83ハルト リーベス村
高熱が出て、体のあちこちが痛い。
母さんが僕の前髪をかき分けて、額を触る。
「まだ熱が下がらないわね…」
心配そうに眉を下げて困った顔をしている。
「大丈夫だよ、一人で寝ているから、母さんは仕事に行って」
僕がそう言うと、「いつもより早く帰らせてもらうからね、良い子で待っていてね」と慌ただしく出かけていく。
なのに、今日は首をふって、「悠人のそばにいたいの、心配だから…」そう言って添い寝をしてくれた。
母さんが優しく髪をなでてくれると、頭の痛みや体のあちこちが痛いのが薄れていく気がする…。
「悠人、お休み、何も心配しないで。母さんはここにいるから、ゆっくり休んで…」
幼い僕は体の力を抜いて、母さんの腕の中で眠った。
「おや、勇者殿がお目覚めだよ」
久しぶりに母さんの夢をみた。
夢の中で僕は小さな子どもに戻っていた。
もっと続きが見たかったのに、薬草やハーブなどの匂いがする…そう思って目を開けたら、目の前に知らないおばさんがいた。
ここはどこだ?と慌てて起き上がろうとしたら、ひどい頭痛に呻いて、起きあがるのを断念した。
「悠人、具合はどう?」
おばさんの隣に、マリア嬢がいた。
青白い顔をして、心配そうに僕を見ている。
「たった一人で、あいつと戦ったんだから立派なもんだよ。この村にそんな勇気のあるやつはいないねぇ。まあ、この子を守るために必死だったんだろうけどさ」
けらけらと快活に笑っているこの人は、確か…。
「この方は、このリーベス村のカノンさん。薬師をしてらっしゃるの。私達が戦っているのに気づいて、村の方々と助けに来てくださったの。ハルト様をこちらまで運んでくださったのも、この村の方々よ」
そうだ、やっぱり…。
このカノンさんに気に入られると、世界でここでしか買えない奇跡の薬を売ってもらえるようになるけど、失敗すると、入手不可能になるんだった。
「いや、村の若いもんが、森の中で魔法の気配がしたって言いだしてね。でも最初はだれも信じなくてさ。この窪地によそ者なんて何十年も来てないからね。しばらくして、また魔法の気配がして、今度は近かったからみんな分かってね。どうみても使われている魔法が戦闘のようだったから、様子を探りに行ったのさ。もしかしたらゴブリン王がなんか事情があって洞窟から出てきて魔法使ってるのかもしれなかったからね。そしたら、まあ可愛らしい子ども達が必死に戦っているじゃないのさ!おばさんはたまげたよ」
うん、まあこの世界で成人したとはいえ、五十代に見えるおばさんからしたら、僕らは子どもだよね…。
「若いもんにあいつは片づけさせといたから安心しなね。とどめはうちらがさしたけど、あそこまで戦ったんだ、魔石はあんたに渡すから。ほら」
小ボスの腹から出てきたのより、はるかに大きい魔石だった。
「ああ、今の弱った体で魔石に直接触ると体に障るね、ちょいとおまち…これをやるよ」
カノンさんは豊満な体を揺らしながら壁際のタンスまで行くと、中からポーチを取り出してきて、その中に魔石を入れ、ポーチごとくれた。
「魔石の、コントロールできていない魔素を遮断するポーチさ。買うと高いんだよ!ありがたがってよね」
「は、はい…ありがとうございます…」
「あ、そうだった。これをお飲み」
ポットからどす黒い液体がカップに注がれる。
カノンさんとマリア嬢に手伝ってもらってなんとか上半身を起こし、その液体をすすってみた。
色は悪いけど、立ち上る香りはいい香り、と感じられて、体が欲しているように思う。
ちょっと熱かったけど、すぐに飲んでしまった。
カノンさんはにんまりと笑うと、もう一杯ついでくれたので、今度は少しゆっくりと飲んだ。
体に染み渡っていくような感覚がある。
と、急にくらくらとしてきて、カップをベッドサイドテーブルに置いたまでは何とか覚えていたけど、そのあと、また何もわからなくなってしまった。




