94エミリー 天井崩落
「お、おじょ、お嬢様がっ!…マリアお嬢様!!!!」
エドガーに抱きかかえられて崩れてきた土砂から守られていた私が、ようやく腕の中から解放されたときには。
お嬢様がいた辺りは、たくさんの岩と土砂で埋まってしまっていた。
後ろで、隊長さんやアレックス殿下が魔物と戦っている気配がするけど、そちらを確認する余裕もない。
ガクガクする体で這うようにして近付こうとして、エドガーに止められた。
「ダメだ。まだ崩れる可能性がある。これ以上近寄ってはいけない」
「で、でも!」
「崩落した瞬間、お嬢様が何か魔法を発動させていたような光が見えた。とりあえず、後ろのゴブリンをどうにかしてから、だ」
エドガーが参戦すると、あっという間にゴブリン達は片付いた。
もともと、もうあと少しで倒し終わるところだったようだ。
私は、どうしたらいいのか分からなくなり、ぺたん、と地べたに座り込んで、呆然と崩れたところを眺めた。
「おい。しっかりしろ」
耳元で聞きなれない声がした。
きょろきょろしたけど、ゴブリンと戦っていた三人はまだそんなに近くはない。
「庭番だ。しっかり聞け。エドガーが言っていた通り、生き埋めになる瞬間に、お嬢さんは防御壁のようなものを発動させた。ハルト殿下とご自身が入るギリギリのようだったので、押しつぶされてはいないだろうが、その後空気がもつかの心配がある。とりあえずそのことをあいつらに話せ」
「なによ!自分で言えばいいでしょ!」
「俺はお嬢さんと離れ離れになるという失態を犯した。とにかく現状を確認する。お前が話している間に調べる。ことと次第によっては一刻を争うからな」
岩に押しつぶされなかったけど、防御壁の魔法が解けた後に土や砂に埋もれて窒息するお嬢様を想像してぞっとした。
近寄ってきた三人に、庭番から聞いた話を伝える。
「そうか…とにかくタイミングが悪すぎたよな。…庭番も俺らとこっち側にいるのか…。ハルトとマリア嬢が一緒で、とりあえず岩に押しつぶされてはいないんだな?そんな風に最期を迎えるなんて許しがたいからな」
アレックス殿下が安心したようなイライラしたようななんとも言えない顔をしている。
「ああ、また崩れそうな……」
隊長の声に、揺れる松明の明かりで照らされた洞窟の天井を見上げると、パラパラと小石が落ち始めている。
急いでみんなでそこを離れた。
距離をとってすぐに、さっきまでいた辺りにまで、ガラガラ、ドサドサ、っと天井の一部が崩れ落ちてきた。
お嬢様のいたところから更に離れてしまった。
「内容は一部しか聞こえなかったが、うっすらと二人が話していたのが聞こえた。でもまた崩れたせいで土砂の層が厚くなってしまった。恐らくもう聞こえないだろう。そして、ここはもろい地質だ。硬い層の岩が何かで崩れた後、もろい層がむき出しになり、ちょっとした刺激で崩れるようだ」
「えっ?誰?」
姿を現さないまま、庭番が全員に聞こえるように、報告をしてくれた。
アレックス殿下がびっくりしている。
「庭番だ。お前たちと協力しないとならないから、やむを得ず声をさらす」
「はじめまして、かな?庭番君、どうぞよろしく。さて。我々の大切なハルトとマリア嬢が埋もれたわけだけど。どうしようか」
グレイ隊長が、珍しく困った顔をしている。
正直、私の顔も困った顔になっているだろう。
誰も、すぐにこうしたら、という案を出すことができない。
「こっちから、ひたすら二人のいた辺りに向かって掘ってみる?」
アレックス殿下がなんとかひねり出して言ってくださったけど…現実的ではないのは殿下本人も分かっていらっしゃるはずだ。
こうして話している今も、パラパラと少量ずつ崩れ続けているのだ。
「いっそ、魔法で崩しきってしまうとか…」
エドガーも眉間にしわを寄せて言うけど、でも、その魔法でお二人が致命的に埋もれてしまうかもしれないし…とブツブツ自分で否定している。
「もともとすでに起こっていた崩落で、この洞窟の本来の出入り口が塞がれてしまっていたわけだが、お嬢さんたちは、そこに近い所にいた。そういう意味では洞窟の外に近いはずだ。もしかしたら、さらに崩れたことによって、外に出られたりしていないだろうか」
庭番の言葉に、アレックス殿下が「あ!」と声を上げた。
「今は俺が地図を持ってた!これの所有者はハルトで登録してある…とりあえずこれを見ると、今生きてるかどうかも確認できるし、洞窟の中か外かくらいはわかるかもしれない」
大急ぎで地図をカバンから出し、皆に見えるように広げてくださった。
「とりあえず、ハルトは生きているな…ちゃんと点がついてる。もう死んでたらつかないからな…。マリア嬢のことまではわからないけど、さっき話し声が聞こえたっていうのなら、きっと大丈夫だろう。二人とも回復魔法の使い手だしな」
グレイ隊長が、自分達を鼓舞するかのように言い、点の位置を確認する。




