63 マリア 騎士団長とお茶
その夜、帰宅したお父様に各店舗を回ってきた結果をお伝えしていると、思わぬ話を教えてもらえた。
騎士団長様が一身上の都合により、しばらく休職なさることが決定した…というのだ。
以前、お世話になったお礼を伝えに会いに行ったときは王都にいなかったので、タイミングをはかっていたら、そんなことになっていたとは…。
このままではお礼の機会を逃してしまいそうだ。
詳しく聞くと、もう数日中には休職願いが受理され、副団長に騎士団長代理の辞令が出る、という話で、慌てた。
次の日の早朝から手土産のための簡単な焼き菓子を焼いて、午前中には面会にこぎつけることができた。
今度は朝一番に使いをだして、お会いするための予約を取り付けていたので、すんなりと応接室に通してもらえた。
「ああ、これはじゃじゃ馬令嬢。お元気そうで何よりです」
私のご挨拶に返ってきた言葉がこれだったので、後ろでエミリーがきーっとなっていそうな気配がしたけど、この方にとっての私は、じゃじゃ馬令嬢だろう。
「その節は大変お世話になりまして…」
お礼と、ご迷惑をお掛けしたお詫びをして、手土産を渡した。
団長さんも大人の余裕で、お礼もお詫びも、手土産も受け取ってくださった。
焼き菓子なのに気付いた団長さんが、昼食までまだ間があるし、午前のお茶にしよう、と私を誘ってくださったので、ご一緒することにした。
この方も侯爵家の方。こういうのも社交の一端だ。
我ながら上出来なお菓子をつまんで、珍しい美味しいお茶をいただいていたら、すっかり打ち解けて、話が弾む。
どんな年代の男性とも雑談していた弁当屋のおばちゃんの会話スキルをなめてもらっては困る。
お菓子は私が作ったことを白状した代わりに、休職中は世界を旅する、という驚きの話を聞かされた。
「このような危険な時代に何故わざわざ…」
驚きを隠せない私に、こんな時代だからさ、と団長さんは肩をすくめてみせる。
「騎士団長様ほどのお方でも、さすがにお一人では無理ではございませんか。どなたとご一緒に?」
ぶっこんでみた。
「そうだね、一人では本当に無理だねぇ…ま、弟子がね」
「お弟子さん…」
「そう、可愛い弟子が、どうしてもっていうから」
何か思い出したようで、嬉しそうに微笑んだ。
「そんなにかわいがっていらっしゃるお弟子さんがいらっしゃるのですね…」
「二、三年で戻って来られればいいな、と思ってはいるけど…まあ、予定はあってないようなものでね」
「そんなに長く…」
そんなに今後も会えないのかと思ったら、なんだか急に残念な気持ちになった。
しっかり話をしたのなんて、今日が初めてだというのに…きっとこの人当たりの良さのなせる業だろう。
そういえば、家格と人柄と実力全て揃っているということで、随分若いうちに、殿下達の指導担当になった、という噂を聞いたことがあった。
なんとなく納得する。
………ん?殿下の指導…?
…っていうことは、弟子ってもしかして…。
「そんなに長く、殿下達のお守りは大変でございましょうね」
「そうだなあ。ガタイはいいけど意外と…って!」
にっこりと笑って見せた。
語るに落ちましたわね。
私を小娘と侮って油断して下さっていたお陰だわ。
「あの、そのーどうか、内密に!」
顔を寄せ、声を潜めて、頼むよ、と懇願された。
幸い、この話が聞こえたのは私のそばのエミリーくらいだ。
「殿下達の勇者捜索の旅についてゆかれる、ということでございましょう?」
ひそひそとそう返したら、嬉しそうに、そうそう、と頷かれた。
…勇者捜索の旅。
それをこんなにうれしそうに肯定したということは、何を意味するのか。
このこと自体は、公にされていることなので、私が知っていてもおかしくはない。
それに同行する人物が誰なのか、までは知られていないにしても。
でも。
私は悠人が勇者を探しに行っているなんて思ってもいない。
だって悠人が勇者なのだから。
だから、この人はすなわち、勇者の仲間として旅をするんだ。
一瞬、私にそのことを指摘された気になって焦ったけれども、そのあと勇者探索と言われてホッとしたということは、…殿下達勇者を探すご一行と本当の勇者ご一行は、別物扱いなのかもしれない。
そのあとは当たり障りのない話を少しして、私は団長さんの前から辞した。
帰り道、頭の中では今後どうしようか、とものすごい勢いで色んなことを考え続けた。
屋敷に戻り、昼食を済ませても、まだぐるぐると考え続け…しびれを切らしたエミリーに「お約束をお忘れですか」と怖ーい声で言われてハッとした。
エミリーには何か行動を起こす前に相談する約束だった。
私の部屋で、エミリー以外人払いをし、念のためドアから遠い位置に椅子を移動させて…はっきりとはしていない考えだけど、と前置きをして、話をした。




