97エミリー 武闘派でした
三人を見送ったあと、私はさまざまな装備をしまっている、倉庫として使っている部屋に向かった。
さっき森の奥に向かう皆が選ばなかった武器や防具、アイテムが整然と並んでいる。
お嬢様の体型に合わせて縫われた、魔法使い用の新しいローブがいつの間にか増えていた。
公爵家の財力にモノを言わせて集められたものだ。
私は倉庫内のものをいくつかを手に取り、ここの家を守っている、公爵家の護衛のところに行った。
護衛が三人で交代だったのは最初の話で、今はもっと増えている。
家もできた今、離れも建てられ、使用人達がそこで暮らしているので、そこへ向かった。
今日非番の護衛がいるはずだ。
ノックをすると、ひげもそらず、髪ももさもささせたままの、ジョンが出てきた。
誰が非番か確かめずに来たけど、ちょっとラッキーかも…。
ジョンも私と同様、両親ともに公爵家に勤めていて、公爵家の使用人宿舎で生まれ育った幼馴染だ。
歳も同じくらいで、仲の良い方だ。
実は、今この村の家で働いている者は、そんな幼馴染やその親が多い。
「お休みのところ申し訳ないのだけど、お願いがあるの」
ジョンは私が手に持っているものを一瞥し、私の顔を見て、小さくため息をついた。
「相変わらずお嬢様のこととなると…」
「そうよ。それ以外に何があるっていうのよ。私には時間がないの。今すぐ始めたいわ」
「わかったよ、着替えるから裏庭に先に行ってて」
裏庭につくと、すぐにジョンが追い付いてきた。
公爵家の護衛はこの国の騎士達と勝るとも劣らない。頑健だけでなく機敏なのだ。
「まずさ、自分はどれがいいと思ってるの?」
私が倉庫から持ち出したいくつかの武器を見て、またため息をつかれた。
大剣は持つのも無理だし、普通の剣も片手で持てなかったのでやめて、槍も重そうで諦めた。
でも、弓は使えるようになるまでは時間がかかるかもしれないけど軽かったし、短剣は持てるし、鞭も軽かったし…。
「とりあえず、持てるなと思ったやつをもってきただけなんだな?」
「まあ!」
まだ何も言ってないのに、何でわかったの?
「短剣は、メイドとしての護身術でやったから、というのは分かる。弓と鞭は軽かったんだろう?お嬢様についていく、となると、矢を使い切ってしまったら何もできなくなる弓はやめておいた方がいいかも、だなぁ。矢を作るのは結構大変なんだ。それに、狙ったところに当てられるようになるまで、かなりかかると思うし。となると、鞭、やってみるか。鞭って、意外と、使いこなせると強力なんだよ」
まず鞭の握り方から教わる。
前腕ほどの長さの棒の先に、自分の身長ほどの皮紐がついたものだ。
本当はその先に硬いものがついていて、それを当てることで攻撃するものだけど、今は練習なのでその部分を外す。
基本の振り方を習い、ジョンのまねをして薪割りの台の上に置かれた薪をめがけて、振る。
ジョンが振ったときと、音も違うし当たりもしない。
「今は見本だったから当てただけだから。まずは当てる云々より、目標物は気にしなくていいから正しい振り方を覚えて。上手くさばけないと、自分に当たるよ。まずは正しくできるようになってから、今度は当てにいこう」
「はい!ジョン先生!」
持つべきものは親切な幼馴染。
皮でできた鞭は重くはないけど、何度もふると、腕がだるくなり、関節もしなりに慣れないのか痛くなってきた。
無意識にさすっていると、目ざとく見つけられ、今日の鞭の練習は終わりになってしまった。
筋肉が足りてないんだそう。
今はこれ以上やっても、肘を壊すだけだ、というので、また明日練習につきあってもらうことにした。
その代りに、久しぶりに短剣の練習をすることになった。
ちょっと渋々の了承だったけど、自分が鈍ってしまっていないかちょっと不安があったのだ。
「エミリーと打ち合うのは何年振りかなあ」
公爵家の使用人宿舎には、小規模な訓練場があり、私も物心ついたころから、そこで指導を受けた。
代々、公爵家の使用人に伝わる武術で、公爵家のメイドとなるからには、その武術の腕も必要だった。
護衛がいるにしても、公爵家の女性に一番近いのはメイドだ。
護衛がやられてしまったときには、自分達メイドが最後の盾となって戦わなくてはならない。
刺し違えてでも守らなくてはならないのだ。
私は幸いにして武術の才能もあったので、お嬢様の筆頭メイドになれた。
若旦那様も若奥様も、私がついていくことを許してくださった理由のひとつには、この武術については私が優秀なのを知っていたからだと思っている。
ようやくエミリーが実は武闘派だということを書くことができました。




