76ハルト 洞窟でのお泊り
洞窟の中で出る魔物のうち、ゴブリン以外は普通の魔物なので、瘴気によって湧く。
つまり、この洞窟の中にも瘴気が立ち上る場所があるということだ。
昼食をとったところのような、小部屋のようになっていて、さらに瘴気が薄い場所を、師匠とエドガーさんは僕らがマッピングしていた間にもチェックしていたようで、あっちかこっちか、と話し合っている。
その小部屋のような場所に戻ったころには、真っ暗な洞窟内にいても、外は夜だろう、と疲労度とお腹のすき具合でわかった。
「今日は午後にお茶もできませんでしたからね…」
エミリーさんがエドガーさんに協力してもらいながら、カバンからレンガのようなものを出して簡易な竈をつくり、鍋を設置、薪も出して、火をつけた。
マリア嬢がカバンから水瓶を出して魔法で水を満たし、鍋に注ぎ…。
いつものように着々と食事の準備がされていく。
僕とアレックスとで見張りとして入り口に立っていたのだけど、マリア嬢が寄ってきて、ちょっと試してみたいことがある、というので、言われた通り、少し脇によけた。
マリア嬢が半眼で眉間にしわを寄せながら、何かブツブツと言い、手をかざした。
すると、まるでガラスがはめ込まれたかのような、膜のような何かが入り口をぴったりと塞いだ。
外は見えている。
「わ!やったわ!成功」
「マリア嬢、これは一体…?」
アレックスが、触ろうとして手を伸ばしたら、慌てて首を振られた。
「今日は初めてだし、試作だから、触らないで。結界をはってみたの。空気は入れ替わるけど何も入って来られないはずよ。ただ、これはまだ味方と魔物の区別をつけるところまでいってないから、私達も触るとダメージを受けるから。気を付けて」
「まあ!さすがお嬢様ですわ!」
「だからジャンも安心してご飯食べたり休んだりしていいのよ………そう、相変わらず頑固ね!」
どうやら庭番は僕らと一緒にご飯を食べる気はないらしい。
っていうか、この小部屋のどこにいるんだろう…。
「ここのゴブリン討伐を終えて、洞窟の入り口を塞ぐときは、こういう結界も取り入れるといいかもしれないなあ」
「ですね、今までは巨大な岩で塞いでいただけのようですからね」
師匠もエドガーさんも興味津々で結界を眺めている。
「あとね、もう一つ試してみたいの」
マリア嬢が今度は小部屋の真ん中に立ち、何かをブツブツと言い始めると、部屋の中にどこからともなく霧のようなものが湧き出てきた。
それが部屋全体に広がったと思ったら、すっ、と消え去った。
「どうかしら?この閉じられた空間に浄化をかけてみたつもりなんだけど、成功したかしら?」
みんなぽかん、とした。
空間を浄化…?
「そうか、マリア嬢は回復魔法や補助魔法だけでなく、オリジナルの魔法も作り出せるのか…」
師匠が驚いている。
勿論、僕もアレックスもびっくりだ。
浄化の効果は絶大で、なんとなく常に緊張していた感じがあったのに、それがなくなっていた。
薄いながらも瘴気にさらされていることは、常にストレスがかかっていたのだろう。
「急に快適になりましたわ!さすがお嬢様!」
エミリーさんに褒められて、得意げな顔をしたマリア嬢は、ふ、と僕と目が合うと、何故だか満面の笑みを浮かべた。
マリア嬢の活躍で、急に快適になったその小部屋で、一応入り口には気を配りつつ、みんなで暖かい夕食を食べ、魔法のカバンからそれぞれ毛皮の敷布と毛布を出して眠った。
うとうとしながら、歌が聞こえた気がした。
予想の何倍も快適な夜だった。
師匠に起こされてみると、他の皆はもう起き出していて、かなりしっかり眠っていたことにびっくりした。
自分が図太いのか、それだけ緊張がなかったからなのか。
一応、師匠とエドガーさんと庭番のジャンさんで交代して入り口を見張ったらしいけど、近寄ってきた魔物は結界から発せられる何かに怖気づくらしく、結界に触れる前に慌てて逃げ出し、二度と近づいてこなかったそうだ。
それにしても、師匠たち、庭番さんとどうやってコミュニケーションとったんだろうなあ…。
エミリーさんが昨日作った竈で簡単な朝食を作ってくれて、お腹を満たした後、昨日マッピングした地下三階へのくだり階段のどれを降りるか、話し合った。
僕がゲームで遊んだ時の、この洞窟のマップまでは覚えていない。
でも、本来ゴブリンたちが出入り口として使っていた大きな洞窟の入り口が土砂崩れで埋まってしまったため、ゴブリンたちが村の近くの小さな入り口をこじ開けて出てきた、という話だったことは覚えている。
そして、その土砂崩れで塞がった出入り口につながる階段が、そろそろあったような。
そしてついでに思いだしたのは、この土砂崩れで塞がった出入り口から出ると、行くことができる集落があったはずだ。
洞窟を通らないと、道が無い山越えをしなくてはならないので、ゲームでは洞窟を通るしかなく、でもそのころには一度行ったことのある町や村には魔法でひとっとびできるようになっていたので、洞窟のゴブリンのイベントのあとは、魔法で行っていた集落だった。
でもなぜそんなことを知っているのか訊かれたら答えられないし、全てをはっきりと覚えていないので、うーんうーんと唸るしかない。
結局、マリア嬢の浄化でかなり快適に過ごすことのできる拠点がここにできたということで、まず近い階段を降りて、探索し、また新たに拠点になりそうなところがない限り、今晩もここに戻ってくる、ということになった。




