77ハルト 魔石ゲットだぜ
マリア嬢が結界を解いてくれた途端、洞窟独特の嫌なにおいが鼻につく。
この結界は、空気は通すと言っていたけど、その時に空気清浄もしてくれていたようだ。
松明を掲げ、気を引き締めて一歩踏み出した。
すぐに魔物の一団と遭遇する。
そんなことを繰り返しながら、一番近い階段まで来た。
先頭のグレイ師匠が階段を降り切った途端…。
「戻れ!」
師匠の叫びと、閃光が同時だった。
訳も分からず、でもこれまでの経験で、師匠の声の指示には瞬時に体が反応した。
師匠のすぐ後ろにいたアレックスと僕は数段階段を駆け戻り、そして師匠を振り返った。
師匠は何かの魔法をくらっていて、ふらついている。
僕もアレックスも師匠のお陰で無傷だ。
すぐに助けに行こうとしたとき、僕の背後から青白い光の筋が僕とアレックスの間をすり抜けていって、師匠に当たった。
すると、師匠がすぐに階段を駆け上り始めてくれたので、僕らも上の階までとりあえず戻った。
「いや、すまん、油断していたつもりは無かったんだが…助かったよ、ありがとう」
マリア嬢が、上位の回復魔法…HPの回復と状態異常からの回復をいっぺんにしてくれる魔法…を、しかも無詠唱で師匠にかけてくれたのだ。
「私、特訓してきましたもの」
松明の明かりに照らされながら、マリア嬢は嬉しそうに微笑んでいる。特訓の成果が発揮できたのでうれしいのだろう。
そしてそのマリア嬢の後ろで、何故かエミリーさんが得意げな顔でうんうん頷いていた。
「師匠、今のなんだったんですか?」
アレックスが階段を覗き込んで不安そうな顔をした。
「ああ、予想外なんだが…ゴブリン王的なものだな…」
「魔法を使ってきたところからもそうでしょうね。ソーサラーゴブリンが群れのリーダーかと」
僕が驚いて絶句したのに、マリア嬢が深く頷いて同意している。
「以前話したかと思うが、ここにいるのは恐らくいくつかのゴブリンの群れの複合体じゃないかと思っている。なので、この洞窟全体としてのゴブリン王は最下層にいるだろうが、群れのうちの一つのリーダーがここにいるんじゃないかな。そういうこともあるだろう、とある程度の予想はしていたんだが三層目で遭遇するとは思わなかった。村の伝承では、ここは地下五階層までだという話だったからな」
甘かったな、と師匠は反省しているけど、とりあえずなんの被害もないからいいじゃないかと思ってしまうのではいけないんだろうか。
気を取り直して、ボス戦に挑むにあたって、改めて作戦を練った。
何しろ僕らにとっての初めてのボス戦なのだ。
恐らく小ボスだろう、とたかをくくってはいけない。
今の全力を出し切って戦うのみだ。
今度は降りきる前に、マリア嬢が全員に魔法防御、物理防御を上げる魔法をかけてくれて、まずは僕ら三人が一気に降りた。
と同時にまた攻撃魔法の閃光がきらめいた。
こういう奇襲は一回しか効果がないということが分かってないのだろうか?
恐らくそうくると分かっていたので、階段下から素早く左右に展開して、範囲攻撃魔法の攻撃範囲から逃れる。
ほぼ同時に、今度はジャンさんの魔法なんだかスキルなんだか分からないけど、頭上に光るものが出て明るくなり、辺りの様子が一気に見えた。
敵は明るさに怯んでくれたので、その隙に陣形を整えた僕ら三人の背後に、マリア嬢たちが駆け込んでくる。
向こうは恐らくボスであろうゴブリンの上位種であるソーサラーゴブリンと、ゴブリンが二十匹ほどのようだ。
アレックスが一気に間合いを詰めて、炎を纏わせた大剣を一閃、手前のゴブリン数匹に大ダメージを与えた。
僕も雷の全体魔法で、ゴブリン達全体にダメージを負わせ、すでにダメージを受けていた数匹がこれで片付く。
師匠が素早く駆け寄ってボスに切りつけ、すぐに護衛のゴブリン達から反撃をくらわないように距離をとる。
さすがここのボスだけあって、師匠の攻撃をうけてももちこたえている。
後ろから、マリア嬢が僕達三人に素早さアップの補助魔法をかけてくれた。
さらにジャンさんがまた何かスキルか魔法を発動したようで、急にゴブリン達の周辺に土埃が立ち上り、ゴブリン達が仲間同士で同士討ちを始めた。
視界が悪くなるだけでなく、何か混乱する効果も付与されているらしい。
ソーサラーゴブリンがまた閃光を放った。
