73ハルト 仲間
投稿再開です、すみませんでした
ゴブリン退治を始めて、一体何日たっただろう…。
ここのゴブリンの巣は、かなり大きなものらしい。
師匠によると、普通のゴブリンの巣であればそろそろ狩りきっていてもおかしくない位ゴブリンを倒しているのに、毎日出会うゴブリンの数が減っていかないことから、恐らくここのゴブリンの生息域は洞窟全体に広がっていて、いくつかの群れの複合体かもしれない、という話だった。
さらにその場合、おそらくゴブリン王がいるだろう、という嬉しくない予測までつけてくれた。
ゲームでは確かにここを攻略し終わると、かなりのレアアイテムが手に入る。
レアアイテムがドロップされたり、宝物庫にあったりするのは、それだけ攻略の難易度が高いことを意味する。
そもそもここはゲームではこんな序盤で挑むようなイベントではないはずだった。
それだけに日数をかけているし、手強い敵を相手にすることで、僕らの側はかなりのハイピッチで強くなっていた。
本当にゲームと現実は、ちょっと似ていて、全く違う。
そして、僕ら、と称した旅の仲間は、一気に七人…んー?六人…?いや、やっぱり七人、まで増えた。
最初の町のときから悩んできた、『旅の仲間』。
もはや、木こりのカール、狩人のジャックに続いて、神殿の巫女と魔導士の兄妹もあきらめた方がいいだろう。
ここ数日の戦闘で分かったことは、今のメンバーは、仲間になりそこなったメンバーと、スキルや能力が被っていることが多いのだ。
カールの戦士としての高い攻撃力と防御力は近衛だったエドガーさんが、ジャックの素早い急所狙いや特殊攻撃は庭番のジャンさんが、神殿の巫女の回復魔法はマリア嬢が役割をこなしてくれている。
まあ、魔導士に関しては、いないけど。
でもこのことに気付いてから、ゲームとは違って、これが僕の仲間達なんだ、と思えた途端、ものすごく心が軽くなった。
ストーリーの進行がゲームとは違うけど、それがいいことなのか悪いことなのか、は、わからない。
でも、徐々に仲間が増えるのではなく、一気に仲間が増えるのは、後から仲間になるメンバーとのレベル差で悩むこともないし、いいことに思えた。
それに単純に、さまざまなことが一気に楽になった。
その理由は、細かく言えば、たくさんある。
でも。
公爵家令嬢のマリアが仲間になったから。
この一言で言ってしまっていい。
一気に仲間が四人増えたわけだけど、その内訳は、マリア嬢とマリア嬢の付き添いとその護衛×2だ。マリア嬢が仲間になったから一気に七人になったのだ。
七人になって、まずは単純に人数が増えたことで、一日中ゴブリン狩りをしていても疲れ切ることがなくなった。
例えば、三人だったときに五匹のゴブリンと遭遇したときは、かなり苦戦して時間もかかり、倒し終えたときには、回復薬は必須な状態だった。
魔力切れを警戒して魔法を出来るだけ使わないようにしていたせいもあるけど。
それが今は、こちらが全員で一斉にかかれば、最初の攻撃で大抵三匹は屠り、残り二匹も素早い者の二回目の攻撃で倒し終えた。
つまり、一回か二回、剣を振れば終わるのだ。
こちらが受けるダメージは激減し、魔力切れの心配も減った。…というか無くなったに近い。
それは、人数が増えて一回の戦闘時間が短くなり、その気になれば回復魔法も攻撃魔法もほとんど使わずに済むようになったことと、マリア嬢の両親からマリア嬢宛に、数日おきに回復薬と魔力回復薬が届くから、だ。
もし魔力切れを起こしたら、魔力回復薬が潤沢にあるから使えば良いのだ。
攻撃魔法も思い切り使えるようになり、魔法の熟練度も上がっていった。
倒したゴブリンも、埋めずに灰に変えるだけになり、無駄な体力の消耗も抑えられた。
そして魔力切れと体力切れで村に戻ることも無くなったので、一日当たりのゴブリンとの戦闘回数が増え、こちらの強さや体力など…ゲームでいうならレベル、がガンガン上がったようだ。
魔力量の最大値が、すぐには使い切ってしまう心配もないほどまで増えた、といったいい循環が起こった。
さらに、マリア嬢の両親は、村の中に僕らが過ごす家を作ってしまった。
実はマリア嬢が僕らと落ち合った次の日の早朝には、大量の資材を積んだ馬車の列が到着し、村はずれにあった空き家の改装を始めていたのだけど、そんなことに僕達は気付いていなかった。
三人から七人になったのだから、行動パターンからして変えねばならず、さらにメンバーの中には魔物との戦闘はほぼ初めてのお嬢様がいたので、村の様子にまで、誰も気が付く余裕などは無かったのだ。
そして、彼らはほんの数日で、それなりの家を完成させてしまったのだ。
あとで聞いたところによると、職人さんも三交代にして、夜中もかがり火をたいての突貫工事だったのだとか。
その改築された家は、全員が集まれるほどの広いリビングと食堂、もちろんキッチンなどの水回り、全員分以上の寝室、さらには使用人の暮らす離れに厩舎まで…。
もともと、どこぞのお金持ちの別邸だったそうで敷地も広く、大きな建物ではあったらしい。
特筆すべきは、村の宿には入浴施設がなかったのだけど、ここには作られていたことだ。
一日中ゴブリンと戦ったあと、汗とほこりを流し、疲れた体をお湯のなかでほぐしてから寝ることで、疲れのとれ方が全く違っていた。
ベッドが宿のものより上質なのもあるかもしれないけど。
そして公爵家の使用人が、その家に常駐して働いてくれていて、三食の準備も、戻ってきたらすぐに入浴できる準備も、全てをしてくれた。
宿と違って、全員が身内であるため、公爵令嬢だとか、王子殿下だとかがばれやしないかという心配をする必要がなくなり、そういったところで神経をすり減らさずにすみ、宿で過ごすより、リラックスできた。
宿を引き払うことになったときには、宿の主人一家はとても残念がった。
主人夫婦は定期収入が、娘さんはグレイ師匠と会いにくくなることが、残念だったのだろう。
宿からこの家に移って、リラックス度が一番高まったのはグレイ師匠っぽかった。
とにかく、公爵家というのは王家に継ぐ地位の高位貴族であることは頭では分かっていたけれども、その権力も財力も桁違いであることをまざまざと見せつけられ、感心したというか…呆れた。
全ては娘のため、であり、僕らはそのついでなんだろう、というのもあちこちで実感したけど、その度に当の娘は、うちの両親バカなのかしら、と呟いていて、面白い親子だな、と思った。




