84マリア 楽しい毎日が…
悠人と一緒に冒険の旅に出られて嬉しい。楽しい。
正直いうと、そんな感想だ。
私が死んだときより少し成長した悠人が、アレックス殿下と何か冗談を言って笑ったり、真剣な顔で魔物と戦っている姿をずっと見ていられるだけで…一日中悠人を見ていられるだけで、幸せだった。
裕福ではなかった私達は、旅行などしたことがない。
もちろん修学旅行などには行かせてやったけど、二人で旅をしたことなどなかった。
ゴブリンの洞窟で寝泊まりすることが旅行なのかと言われたら、そこは微妙ではあるけれど、非日常ではある。
エミリーとおしゃべりをしながら、皆の後ろについて歩き、戦闘になったら時々回復魔法をかける。
エドガーやジャンが私達のことを守ってくれるので、何の心配もない。
洞窟で泊まるときも、寝床が硬いのは仕方ないけど、私の魔法でみんなが快適に過ごしてくれることに満足感がある。
初めての『ボス戦』という、その辺の魔物よりも強い魔物と戦ったときも、補助魔法を片端から試すつもりが、思ったよりも早く終わってしまった。
一度洞窟から出て、村に戻り、回復薬や食料などを補充して、お風呂にも入って、ベッドでぐっすり眠って…。
すっかり楽勝な気分になっていた。
私達のリーダーのグレイ騎士団長さん…最近はグレイ隊長とか隊長と呼んでいる…の判断は常に的確で、私達が危険な目に合わないよう、万全の計画を立てながら、慎重に洞窟の攻略を進めてくれる。
私はそのときどきで必要だろうと思われる行動をするだけだ。
できることしかしないので、何にも無理も苦労もしていなかった。
…それが。
悠人があまりに興味津々で崩れた土砂を眺めていたので、何がそんなに面白いの?と私も近づいて見ていたら…。
きっと一度崩れたことで、地盤がさらに弱っていたに違いない。
戦闘の最中に飛んできた武器が当たった衝撃で、新たに崩れてきた土砂に、悠人と二人で巻き込まれてしまった。
でも、悠人と近かったのは幸いだった。
とっさに張った防御壁が思ったより範囲が狭くて…悠人を中心に張ったので自分の体の一部は防御壁の外になってしまった。
それでも、命には別条がなかったし、防御壁から出ていた足も岩に押しつぶされることもなかった。
悠人が足を掘り出してくれたし、さらに防御壁のお礼を言ってくれたのが嬉しくて、一緒に来ていて良かった、と気持ちが上向いたのは、でもほんのわずかな間だけだった。
すぐに他のメンバーとはぐれてしまったことに気が付いたからだ。
どんな能力があるのか私にも未知数の、ジャンともはぐれていたのだ。
もしかして、エミリーやエドガーが岩に押しつぶされていたらどうしよう、と思ったら、怖くなってしまった。
悠人にばかり気を取られて、エミリーがどこにいたのか分かっていなかった。
私は自分のわがままでここにいるのだから、自分に何かあっても仕方がない、と思える。
でも、エミリーは本来、こんなところに来るような子ではないのだ。
エドガーと城下に小さい家でも買って、可愛い子ども達に囲まれて…そういった未来があるはずだったのだ。
エドガーも、エミリーについてくるために、近衛騎士というエリートの肩書を捨ててしまった。
近衛として多少の危険な仕事はたまにはあっても、王宮でのお茶会の護衛と、勇者一行の一員…比べられるようなものではない。
安全で安定した生活、二人にはそれを捨てさせてしまったのだ。こんなところで万が一のことがあったりしたら…。
今更ながら、私のこの旅の重みに、そして二人が大丈夫なのかの不安に、涙がこぼれてしまった。
相変わらずの、自分の浅はかさも情けなかった。
泣いてはいけない、と思ってもこらえきれなかった。
悠人が一瞬困った顔をしたあと…ぎゅっと抱きしめて、慰めてくれた。
まるで、昔、私が悠人にしてやったように…。
気持ちを立て直した後、どうしてそこまでして一緒に来たかったのかと、ど直球で尋ねられてしまった。
確かに不思議に思われてもおかしくはない。
でも、我が子と一緒にいたい、我が子を守りたい…だなんて絶対に言えないし、なんとかそれらしい理由は既に伝えてあるし…。
しどろもどろになってしまった。
でも、ちゃんと答える前に、また頭上が崩れてきたので、その話はうやむやになってくれた。
その上、なんとか外まで通じる空間ができたようだった。
悠人がその空間を突き崩して通れるくらいに広げ、一度上って確かめ、迎えに来てくれて、押し上げてくれた。
いつの間にこんなにたくましくなったんだろう…。
小さい頃はすぐに熱を出して、おんぶして病院に走ったものだったのに。
外に出られて、生き埋めの心配はなくなったけど、思ったよりも夕方で、しかも出たところは森の中だった。
土砂崩れのすぐ脇で、安全な場所とは到底思えない。
ぐずぐずしていると夜になって、魔物に囲まれてしまう。
それに、ここではどんな魔物が出るのか、わからないのだ。
悠人が森の先の方で、煙が上がっているのを見つけてくれた。
確かに、数本の煙が立ち上っている様子から、複数の人家があるようだ。
暗くなる前に、そこに向かうことにした。
太陽の方角と地形を目印に進んでいったけど、とうとう暗くなって太陽の位置もわからなくなり、二人で立ち止まざるを得なかった。