狙いは僕らではない、僕らの後ろだ。
でもその攻撃魔法はエドガーさんが盾となって受け、マリア嬢やエミリーさんにはダメージはない。
それを目の端で確認しつつ、手下のゴブリンはアレックス達に任せ、僕と師匠とでボスであるソーサラーゴブリンに切りかかった。
さっきはもちこたえたけど、本気の師匠の攻撃に、ボスはあっという間に倒され、残ったゴブリン達も、ほどなく全て倒すことができた。
旅が始まって最初のボス戦は、やっぱり小ボスだったとはいえ、誰も大けがを負うこともなく、割とすんなり終えることができた。
かなり緊張していたようで、ホッとしている自分に気が付く。
今のメンバーでなら、この洞窟の攻略は、力が足りないということはない、と証明できた気分だった。
肩で息をしながら、師匠に促されてソーサラーゴブリンのいたところに行ってみる。
倒れたその死骸をちょっと転がすと…腹から紫色の小石が出てきた。
「これが魔石かあ…」
師匠も僕も初めて見る。
後でじっくり見ることにして、カバンにしまう。
触ってみたとき、ぬるぬるしてたりしなくてホッとした。
それからさらに辺りを調べてみると、ソーサラーゴブリンのいた場所の奥に棚のようなものがあり、そこに、彼らの宝物とおぼしきものがあった。
それらを吟味して、使えそうなものはいただいていく。
その中に…明らかに冒険者たちの装備品がいくつもあり、後でギルドに報告のために持って行こう、ということになって、それらもカバンに詰めた。
小ボスとはいえ、階段を降りた瞬間にボス戦がはじまるなど、なかなか予想できるものではない。
しかもここのボスは敵が階段を降りてくるのをひっそりと待ち、降りきったところを麻痺効果もある範囲攻撃魔法で不意打ちし、動けなくなったところをなぶり殺しにする、というのが常套手段だったようだ。
師匠が一緒でなければ、僕らもやられていたことだろう…。
先に来ていた冒険者グループの冥福を皆で祈った。
その部屋はどこにも通じる通路も部屋もなかったので、広さをマッピングし終えたところで、元来た階段を上る。
「一回あの部屋に戻るか…」
大ダメージは受けていないとはいえ、精神的な疲れがあったし、初めてのボス戦で入手したものもある。
一回仕切り直そうということになった。
夕べ浄化をかけた部屋はまだ快適さを保っていて、入り口にまた結界をはってもらい、ジャンさんに照明の魔法をかけてもらった。
あれはスキルじゃなくて魔法だったようだ。
この照明の魔法は、部屋のようにある程度閉じた空間じゃないと使えなくて、全員が部屋を出ると効果が切れる。逆に部屋を出るまでは継続するので、寝る前などには不向きなので夕べは使わず、今朝もかまどや松明の火で明かりが十分だったから使わなかった、とのことだった(通訳:マリア嬢)。
照明の魔法は蛍光灯の明かりで照らされた室内のような感じになるので、光も揺らがず、色んなものをしっかり見ることができる。
さっき入手してきたアイテムをもう一度出して、落ち着いてみんなで見てみた。
「ああ、やはり魔石で間違いないな」
目の前でゴブリンの体内から転がり出たのに、拾ったとき、温度も、湿り気すらも感じなかった。
持っていてあまり気持ちのいいものではなく、計画を変更して、魔石や拾ったものを一旦村に持ち帰ろう、ということになった。
早目の昼食をとると、洞窟の出口に向かった。
マッピング済みでもあり、また、上がるにしたがって魔物も減るので、半日で洞窟から出られ、出てみるともう夕日ではあったものの、まだ明るかった。
「ああ、新鮮な空気と太陽…やっぱり人間は真っ暗な洞窟では生きられないなー」
アレックスが大剣をそばの地面に突き刺して、大きく伸びをする。
「ね、ジャン、一足先に戻って、ご飯とお風呂の支度をお願いって言ってきて」
「おお、そうしてもらえるとありがたい」
「お嬢様のお風呂には香油を忘れないように言ってね」
公爵家チームはもうリラックスモードだ。
まあ確かにここから村まで、今まで洞窟の暗い中で戦っていたことを考えると、魔物達に出会っても、面倒くさいな、という気持ちになるだけだ。
実際、数度出会ったけど、最初の頃の苦戦が嘘のように、さっさと倒し終えられる。
何日もの僕らの努力の成果で、洞窟の外にいる魔物の数は激減していた。




