74ハルト マリア嬢
公爵家が桁違いだと思った理由はもう一つある。
仲間になったマリア嬢の護衛のうちの一人…マリア嬢がジャン、と呼んでいる護衛。
庭番の存在だ。
僕も王族の端くれになったけど、王家にも庭番がいるのかは教えてもらっていない。
替え玉はいたけど。
…その辺り、いつか訊いてみようと思う。
マリア嬢は盛んにジャンを僕らに紹介をしたがるのだけど、未だに彼の姿を目にはしていない。
主となるマリア嬢は当然として、メイドのエミリーとエドガーさんも、ジャンの姿を見ているのだけど、覆面をしていたので顔も髪も見ていないのだとか。
マリア嬢に言わせると、若い男性なことはわかっているけど、名前も教えてくれないし、髪の色も目の色も見せてくれないし、何を聞いても教えてくれないケチなのだそうだ。
初めて宿の食堂でマリア嬢たちと会ったとき、マリア嬢から三人紹介すると言われて、どう見てもエミリーさんとエドガーさんしかいないようなのに、どういうことかととまどった。
師匠はその存在に気付いていたみたいだけど…。
マリア嬢から、どうも私と二人のときしか姿を見せたくないみたいで、と言われ、ついうっかり、本当にいるの?と聞いてしまったら、次の瞬間テーブルに小型ナイフが突き刺さった。
僕の手すれすれに…。
ナイフが飛んできたと思われるのは、あり得ない方向…頭上からで。
慌てて仰ぎ見たけど当然その姿は無かった。
「忍者か…」
僕の呟きに、みんなはきょとんとしていたけど、マリア嬢だけはうんうん、と頷いていた。
というわけで、僕らは朝出発をするとき、見た目は六人だけど、実際は姿を現さないジャンさんをいれての七人だ。
そして、いざ戦闘、となったときには、マリア嬢とエミリーさんとエドガーさんが後方で、僕ら三人は前に出て戦い、ジャンさんは姿を見せないままどこからともなく毒の吹き矢で急所をついてくれたり、小刀や手裏剣的な何かがどこかから飛んできて倒してくれたりする。
エミリーさんは戦闘中、ひたすら攻撃されないように隠れていてくれるし、万が一魔物が女性陣をターゲットにしようものなら…元近衛騎士のエドガーさんが華麗に二人を傷一つつけることのないように守ってくれた。
という訳で、戦闘に参加するのはエミリーさん以外の六人で。
そんなわけで冒険者のグループとして、僕らは六人です、なのか、七人ですなのか、一瞬戸惑うところだった。
そして戦闘に参加しないエミリーさんは、役立たずかというと、全くそんなことはなく、ともすればうっかりしがちな男性陣に、昼食休憩や午後のお茶をとることを、いいタイミングで提案してくれる。
そして僕らが疲れて自ら動きたくない気分のときのも、くるくると良く働いておいしいお茶や昼食を用意してくれた。
最近は、マリア嬢の水魔法で水を用意して、アレックスの魔法で、適当に集めた小枝に火をつけてお湯を沸かして…という阿吽の呼吸もできつつある。
なんというか、前の世界でいうところのQOL…まあ生活の質というやつがぐん、と上がった。
ぼろ雑巾のように疲れ果てて眠っていた最初の頃が嘘のようだ。
そんな戦闘慣れのための数日を過ごした後、グレイ師匠から、いよいよ洞窟内に突入しよう、という提案がでた。
公爵家からまた新しい装備の差し入れが届き、一段と防御力も上がったし、僕らの能力も不安がない程度になったかららしい。
次の日、新しい装備で集まった面々を見て…急に記憶がよみがえって、びっくりした。
なんと、マリア嬢は、ゲームのパッケージの三人目だったのだ!
ウエストをベルトで締めたチュニックに、足さばきのいいワイドパンツ、その上から魔法使いらしいローブを重ね、帽子を被って杖を持ち、長い髪を三つ編みにした姿を見てようやく思い出した。その姿が、パッケージでの姿だった。
今までずっと、動きやすいドレスとかいうのを着ていて、お姫様のような恰好をしていたのでわからなかった。
…女の子って、服装や髪形で別人みたいになるんだ…と驚いた。
ゲームでは、なかなか仲間にするきっかけが分からなかったマリア。
仲間にしたとたんに、この世界に来てしまって、そのチートぶりを見ることもなかったキャラ、だ。
そうだ!名前、ゲームでもマリアだったじゃないか!
なんてまぬけなんだ、気付かないにも程があったな…。
ちなみに、ゲームでマリアを仲間にするには、ゲームの中盤で、神殿の巫女とその兄を仲間にすることに成功した後、巫女を連れて巫女のいた神殿に行くと、神殿にお参りに来ていたマリアと知り合う。
巫女とマリアがもともと知り合いなので、そこで紹介してもらえるのだ。
みんなそこで、パッケージに顔があるから仲間になるのでは?と期待するのだけど…。
グレイを仲間にするイベント同様わかりにくすぎるために、なんで仲間にできないんだろう?と首をかしげることになって、終わってしまうのだ。
マリアを仲間にするためには、それまでの間の冒険で、人助けのミニイベントを全てきちんとこなしてきている必要があった。
ミニイベントを全てこなしていると、紹介してもらった後に仲間になってくれるのだ。
回収しておくフラグが山ほどある、この人助けのミニイベントが、とにかく厄介だった。
勿論、ゲーム内でそんなイベントが起これば引き受けていたんだけど、そもそもの人助けのイベントの『全て』を起こすのが難しかった。
例えば。
ある町で武器屋に入り、武器屋にいた他の客と話し、その客が話題にした薬局に立ち寄った後で宿屋に泊まりに行くと、イベントが起こる…というような、順番やタイミングが大事なパターン。
この順番を間違えると、日を改めて再チャレンジするしかない。
イベントが起こると知っていなければ、気付かずに、そのままスルーしてしまう。
他には、簡単にイベントが起こる代わりに、そのイベント達成度を評価され、いい評価だと次の人助けイベントが紹介され、それもまたいい評価が得られるとまた次につながって…という条件達成パターンもあった。
そんな風に、もはや攻略サイトのお世話にならないと人助けイベントを全てはこなせず、攻略サイトは見ないで遊ぶタイプだった僕は、なかなか仲間にできなかったのだ。
友人から人助けのミニイベントが重要なんだと教えられ、とうとう諦めてサイトのお世話になったことで、グレイを仲間にするとき、お願いする回数が決まっていたことを知ったし、ゲーム開始直後から気を抜かずにフラグを立ててはイベントを回収して、やっとマリアを仲間にしたのだった。
巫女さんの知り合いとしてゲームに登場するマリアがパッケージにでていることで、僕同様にマリアも仲間にできるはずだと考えて、やりこんでくれた方々が情報提供してくれたおかげだ。
それにパッケージのマリアはすごく可愛かったので、仲間にしたい、と考えた男性プレイヤーが多かったのもあるらしい。
そうしてようやくマリアを仲間にできたところでこの世界に来てしまい、ゲームでのマリアの活躍は、ほとんど経験していない。
でも、ゲームのファンサイトでは、すごいチートキャラだ、さすがなかなか仲間にできないだけはある、と評価されていたのは覚えている。
そんな、後半になってから仲間になるはずのマリアが、序盤の今、既に仲間になっていただなんて、…心強い。
これで、パッケージイラストに載っていたアレックスとグレイとマリアが、揃っているのだ。




