72マリア 仲間にしてください
明日から戦闘に加わる時にはどの装備の組み合わせにするかをエミリーと相談しているうちに、「戻った」というジャンの声がいきなり聞こえて、驚いて飛び上がった。
慌ててきょろきょろしたけど、やっぱり見えないし、エミリーには聞こえてもいないようだ。
どんなスキルなのか今度問い詰めなければ、と思っていたらノックの音がして、エドガーさんが食堂で落ち合うことにしましたので、と迎えに来てくれた。
宿についてから、バタバタしていてお茶も飲んでいなかったので、丁度よかったわ!と食堂でお茶を飲みながら悠人達を待った。
いよいよ悠人に会える…。
わくわくするような期待感と、どう思われるかしら、という不安と。
そわそわしていたら、三人が入ってくる気配がして、顔を上げた。
食堂で待ち構えていた私達を見て、三人は目を丸くした。
「ガードナー公爵令嬢ではないですか!先日ぶりですね…なぜこのようなところに?」
騎士団長様が驚くのも無理はないだろう。
ほんの数日前に焼き菓子を持って訪ねた私と会ったばかり。
そのときには、私だってこんなにすぐに旅立つと思っていなかったのだから。
「アレックス殿下、ハルト殿下、そしてバーク侯爵家グレイ様…騎士団長様とお呼びした方がよろしいのでしょうか?ご機嫌麗しゅう。突然訪ねてまいりまして、驚かせてしまい申し訳ありません。私はガードナー公爵家長女、マリアと申します」
深々と淑女の礼をとる。
この宿は私達で貸し切りの上、宿の主人一家にはさっき夕食の注文を出したときに、許可を出すまで食堂に近寄らないようにお願いしてある。
まあ、あからさまなお姫様とメイドと護衛の一行が来たら、お願いだろうが命令だろうが、それに逆らえる庶民はいないのだけど。
なので、殿下呼びしても大丈夫。
ばれる心配はない。
「ああ、一応私達はただの冒険者一行なのでね、そのようなご挨拶は無用ですよ。私のことはただグレイとお呼びください」
殿下達もそうだそうだと頷いている。
身分の上では下でも、グレイ騎士団長がリーダーらしい。
年齢からいっても、ありとあらゆる経験値からいっても、当たり前か。
「では、身分を無視して、ただの冒険者ご一行として、お話させていただいてもよろしいということでしょうか」
「そうしてください」
殿下達も頷いている。
よし、言質をとった。
不敬罪とかはこれで無しだ、エミリーも話しかけられる。
いったん食事の用意をしてもらうことにして、話を中断。
料理を運び込んでもらう間、じっくり三人を眺めた。
久しぶりに見かけた悠人は、おそろしくやつれていた。
顔色は土色で、目の下にはクマがあり、頬はこけてしまっている。
やつれていたのは三人ともではあったのだけど、こんなに間近で悠人に会って話をするのは初めてだったのに、それがこんなにやつれた姿だなんて、ショックだった。
でも、ショックだったお陰?なのか、ずっと懸念していた、会いたかった、と抱き着いて泣き崩れるようなことにはならずに済んだ。
食事の用意をしてくれた宿の人達が出て行ったのを確認したところで、すぐに悠人達に回復魔法をかけた。
一人ずつに回復魔法をかけたあと、自分達も旅の疲れがあったので、回復の歌を歌うことにした。
歌であれば、聞こえた全員に効果がある。
「どうぞ、お食事をおとりください。私のことは気になさいませんよう」
歌いながら様子を見ていると、少しずつ三人の顔色が良くなっていくのが分かって、来たかいがあったと思えた。
疲れすぎると食事ものどを通らなくなる。
食事を消化する体力もなくなって、食欲が無くなるのだ。
だから私は歌い続け、満足のいく量を彼らが食べきるのを見届けた。
その間、エドガーとエミリーが、私達がここにいるいきさつを説明してくれた。
それに、エドガーが私の両親から預かったという手紙も騎士団長に渡していた。
何が書かれているのか気になったけど、グレイ騎士団長はさっと目を通すと、それを胸ポケットにしまってしまったので、分からずじまいだった。
三人が食べ終わったところで、私も歌うのをやめ、覚悟を決めてお願いをした。
「どうか、私を、私達を、仲間として同行させてはいただけませんか?」
エミリー達の説明で、両親は納得して私を送り出してくれていることは伝わっているはずだ。
両親が納得するほどの熱量をもつ私の願いは、この三人に届くのだろうか…。
「お嬢様は、何年も前から勇者ご一行の仲間になるべく努力を重ねていらっしゃったのです。お嬢様のお力があれば、皆さまこれからの旅はとても楽になること間違いなしです」
…エミリー、後押ししてくれるのはありがたいのだけど、あまりハードルを上げないでね…。
貴公子の冒険者三人は顔を見合わせている。
でも…その表情に戸惑いはあっても拒否はない、と見て取り、畳みかけた。
「今、体験していただいた回復系が私の一番の得意分野です。戦いの前衛に立つことに不向きではありますが、きっときっとお役に立てると思うのです!」
「回復役がいてくれると助かるのは事実だよな」
「確かに。攻撃に専念できるし」
王子殿下達はどうやら乗り気のようだ。
リーダーは…?
「…よくあのガードナー公爵が許したもんだよなぁ…娘を溺愛している話は私の耳にまで入ってきたものだけど。で、その公爵夫婦が許可を出して送り出してくれたんだ。ここはありがたくその話、受けさせてもらおう。…いいよな?」
三人がお互いに頷きあった。
やった!
「では!どうぞこれからよろしくお願いいたします。改めて、私と同行の三人を紹介いたしますわ。私付きのメイドのエミリー、そしてこちらは元近衛騎士ですので、ご存知でしょう?今は私とエミリーの護衛としてきてくれております、エドガー。そして最後に、ジャン、です」
「さっきから気配がうっすらしてるのがジャンさん?」
「ええ。内密に願いたいのですが、彼は庭番ですので、なかなか姿を現しません」
さすが騎士団長。ジャンの気配が分かるらしい。
みんなそれぞれに驚いた。
私達は、居るのを知っていても気配も何も感じないのに、それを感じられるの?という驚き。
殿下達は、単純に騎士団長スゲー!という驚き。
とにかく、仲間にしてもらえたので、安心して、私達も夕食をとった。
ジャンは一緒には食べないといい、せっかく仲間になったのだし、とお願いしても、姿も見せてくれなかった。
相変わらずのケチぶりだ。
ジャンの返事も私にしか聞こえないし、悠人が思わず、本当にいるの?と呟いたのも無理はないと思う。
でも、それがジャンの癇に障ったらしい。
悠人の手のそばぎりぎりに、ナイフを突き立ててきた。
あとでがっちり文句を言ったけど、今後は仲間として助け合っていかなくてはならないのだ。
スタートがこれでは困る。
「いや、マリア嬢、疲れが本当にとれたよ、ありがとう」
騎士団長さんにお礼を言われると、以前のことがあるだけになんとなく恥ずかしい。
「私にできるのはこういうことだけです。でも、お役に立てるなら来てよかったですわ」
その後、明日は、とりあえずたくさん持たされた装備をチェックして、殿下達の装備を変更することになった。
そのあとは、私の戦闘慣れを目的とした一日とすること、となって、各部屋に解散、となった。
いよいよ明日から、私の、悠人との冒険が始まる!
ここ最近の気温の乱高下で風邪をひいてしまいました…。数日投稿をお休みさせてください。申し訳ありません。




