58ハルト 埋没できます
次の日の午後になって、ようやくグレイが騎士団長を休職して、僕らについていくことを許可する辞令がでた。
僕らはその日のうちに出発することにした。
僕が、最初の旅立ちのときにはぐずぐずしたけれど、一旦旅が始まってしまってからは、結構焦っていることは周りに伝わっていたようだ。
僕が頼んでいた写真の模写も間に合い、模写はペンダントの中に仕込んでもらった。
隠しボタンを押すと、二枚貝のように開き、その内側に父さんと母さんの顔がある。
両親の顔をいつでも見られるように。
そんなものを持って歩いてるとばれたら、さらに子ども扱いされそうで、こっそりと胸元に隠した。
そして、昨日は晩餐にも、今日の朝食にも昼食にも顔を出さなかったクリスが、目の下にクマを作って、新しいアイテムを持ってきた。
「見てー。ほんとは金属のブレスレットに仕立てたかったんだけど、そうするとガントレットしたときに痛いかと思って。また糸で編んだブレスレットにしたよ」
受け取った新しいブレスレットは、テニス部の友人が使っていたリストバンドのようなものだった。
前よりも少しだけ幅広になっていて、手首の保護としての機能もありそうだ。
早速つけてみる。
糸の編み方や織り方が前のとは違っていて、ただの装飾品としても通用しそうな美しさだ。
「すごく綺麗な模様だね」
「機能美とでもいうのかな…ふふ、どう、効果ばっちりでしょ?」
同じくつけてみているアレックスとグレイを見る。
「ふぉぉぉー」
びっくりして変な声が出た。
「ね?すごいでしょ?魅力の減退だけでなく、その存在を気付かれにくくする…気配を無くす、とでもいうのかな?恐らく、魔物にも今までよりは気付かれにくくなるはずだよ。でもこれ、もともと目立たない感じの人が装着すると、目の前にいてもうっかり気付かない、なんてことにもなりかねない代物だから、絶対に他の人に知られてもいけないし、身につけさせちゃだめだよ。自分で作っておいてなんだけど、僕、とんでもない物作っちゃたんだからね!」
クリスが得意げな顔をするだけはある。
本当にこれは、とんでもない物、だ。
今、キラキラしい王子のキースとジュリアスとクリスが傍にいるお陰で、グレイやアレックスに全く注意がいかない。
いるのを知っているから認識できる程度だ。
これは町にでても、一般庶民程度に埋没できる!
「クリス、本当にありがとう!」
またしても食事や睡眠を削ってアイテムを作ってくれたことに感謝を告げると…クリスに悲しい顔で首を振られた。
何?
…なんだ…?どうして悲しがらせた…?
しばらく考えて、もしや、と思いついた。
「クリス兄様、ありがとう?」
僕が言った途端に、クリスがぱっと顔を輝かせ、僕に抱き着いた。
「どういたしまして!いつでも僕を頼って?」
耳元でそういうと、満足そうに「じゃあ僕、もう寝る。気を付けて行ってきて」と部屋へ引き上げてしまった。
数少ない人達に見送られて、僕らは暗くならないうちに、馬車で出発した。
目的地は、あの、洞窟のある村だ。
グレイが仲間になったことで、あの村が冒険者ギルドに出している依頼に、チャレンジできるようになったのだ。
冒険者は命がけの仕事が多いため、ギルドが実力と仕事の内容のつり合いが取れているか、かなりシビアに判定をする。
今回は王都のギルマスが、グレイと知り合いでもあり、僕らが普通の冒険者でないことを知っているので、この依頼を受けられた。
今、他に三組、この依頼に挑戦中らしい。
村に着いたときには、もう他の冒険者によって、依頼が完遂しているといいのだけど…。
そう思いながら、馬車の中で仮眠をとった。
整備された街道でもあり、途中の町で馬を交換した以外、馬車を休みなしで走らせたことで、普通は二日の旅程の村に、次の日の日暮れ頃には着くことができた。
ずっと御者をしてくれたグレイは寝ていない。
僕も早くそれくらいの体力をつけなければな、と思う。
クリスの新しいブレスレットの効果は抜群で、宿でも食堂でも、全く注目されなかった。
むしろ、料理を注文するときは、大きな声を出さないと気付いてもらえないくらいだ。
ずっと馬車に揺られて、ときどき仮眠をとっただけだった僕やアレックスも疲れていたし、もちろん寝ないで御者をしたグレイも疲れていたので、お腹がいっぱいになったらすぐに、宿のそれぞれの部屋に引き上げ、眠ってしまった。




