99エミリー 無事だった!
「はじめまして、私はマリアお嬢様付きのメイドをしております、エミリーと申します。私で良ければ、どのようなご用件かお伺いしてもよろしゅうございますか?」
「こんにちは、私は魔法省でのガードナー公爵の補佐をしているジョエルと申します。ハルト殿下とマリア嬢がリーベス村に滞在していることをお伝えに来たのですが、それを伝えるように申しつかっているグレイ様とアレックス殿下がご不在、とのことで…」
一瞬、気が遠くなりそうになった。
必死に意識をつなぎ止める。
でも、立っていられなくて、その場にくずおれてしまった。
「お、お嬢様はご無事で…」
安堵のあまりに腰が抜けてしまった。
お茶を淹れてきてくれた執事補佐が、ちょうどそこでリビングに入ってきて、何事かと叱られてしまった。
「申し訳ありません、お嬢様のご無事を聞いたら腰が抜けてしまって…」
涙まで止まらない。
執事補佐は、隊長や殿下の不在を伝えたものの、用件まではきいていなかったようだ。
もちろん、私達が離ればなれになっている件は知っているので、一瞬目を丸くし、状況を理解してくれたようで、私を抱えてソファに座らせてくれた。
ジョエルさんも、私がいきなり腰を抜かしたのでびっくりして立ったままおろおろしていたけど、ソファに座るよう促されて、お茶とお菓子を執事補佐に勧められ、気を取り直したようだ。
お茶を飲んでくれている間に、私も大声で泣きたい気持ちを静める。
ああ。
お嬢様、やっぱりご無事だった…!
ぐっと両手を胸の前で握り合わせて、感謝の祈りを捧げる。
執事補佐にお茶を勧められ、ありがたく少し飲むと、更に気持ちが落ち着いてきた。
「グレイ様とアレックス殿下達は、ハルト殿下達を探して、森に向かったところです。数時間前に出発したので、そんなに遠くまでは行っていないはずですが…。地図にハルト殿下の居場所が表示されているので、それを目標に向かっています。…でも、アレックス殿下達をどうお探ししたらいいのかしら…」
すぐにでもあの三人に、二人が無事だったこと、今いる場所も困っていて動いていないのではなく、村という安全な場所にいるから動いていないのだということを伝えたい…。
今は、もう午後の結構遅い時間だ。
私もついていっていれば、私が歩くのが遅いせいでそんなに距離は稼げていないだろうけど、果たしてどれだけ進んでいることか…。
それに、やみくもに追いかけても、道がないので、どこをどう通っているのかさっぱりわからないのではないだろうか…。
そこまで考えて、ふと追いつける気がしてきた。
「困ったなぁ…今から追いかけて追いつくかな…ていうか見つけられるのかな」
早く伝えないと怒られちゃうよなあ、とブツブツいっているジョエルさんに訊いてみる。
「ジョエル様、馬には乗れますか?」
「え?馬?乗れないよー」
「では、すぐに手伝いの者を手配しますので、出発のご準備をお願いします」
執事補佐に、馬で森の入り口まで追いかければ、その後は何とか探し出せそうだから、と伝え、馬と、ジョエルさんを乗せてくれる誰かの手配をお願いする。
私もすぐにメイドのお仕着せから、乗馬のできる服に着替え、厩舎に行った。
勿論、公爵家のメイドの私は、馬も乗れる。
「あら、ジョン」
「今日は全然休みにならなかったよ…後日特別休暇を申請しようかな」
非番だったジョンがジョエルさんを乗せて行ってくれることになったようだ。
ジョンが自分の後ろに乗せた、高いよー怖いよー、と騒ぐジョエルさんの体を紐で自分に括りつけ、いいよ、と合図を送ってきたので、すぐに出発する。
村から森に向かう草原地帯は、概ね平らで森までよく見渡せる。
森に向かってそこそこの速度で馬を走らせながら、地図で見ていた目的地と、森の方角を確かめる。
しばらく走らせると、昼前に洞窟から出てきてから村に向かうときに倒したのではない、魔物のなれの果てを見つけた。
やった、と心の中で叫ぶ。
これを見つけたら、あとは次の魔物との戦闘跡を探せばいい。
しばらく走って、次の戦闘場所も見つけた。
アレックス殿下の大剣で真っ二つにされたと思われる魔物が転がっている。
後ろをついてきてくれているジョンも、私が何を探して馬を走らせているのか、分かってくれたようだ。
その次の戦闘跡は、ジョンが見つけてくれた。
この辺りの魔物は弱いので、戦闘にかかる時間は短い。
でも、歩き、ときどき戦闘、の三人に対して、こちらは早足で駆けさせている馬だ。
距離は縮まっているはずだ。
草原地帯はそんなに広くなく、すぐに森の入り口に着いてしまった。
ここからは、馬では行けない。
本当なら、馬を魔物から守るために、馬の番をする者を置いていきたいのだけど、今はジョンについてきてもらわないと、魔物と出会ってしまって戦闘になったら困る。
馬を木につないで、森の中に入った。
歩きやすいように、枝を切り落とした跡があったので、ここから入るので間違いない。
思っていたより派手に痕跡を残していてくれて、ホッとした。
今頃ですが、リーベス村は隠れ里なので、地図には載っていません。なので、地図では何もないところにハルトがいるように見えていました。




