78ハルト 思わぬ事態1
「あいたた……」
まだパラパラと小石などが頭上から降ってくる。
「大丈夫ですか?」
心配そうなマリア嬢の声が近くから聞こえた。
持っていた松明もどこかへ行ってしまったようで、真っ暗な中、手探りで自分の体の無事を確かめる。
骨折などの大けがも無いようだし、挟まって動けないということもない。
「僕はどこも何ともないです。マリア嬢は…?」
「私は、大したケガではないのですが、足がすっぽりと…」
すぐそばで声がしているのでその方に這っていってみると、すぐにマリア嬢らしい体に触れた。
「あっ、その、ごめん…」
どこを触ったか分からないので一応謝っておく。
「大丈夫ですわ」
他のみんなは大丈夫だろうか。
「ゴブリン達はどうなったかな」
思わずため息をつく。
全く困ったことになった。
一度洞窟から出て、英気を養った僕らは、再び洞窟に潜っていた。
地下三階層への三つの階段のうちの一つは、小ボスの部屋だったことは前回確認済みだ。
そして、もう一つの階段は、地下三階層から地下四階層へ通じる階段もある、広いエリアだった。
最後の一つは、地下三階層の一部から今度は上り階段しかなく、ずっと上っていくと、僕のゲームでの記憶の通りに土砂崩れで塞がった出入り口へつながっていた。
地下四階層へは、また小ボス戦もあるかもしれないので後回しにし、先に上り階段の方を探索することにした。
上がっていくと魔物も弱くなる傾向は変わらないのだけど、こちらは村に近い洞窟の出入り口からは遠いため、ゴブリンも、その他の魔物も数が多かった。
ひたすら戦闘とマッピングをしながら進んだ。
地下二階層、地下一階層、さらに一階層、どれもかなり広く、マッピングをしながらでは一日では回り切れず、洞窟の中で二泊していた。
以前、宿泊部屋にした小部屋はその後も基本的にベースとなる休憩部屋として使い続けていて、魔物が入り込まないよう、常に入り口に結界を張って、ちょっとした荷物なども置いてある。
今日は一階層のマッピングの続きから始め、ゲームでの記憶の通りの、崩落によって崩れた洞窟の出入り口を確認していたところだった。
僕はゲームで既に知っていたことは言えないので、皆が、ここが塞がれたせいで、村の方の入り口がこじ開けられたんだな、などと話しているのを聞きながら、崩れ落ちて山積みになっている岩の様子を、松明を掲げて眺めていた。
こちらの洞窟の出入口はかなり大きなもので、村の側の出入り口が軽自動車が出入りできるかどうか程度だったのに対して、こちらは大型トラックも余裕だろうと思える。
その開口部が大小さまざまな岩や土砂で完全に塞がっている。
観察した結果…といっても松明の明かりで見える程度の範囲だけど…洞窟の外側で山崩れか何かがあって、開口部が完全に塞がれ、同時に出入り口付近の洞窟内部も脆くなって崩れた、といった感じに見えた。
そのとき「きたぞ!」の声に、振り向くと、僕らの後ろから、ゴブリンの団体様が襲い掛かってくるところだった。
先陣を切って攻撃しなくてはならない僕が最後尾とは、と焦った瞬間、ゴブリンのうちの一匹が僕に向かって斧を投げつけてきた。
僕らの何人かが松明を持っていて、暗い中では魔物から良く見えるのだけど、そのうちの一人が最後尾の僕だったからだろう。
でも、距離がそこそこあったので避けるまでもなく僕には当たらず、洞窟の崩れかけた天井に当たった。
僕は前線に出なくては、と斧を無視して数歩進んだところで…地響きをたてて僕の頭上が崩れはじめた。
死ぬかも、と思った瞬間、白い光に包まれた気がした。
でも、ぎゅっと目をつぶってしまったので、良く分からない。
次に目を開けてみたら、僕とマリア嬢がかなり狭い空間に閉じ込められていることが分かった、というところだ。
「真っ暗だから松明をつけたいけど、もし密閉されていたら空気が無くなって死んじゃうし…」
「そうですね…」
二人で逡巡していたら、また、パラパラと小石が落ちてき始め、盾でマリア嬢と自分の頭上を覆った途端に、どさっと塊が降ってきた。
でも、今回は石や岩ではない感じがした。
ある程度崩落が落ち着いたか、と思ったので盾を外してみると、ほんの一筋ではあったけれども、外の光が差し込んでいた。
そして、どさっという音は草の生えた土の塊が落ちた音だった。
「空気と明かりの心配はしなくて良さそうですね」
盾を脇に置いて、見えるようになったマリア嬢の様子を確認すると、横座りになった状態の足が、土砂に埋まっていた。
掘ってあげると、少し足が動かせるようになり、更に掘り進めて、最後に足を引っ張ると、なんとか抜け出せた。
膝までの編み上げブーツを履いていたので擦り傷もなかったようだ。
「ああ、良かった…大きい岩に挟まれてはいなかったけど、ずっとあのままだったらうっ血しそうでした」
二人でホッとしたところで、もう一度現状を確認する。
頭上は、大きな岩などの隙間を縫って外につながっているようだけど、立ち上がれるほどの高さはない。
膝立ちが精一杯だ。
そして、広さが直径二メートルくらいの隙間の中に、僕らがいた。
「あの、とっさだったのでこんなに狭くてごめんなさい」
「え?」
「私とハルト殿下だけが皆とちょっと離れていたんです。私も崩落現場を良く見たくて近寄ってしまっていて…。それで頭上が崩れてきた時に、とっさに防御壁を張ったのですが、不慣れなものでこんなに狭い範囲で…」
ああ、死ぬかもと思ったときに見えた光は気のせいではなかったということか。
「マリア嬢のお陰で、死なずに済んだんだね、ありがとう」
危ないところだった。
魔物との戦いではなく、岩に押しつぶされて死ぬところだった。
心底ホッとして微笑んだら、光の加減かも知れないけど、マリア嬢が赤くなったような気がした。




