90マリア 親子
それは、私同様、聖属性の魔法をメインとした能力を持つ、魔法使いの手記だった。
私が今使える魔法はもちろん、応用した魔法がたくさん書かれている。
私がこないだゴブリンの洞窟で寝ることになったときに成功させた浄化の魔法は、閉じた空間じゃないと使えないものだったけど、それを外で、自分で範囲を囲って空間を浄化する方法など、今の私に必要な知識がぎっしり詰め込まれていた。
あの魔法のこの部分と、この魔法のこの仕組みを組み合わせることで、そうか、こんな風に…と、むさぼるように夢中になって読んだ。
なので、悠人がベッドの上に起き上がってこっちを見ているのに、しばらく気が付かなかった。
「あっごめんなさい、声かけてくだされば良かったのに…すぐに、食事を用意しますね」
「うん、いや、僕の母さんもね、夢中になっていると他のことに注意が向かなくなる人だったなぁと思ってつい見ちゃってたんだ」
ドキッとした。
子どもにそんな風に思われていたなんて…。
悠人は、もう気分もいいし、お腹がすいてふらふらするけど、立って歩くのも平気だというので、洗面所などの場所を教えて、キッチンでスープを温めなおした。
大量に買って来てもらってあったサンドイッチは、顔を洗ってさっぱりしたという悠人のお腹に見る見るうちにおさまっていき、スープもお代りをしてくれた。
二人でこうしていると、昔に戻ったようで、つい涙ぐんでしまった。
悠人はベーコンとキャベツがメインの野菜スープが好きな子だった。
また私の手料理を食べさせられる日が来るなんて…。
うるっとしてしまったのが、ばれたようで、心配させちゃったんだね、ごめんね、と謝られてしまった。
確かに、これ以上ないくらいに心配はした。
でも、今はもう心配してないし、涙ぐんだのはちょっと違う理由だったんだけど、でもそんなことは言えるはずもないので、あいまいに微笑んでおく。
その代りに、この村のことや、カノンさんのことなどについて、詳しく教えてあげた。
そして、私達が無事だ、っていう手紙をお父様のところに持って行ってもらっている話も。
丁度そこまで話したところで、カノンさんが帰ってきた。
お父様と一緒に!
「マリア!僕のマリア、無事だったんだね、でもそんなひどい恰好をして!ああ、本当に大丈夫なのかい、良く顔を見せておくれ、ん?ああっ髪がっ!絹のようなマリアの髪が!焦げてる!それに、頬のこの赤みは何だい?あっおでこにも!触ると痛いのかい?すぐにお医者様にもみてもらおうね、食事はちゃんと…」
ダイニングのドアが開くと同時に、一気にまくしたてながら駆け寄られ、抱きしめられて、髪をなでられて、頬や額を触られて、そのやけどの痕で赤くなってるところにキスをされそうになって、びっくりする。
「お父様!ここは我が家ではありません!」
「でも…」
「でもじゃありません!大人なんだからちゃんとしてください!」
「そんなサラみたいなこと言わないでよ、心配だったんだよ…」
スープを口に運ぼうとしていた悠人も固まって私達を眺めている。
「ははっ、マリア、久しぶりの親子の対面だからね、許しておやりよ。殿下、そのような粗末な食事で申し訳ないけど、足りてますか?今、また大量に持ってきたから、思う存分に召し上がってくださいよ。それとマリアがひどい恰好なのは私の服だから勘弁してよ」
カノンさんは私達に向かって話しかけながら、動じることなく、魔法のカバンをテーブルにどん、と置く。
中にきっとたくさんの食べ物がつまっているのだ。
「どうしてお父様がここに…?」
お父様の腕から逃れようともがきながら、訊くと、「どうしたもこうしたも、この目で見るまでは安心できない!ってうるさいから仕方なくね」とカノンさんが肩をすくめている。
「転移魔法って、自分だけじゃなくて、誰かを連れて移動することができるんですか?」
お父様がまたちゅーっとしようとしてきたので、みぞおちに一発くらわせて、ようやくお父様から逃れ、カノンさんに質問する。
「ん?ああ、色々条件はあるんだけどね…まあそのうち教えてやるから、落ち着きなよ」
お茶の時間の頃合いでもあったので、お父様も一緒に銀の匙のお菓子でお茶をすることになった。
お茶の準備をしている間も、サンドイッチをもぐもぐしていた悠人が、ふと呟いた。
「…アントニーさんがマリア嬢の…」
「そう。ハルト殿下、知らなかったんですか?こんなに私によく似て可愛いのに…すぐ気が付くでしょう?アントニーとサラの愛娘のマリアですよ」
「うん、いや…その…すみません」
悠人は謝ってくれているけど、お父様のことだから、きっと自己紹介のときに、今みたいに家名を言わず、名前しか言ってなかったんだと思われる。
自分が大きくなるにつれて、お父様って、仕事ができるのか間が抜けているのか、判断に苦しむ時があるわ…。
悠人が色々お世話になってたアントニーさんはマリアのお父さんでした。気が付いてました?




