70マリア ゴブリン?
お昼休憩のために街道脇に馬車を止めた時、魔物が出てきた。
エドガーさんに見守られながら、私は念願の攻撃魔法を使ってみた。
残念ながら属性の相性が悪く、効き目はさっぱり、だったのだけど、その後、エドガーさんが一撃で止めを刺してくれて、私の初めての戦闘は終わった。
魔法攻撃なのでかなり遠くからで済んだのと、魔物への免疫が少しはできていたのか、初めてのときほどの恐怖は無かった。
これなら、エミリーに宣言した通り、魔物に慣れていけそうだ。
ちょっとほっとした。
夜、町の宿屋で、何とか全ての目録とそれに付随する説明書を読み終えた。
お父様…もしかして…ちょっとバカなのかしら。
魔法のカバンにもかなりモノが入っている上に、ぱんぱんに荷物が積まれた荷馬車もつけて、一体どれだけお金を使ったの?
今回持たせてくれたものの中で、魔法のカバンと、目立たなくなるブレスレットが特に大事なもののようで、ブレスレットについては目録にもなく、説明もなかった。
素早さの上がる髪飾りや指輪、防御力の上がるケープ、攻撃力の上がる腕輪、などなど、高価なアイテムがごろごろ馬車に積まれている。
そりゃあ、警護も三人つけるよね…。
続いて、こちらは薄い、勇者一行についての現状報告とやらを読んだ。
軽い気持ちで読み始めて、思わず座りなおした。
これから向かう村には、村のそばの森の奥に洞窟があり、その洞窟にはゴブリンが棲みついているというのだ。
塞いでいた洞窟の入り口が開いてしまったので、洞窟から出てくる魔物を減らしつつ洞窟の入り口を塞ぐ、という依頼が冒険者ギルドにでていて、勇者一行はそれを受けているらしい。
ただ、冒険者としてのレベルが本来はその依頼のレベルに達していない為、現状厳しい戦いとなっている。
…要約するとそんな感じだ。
大事な点は、ゴブリンが、というところだ。
なんて厄介な…。
思わず眉間にしわが寄る。
***
ゴブリンというのは、神獣でも精霊でもない。妖精の一種とされている。
ただ、妖精を精霊のくくりに入れることもあるため、その辺りの学術的な分類は決着を見ていない。
ゴブリンには雌雄があり、ものを食べ、繁殖をし、簡単なコミュニティを作り上げるのが特徴である。
見た目は、土色や灰色などの肌色で、これは地域によって異なり、成体でも、人間の五歳位の幼児程度の身長までにしかならない。
しかし小柄とはいえ怪力を持っている。
そして稀に群れの中に上位種が混ざっていることもある。
上位種は人間の成人男性に近い体格を持ち、様々な点で通常のゴブリンよりも優れていて、大抵はその群れを率いている。
さらにもっと稀に、大きな群れには王がいることがあり、そしてその知性は高く、その王は魔法を使えるのが常である。
王の知性が高かろうが、ゴブリンが人間を餌としか認識しない上、人を見かけるとどのような状況でも必ず殺しにかかってくる点で、ゴブリンは魔物の括りとなり、人間側もゴブリンのことは見かけたら有無を言わさず倒すべき存在、としている。
それでも、コミュニティを構築出来るほどの知性があるなら、せめてゴブリン王とのコミュニケーションがとれないものか、とチャレンジした学者は、諦めるか、残念な結果になった。
諦めた方は、ゴブリンの言語が人間の耳では聞き取れるかどうかの高音域であり、言語と認識できないと分かって撤退した者、残念な結果になったのは、ゴブリンに喰われた者、だ。
さらにゴブリンが厄介な存在と認識される理由はいくつかあるが、そのなかでも特に大きな理由とされているものが二つある。
まずは、大抵数匹のグループで行動し、短剣や斧、簡単な防具も身に着けている、といった、戦闘での理由。
それから、その巣は洞窟であることが多く、大きな群れを討伐したと思っても、狩り残しがどうしてもいて、それらがまた繁殖して増えてくるので、なかなか根絶できない、という理由…。
***
ざっと魔物概論でゴブリンについて学んだことを思いだすだけで、げんなりした。
出発する前、復習していたのですぐに思い出せた。
人里のそばに、ゴブリンの棲む洞窟があるのでは、それはその入り口も塞ぐというものだ。
でも、それが開いてゴブリンがぞろぞろと出てきている、というのは…このギルドに出された依頼を早急に完遂しないと、大変な被害が出るだろう。
何の手も打たずに放置すれば、この村は将来的には人が住めなくなる可能性がある。
しかもそれがこんなに王都のそばの村だなんて…。
これから向かう村の行く末がとても心配になった。
でも、私達がゴブリン討伐程度で、もし失敗するようなら、ブラックドラゴンなんて倒せないだろう。
…これが勇者の、悠人の、やるべきこと…。
そう思うと胸の中に重苦しいものがたまっていくのを、どうにもできなかった。




