしい姿を見て、嬉しそうに口元を緩ませ、頬を赤らめている依真。


 けれど、僕とは違い、依真はきちんと冷静さを保っていた。

 年齢の差を理由にして全く引けを取ろうとせず、運ぼうと木箱へ手を伸ばした。


 僕は直ぐに止めようと右手を伸ばしたのだが。

 その行為は無駄に終わり、依真は木箱の真横に付いている取っ手を握った。


 さっき言ったように、子供では確実に運ぶことができない。

 仮に運べる方法があるとしたら、何かの能力を使うとかだ。

 ということは、能力を使って運ぼうとしているのかな……。


 依真がなんの適性能力者なのか、まだ聞いてないけど。

 なんらかの適性能力を身に付けていることは間違いない。


 だが、流石に不自然だな……。

 能力を使う場合、能力名を発さなければいけない。

 なのに、さっきから依真はじっと固まったまま微動だにしてない。


「ど、どうしたの。依真」


 僕は段々不安に襲われ、落ち着かない気分を掻き立てられてしまい。

 呼応するように鼓動が早くなり、焦燥感を高めながら心配そうに語り掛けた。


「……動かない」


 すると、依真が一言だけ掠れた声でボソッと呟いた。

 どうやら、重すぎてビクともせず、固まっていただけみたい。


 どうかしたのかと心配したが、何もなくて良かったと安心していると。

 依真は持ち上げられないことが分かり、そっと両手を取っ手から離した。


「依真、やっぱり僕が運ぶよ。怪我すると危ないしさ」


「う〜ん。でもさ、これ本当に重いよ?」


「大丈夫。ちゃんと運ぶ方法を考えてあるから」


「そ、そうなの?」


「こういう時は、能力を使えば運べると思う」


「能力……?」


「うん。見てて」


 僕は両手を前に突き出し、


影纏(えいてい)


 と言葉を発した。


 すると、周囲に存在する影が両腕に集まっていき。

 徐々に分厚い装甲になり、影を纏うことができた。


 能力を使う際、ただ出鱈目にそれっぽい言葉を言うのではなく。

 必ずちゃんと決まった能力名を発さないと発生しない。


 『影纏』は、周囲に存在する影を利用。

 または、僕の体に存在する影を纏うことができる能力。


 主に、腕に纏わせることが多いが。

 頭の中でイメージすれば、体のどこでも纏うことが可能だ。


 この能力は、怪我防止用に使うことが多いが。

 今回みたいに、自力では持ち上げられない物を運ぶ時にも使える。


 僕は木箱の真横に付いている取っ手を握り、腕と腰にグッと力を入れ。

 『影纏』を使っているお陰で、腕の疲労感がなく軽々と持ち上げられた。

 思った通り、これなら上の部屋まで運んで行けそうだ。


「よし。大丈夫そうだね」


「お〜! 凄い、本当に持ち上げれてる! それって、もしかして浸夜の適性能力なの?」


 僕が木箱を持ち上げると、依真はとんでもなく驚いており。

 興奮しているらしく、両手を叩きながらピョンピョン飛び跳ねていた。


「そう。影の能力だよ」


「凄いね! 影の能力なんて初めて見たよ!」


「ふっふっふ……。それもそのはずだよ」


 僕は、その言葉を待ってましたと言わんばかりに、ニヤリと笑い。

 瞬時にキメ顔をかまして、どっかの悪役みたいな言い方をし始めた。


「何を隠そう。この世界で、影の適性能力者なのは僕だけなのです」


「へぇ〜! それって……。凄いの?」


 僕が自信満々に言い放つと、依真はピタッと飛び跳ねるのを辞め。

 ぽかんとしながら、確認するように合わせた両手と共に首を右へ傾けていた。


「多分」


「そうなんだ〜」


「「……」」


 あれ……?

 もしかして、これで終わりですか?


 もっと驚いてくれると期待していたんだけどな。

 依真は思っていた以上に塩対応だった。少し残念だ。


「よし。それじゃあ、上の部屋に向かおう!」


「う、うん。行きましょ〜」


 僕はややテンションが下がり気味になりながらも。

 眩いほどの笑みを浮かべている依真と共に階段を上がって行った。

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