62マリア 成人しました
私は謹慎がとけてから、魔法の訓練は回復魔法や補助魔法に特化することにした。
もともとそちらの適性の方があったし、得意なことを伸ばす方が得策だと考えたのだ。
そして、意外なことがあった。
一か月間、新しい知識の詰め込みをしなかったことで…皮肉なことに、私の魔法の威力と種類が一気に増えたのだ。
新しいことを学ばない分、今まで学んだことを折にふれて頭の中で反芻していた結果、自分の使える魔法についての理解が深まり、あるとき、魔法理論がすとん、と自分の中におさまった感覚があった。
そしてそれ以降、あの理論でこの効果の魔法ということは…こういう魔法を作るにはこの理論で…とイメージすると、その通りの魔法が作り出せた。
魔法の先生には、才能に驚かされる、と目を見張られたけど、私は伊達や酔狂で魔法の勉強をしているのではない。
こないだはバカな行動を取ってしまったけど、全ては悠人の助けになりたい一心なのだ。
そんな中、私は十六歳の誕生日を迎えた。
成人の儀式を、城下町にある大神殿の内殿で行った。
大神殿の内殿で成人の儀式ができるのは、王族と王家の分家である公爵家まで。
ハルトもきっとここで私と同じように成人の儀式をしたのだろうと思うと感慨深かった。
その日の大神殿は、私のために、色々と普段とは違う手配がされていたらしい。
いつもより飾られている花が多いとか、その花が女の子らしい愛らしいものが多い、とか。
勿論、両親が多額の寄付もしたんだとは思うけど…。
大神殿の中になど入ったことがなくて、普段とどう違うのかなんて気付いていなかった私に、神殿側から私の担当としてついてくれた巫女さんが色々と教えてくれた。
そして、その巫女さんとは話をしているうちにすっかり打ち解けてしまった。
年頃も同じくらいだったし、神殿の巫女さんには回復系の魔法を使える人が多く、その巫女さんも使える、ということで、回復魔法談義で盛り上がったのだ。
儀式のあと、成人した公爵家以上の家格の人間ならば、いつでも大神殿の内殿に参拝できる、と教えてもらい、仲良くなった巫女さんに会うためにも、参拝しにくる約束をした。
魔法の使える女の子とは初めて知り合ったのだ。
元は伯爵家の令嬢だったのだそうだけど、お兄さんが優秀な魔導士で、お兄さんから魔術や魔法についての話を聞いているうちに、正式に習っていない回復系の魔法を発動させてしまい、その能力が高いことで、出家して神殿の巫女となったのだとか。
私も悠人にこの世界で再会していなかったら、巫女になっていたかも!と思うと、余計に親近感が増した。
そんなことがあって機嫌のよかった私は、その日の夜の初めての夜会も、緊張をしつつも、楽しむことができた。
大勢の大人たちに紹介をされ、記憶の中の貴族名鑑と照らし合わせながらご挨拶をした。
貴族名鑑の暗記は、王妃陛下や側妃殿下とのお茶会のお陰で、歳が近い令嬢達はかなり顔見知りだったため、そのご両親たちを覚えるようなもので、楽だった。
そして、とりあえず公爵令嬢としてケチのつけようがないだろう、という言動の結果…どこぞのおじさまおばさまの心をつかんだようで、うちの息子ですといった類の息子の紹介と、果敢に直接話しかけてくる若い男性たちの多さに顔が引きつりはじめ、途中からはお父様やお母様が盾になってくださった。
そんな風に、なんとか無事に社交界デビューを果たすことができたのだった。
そして、成人した私は、お母様の手伝いをするようになっていた。
その日も、両親の代理で、城下町にある、我が家で経営しているお店を回っていた。
領地の特産品を直接販売もしているのだ。
帳簿もチェックし、不正がないことを確かめる。
最後にポテトチップスの店でのチェックも終えて、自分のおやつ兼、味の抜き打ちのチェックのために店頭にある商品を取りに行こうとして…店に入ってきた人物を見て驚いた。
悠人!あなた、どうしてこんなところに!
そして、前回見かけた時とは見違えるほどに、また、たくましくなっているじゃない!
心の中では大騒ぎだけど、話しかけるのが、もはや怖い…。
以前は仲良くなりたいと思っていたけど、最近は、話しかけると、自分が泣き出してしまうような気がするのだ。
慌ててバックヤードへの通路に引っ込み、そっと様子を伺う。
悠人は、目をキラキラさせて、オーソドックスな塩味と、高級路線のブラックペッパー味を手に取った。
悠人の好きなコンソメ味は、まだコンソメの粉末を開発できていないんだよ、無くてごめんね、と心の中で謝る。
悠人が自ら会計に並ぼうとしているので、ここは元の世界じゃないのよ、お付きの人がいるでしょう、と慌てていると、付き従っていた侍従さんがやっぱり大慌てで悠人の代わりに並んでいた。
従業員からは何事でしょうか、という顔で見られたけど、取り繕っていられなかった。
とにかく、瞬きを惜しんで悠人を見つめた。
「お嬢様、不審にもほどがあります…」
エミリーが咎めても、こんな機会はなかなかない。
帰っていくのを見届けてから、盛大にため息をついた。
「お嬢様がご覧になっていたのは…?」
帰りの馬車の中で、ひそひそとエミリーが訊いてきた。
「ハルト殿下がお忍びでいらしていたのよ。なんだか変装しているのか魔法でもかけたのか、いつもと感じが違ったけれどね」
私もひそひそと返す。
エミリーがやはり、という顔をする。
「お顔をしっかりと覚えていなければ、分からないほどでございましたね。あのように存在感のない方ではありませんものね」
「そうね…」
あいまいに笑う。
私は悠人がどんなに変装しようが、我が子だから、分からないなんてことはない。
どんな人ごみにいても、きっと見つけ出してしまうだろう。




