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「第十二話」王女の胸騒ぎ

 泥のように沈んでいく意識の中、シエルは不意に目覚めた。寝ぼけてもなく、頭はやけに冴えている。自分が先程まで何をしていたのか、ここが一体どこなのかがはっきりと脳裏に浮かび、まるで自分が眠っていなかったのではないかと思うほどである。


「……ロゼッタ?」


 手を伸ばしても、そこには誰もいない。ひんやりと冷たい机、水気のある花の飾り、ほんのりと温かいティーカップは、自分がそんなに寝ていないということを示している。

 私は、なんだか嫌な予感がした。体を勢いよく起こし、すぐに家全体を見回す。そこにはロゼッタもウィジャスもおらず、私だけがいた。


 一体何があったんだ、と。根拠のない不安に駆られた私は、玄関から外に飛び出した。やはり誰もいない、買い物に出かけていったとかそういうものかもしれないが、それにしても何だこの胸騒ぎは。──踏みしめた一歩が、何か硬いものを踏んだ。


「えっ? ……こっ、これは!」


 拾い上げたそれには、見覚えがあった。いつも遠くから見ていた姉の、イザベラのドレスに施された薔薇の装飾だった。この材質、この作り込み……間違いない、これがあるということは、イザベラがここに来たということである。なんのためにわざわざここまで? 


「あっ」


 間抜けな声が、私の頭の中の考察を受け入れた。……そう、今回の王位争奪戦において、「魔女」であるロゼッタは重要な意味を示す。言い方は悪いが、今の所私にとっての彼女は、民衆の支持を得るという意味では重荷、毒になってしまっている。──だがそれは、裏を返せば薬にもなるということだった。


「なんで今まで気づかなかったんでしょうか……だとしたら、不味い!」


 そう、「魔女」とは倒すべき敵なのだ。それを庇えば悪役になるのは当然、しかしそれを倒したら? 当然それを成し遂げた人物は讃えられるだろう、英雄とかなんとか……そういう名声を得るためには手っ取り早い手段である。イザベラはロゼッタを利用しようとしている。彼女自身を英雄として成立させるための悪役として。


 そしてそんな馬鹿げた事のために、ロゼッタが自らその身を差し出すわけがない。大方、私に関する交渉でも持ちかけられたのだろう……未だに彼女は、私に対して罪悪感でも抱いていたのだろうか?


「ムカつく……!」


 私は思わず走った。休んでいたイルは不思議そうな顔でこちらを見ている.申し訳ないが、もう一度その翼を羽ばたかせてもらわなければならない。


「お願いします、このままじゃ……ロゼッタが殺されてしまう!」


 イルはしばらく私の顔をじっくりと見ていたが、やがてしゃがみこんで背中を向けてきた。「乗れ」ということらしい、言葉が通じたのかどうかは定かではないが、私は頭を下げてからその背中に飛び乗った。


「……飛べ!」


 手綱を握りしめ、私を乗せたイルは空へと上がった。ものすごい速度で空を切りながら、私はただただ、怒りで我を忘れないように堪えていた。


(何をのんきに寝ていたのですか、シエル! 貴女がしっかりしていれば、お姉さまの謀略に気づけていたはずなのに……!)


 轟々と燃え盛る怒りは、そのままイルにも伝わったようだ。聞き覚えのない、しかし力強い雄叫びをその耳に刻み込み、空飛ぶ騎獣は進んでいく。──行き先は、城の牢屋の中だった。


(ロゼッタ、どうか、無事で……!)




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