88マリア リーベス村2
村、といっても、建物は七軒しかなく、カノンさんの家程度の小さなものから、かなり大きな家もあり、大きな家は集会所としての役目もある、ということだった。
家々の周りには、斜面を使って畑が作られていて、ある程度の野菜は自給自足できているようだったけど…。
どうみても、ほんの数軒の家に住む人々の分だとしても、足りない。
家畜を飼っている様子もない。
今朝、かなり上質なパンを食べさせてもらったけど、製粉の施設もないし、そもそも麦が植わっていない。
そうだ、井戸もない。
どうなっているんだろう、と首をかしげていると、カノンさんがニヤニヤしだした。
「あんたって、気が付かなくていいことに気がついちゃうタイプだね、何が気になってるのか言ってごらん」
カノンさんには敵わない。多分誤魔化しても無駄だ。
今不思議に思ったことを、正直に話した。
「そうかい。さっき、この村には、魔法使いしか住んでいない、って教えたはずだよ?」
全員が魔法使い…ということは、とりあえず、井戸に関しては水魔法が使えれば、不自由はしない。
むしろ、井戸を掘っても水が飲用に向かないことだってある。
では、他の食べ物は…私達の持っているような魔法のカバンに、村の外に行ったときに詰められるだけ買ってきているのだろうか…?
でも、この村からは、村の外へ通じるけもの道のような道すらついていない。
外の町へは…そうか!転移魔法…?
「どうやら分かったようだね?自分の頭をちゃんと使える子は嫌いじゃない。ご褒美に正解を確認させてあげるよ……ジョエル!ジョエル!ぐずぐずすんじゃないよ!」
カノンさんが呼ぶと、ふい、と目の前に若い男性が唐突に現れた。
「夕べ、あんたがバカみたいな火力でぶちかましたから、この子達まで少々焦げちまったんだ、見てごらん!こんなに可愛いお嬢さんの頬が!髪が!腕が!ほらここも、ここも焦げたじゃないか!あの男の子もね、あちこちもっと焦げてたよ。お詫びに…そうだね、城下の、『銀の匙』で一番高級な詰め合わせを買っといで!勿論、代金はあんた持ちだからね。そうだ、それに合うお茶も頼んだよ!そっちは私が出してやるからケチるんじゃないよ!あとそれから、美味しそうなサンドイッチをたんまりと頼むよ。これも私もちだから安心しな」
ジョエルと呼ばれた男の人は、私の焦げた髪や、夕べは焦げたけど回復魔法で今は赤くなっているだけの、おでこや頬、腕や指を見ると、申し訳なさそうな顔をして、ぺこり、と頭を下げると、また、ふい、と目の前から消えてしまった。
あっけにとられた。
銀の匙は、城下町でも大人気の焼き菓子の店だ。
パイやケーキもあるし、クッキーなどもある。
私もお茶会でよくいただいたものだ。
転移魔法でここから城下町まで行って買い物をしてきてくれる…私も転移魔法が使えれば、すぐにみんなのもとに行って無事を伝えられるのに!
「さて。サンドイッチに関してはジョエルのセンスが問われるところだけど。他の昼食の用意をしとこうかね」
カノンさんの家に戻って、昼食の準備を手伝った。
初めて見たけど、魔道具、というものがあった。
魔石を埋め込むことで、魔石の持つ魔素をもとに、決まった魔法が発動する道具、とのことだった。
そして、井戸の代わりに魔道具の水瓶が各家にあるのだそうだ。
考えてみたら、全員が水魔法を使えるわけではないだろう。
ちなみに魔法のカバンも魔道具の一種ではあるけど、これは魔石を必要としない、魔法陣を応用した道具、とのことだった。
で、魔道具のやかんに魔道具の水瓶から出した水を満たしてやると、火をつけたりもせず、しばらくたつと勝手にぐらぐらとお湯が沸いた。まるで、コンセントにさしてもいないのにお湯が沸く電気ポットだ。
同じように魔道具のコンロがあり、そこに鍋をかけると、火にかけたかのように鍋が熱くなりはじめたので、言われるがままに、刻んだベーコンや野菜を入れて炒め、水を入れて煮込んだ。
炎が立ってないのに、スープを調理している様子は、IH調理器のイメージだ。
この魔道具の原理はさっぱりわからないけど。
「すごいです…便利ですね…」
感心していると、王都にはいくつかあるはずだけどねえ、とのことだった。
スープが出来上がった頃、玄関のドアがノックされたので、出てみると、先ほどのジョエルさんだった。
ジョエルさんが、リビングのテーブルの上に、肩掛けカバンから次々と買ってきたものを出していく。
サンドイッチがたくさん詰まったバスケットと、私も知っているリボンでラッピングされた、銀の匙の焼き菓子の詰め合わせの箱、お茶の缶、そして最後に花束。
「あの…焦がしてごめんなさい」
そういって、花束だけは私にくれた。
「おや。ジョエルのくせに気が利くじゃないか」
「あっ、ありがとうございます…」
とりあえず、お礼を言うと、ジョエルさんはちょっと顔を赤くして、帰っていった。
「私より、悠人のほうがもっと焦げたのに…」
思わず口からもれてしまった不満をカノンさんは拾ってくれて、ベッドサイドに飾ろう、と作業場兼寝室に行った。




