64マリア 白状します
エミリーにした話を要約すると…。
今日騎士団長と話をしたことで、騎士団長はアレックス殿下とハルト殿下の、『勇者を探す旅』についていく、ということが分かった。
でも、私は、実は殿下達が勇者ご一行ではないかと疑っている(本当は確信しているけど)。
そして今まで黙っていたけれど、私は勇者の旅の仲間になりたくて、勉強と魔法を頑張ってきた。
だから、騎士団長が勇者ご一行と合流するのなら、私も仲間に入れてもらおうと思う。
でもその良い方法が思いつかない…。
ここまでで、まだ話の前半部分だったのに、聞いていたエミリーがぐったりした。
大丈夫か訊いてみたけど、先を、と促されたので続けた。
どうしたら仲間にしてもらえるかは思いつかないけど、とりあえず私は、家出をしようと思っている。
社交界でなんだかんだと難癖をつけてこられそうだから、家に迷惑をかけないためにも、家出をして勘当してもらうのが一番だろうと思うのだ。
とりあえず家出に当たって、ある程度のお金は家から頂戴して、旅に必要な馬車とか旅装を整えようと思う。
なんなら、女性用の鎧をオーダーしてもいいかも…。
「お嬢様、いくらお体に合わせてオーダーメイドしても、金属の鎧を身に着けるのは無理でございます。どれだけ重いものかご存じないのですか!」
とうとう話の途中なのに、エミリーにキレられた。
「そもそもお嬢様が家出をなさる時点で、この家には多大な迷惑が掛かるのですが、どうしてそこはお分かりにならないのでしょう。お嬢様は賢いのかバカなのか…時々迷いますわ…」
キレているエミリーに随分なことを言われた気がするけど、エミリーは真剣な顔で言葉を続けた。
「この際、細かいところは置いておいて…一つだけ確認でございます。お嬢様、勇者様のブラックドラゴン討伐の旅についていきたい、そのお覚悟は、本当でございましょうか」
エミリーがとても真剣だったから、私も真剣に答える。
「ええ、本当よ。あのとき、森に入ったのも、自分が勇者一行についていける力があるか自分で確かめたかったのだもの」
「あのときの魔物で、あんなに恐ろしかったのでございますよ?もっと恐ろしい目にあうこと間違いなしでございますが?」
「そ、それは慣れる…と思うの。というより慣れてみせるわ」
エミリーは、はあああああー、と、それはそれは長い、盛大なため息をついて…。
「わかりました。お嬢様が本気なのでございましたら…私エミリーも、お供いたします」
「ええっ?!!!」
「お忘れですか?エミリーはどんなことがあっても、お嬢さまについていく、と申し上げたではありませんか。その言葉に嘘偽りはございません。それに、エミリーがいなければ、一体だれがお嬢様の御髪を整え、朝のお茶を淹れて差し上げるのですか。ええ、なりません。他の者になど任せられません。だれもお世話をしないなど、さらにもってのほかでございます。お嬢様のその美しさはエミリーが守り抜きます!」
鼻息荒く、エミリーに断言され、あっけにとられてしまった。
でも家出をするときに、どうやってエミリーを出し抜くかどうしても思いつかず、まあいっそと話したわけだけど、お嬢さまの家出についてくるメイドって…。
「ところでお嬢さま。家出の件でございますが、家出をなさる前に、まずは若旦那様と若奥様に、ご相談をしてみてからでも良いのではありませんか?」
「え?家出したいんですけどいいですか?って」
「……違います。ご自身の能力を活かして勇者ご一行に同行したいのです、です」
ああっエミリーがいらついている。
「それが却下されてからの家出でも遅くはございませんわ。ではエミリーは旅の準備を始めますので、お嬢さまには他の者をつけますから、どうぞ若奥様のところへご相談にいってらっしゃいませ」
「ええ?今すぐ?」
「…お嬢様のお覚悟はその程度、ということでございましょうか」
いいえ、そんなことは、…ともごもご言っているうちに、どっちが主か分からない状況で、私はエミリーに部屋からぺいっと出され、その勢いのまま、お母様に会いに行った。
お母様は何か書類を一生懸命に書いていたけど、ペンを置いてくださった。
「なあに?また何かやらかして、その報告に来たのかしら?エミリーがいないようだけど…」
前科があるだけに、ちくちくと刺さる。
「いえ、その…やらかしたのではなく、これからやらかしたいのです…」
お母様の目が鋭くなり、思わずひっと怯みそうになる。
いやいや、お母様で怯んでいては、魔物になんて立ち向かえるわけがないわ!
自分を鼓舞して、ぐ、っと体に力を入れる。
「詳しく聞かせてもらえるかしら?」
お母様は人払いをすると、私に椅子を勧めて、じっくり聞いてくださる姿勢をみせてくれた。
自分に魔力があることがわかり、最初はただ興味が尽きなくて没頭したこと。
でも、ブラックドラゴンが湧いて、世界が大変な時代になり、勇者様がブラックドラゴンを倒しに行くときには、必ず仲間がいたことを本で知り、それからは勇者様の仲間になりたくて今まで努力してきたこと。
先日の無謀な行為は、その思いが募って暴走した結果だったこと。
今日、騎士団長様にお会いしてお話しているうちに、騎士団長様が勇者様御一行の仲間になられるのではないか、と気付き、私も同行出来ないものか、と居ても立ってもいられなくなり、こうして話に来たこと…。
ところどころ、悠人のこととか伏せてあるのでちょっと曖昧にしたままだけど、なんとか話し終えた。
私の話が終わっても、お母様がしばらく黙っていたので、生きた心地がしなかった。
何しろ表情ひとつ変えないのだ。
お母様ってもしかして敵に回すと怖いタイプではないかしら…そんなことを思っていたら、たった一言、「そうですか」、というと立ち上がって、窓のそばへ行き、何か呟いた。
その後、くるっとこちらに向き直ると、「そんなおおごとを、お父様と相談しないで何の判断もすることはできません、部屋で大人しく勉強でもしているように」と言いつけられた。
『何を考えているの?バカな娘ね!また謹慎よ!』…とでもいう流れになるかと思ったのに…。
その話をしようと、すごすごと部屋に戻って、エミリーを探したら、エミリーが急遽、午後の半日休暇をとったと聞かされ…このもやもや、どこに吐き出したらいいのよ!とじたばたした。




